バルジ大作戦 考察.1「昭和の黒船」


輸入されたCRT

 確か、ホビージャパンから発売されていたウォーゲーム雑誌「Tactics」創刊号でしたか、表紙を捲った裏に日本製のウォーゲームの広告が掲載されていました。

 屋や青の強いセピア色を基調にしたモノクロで映し出されたボードが広がり、ドイツ軍ユニットが今にも重要都市「サン・ヴィット」に襲いかからんとしている図柄が印象的なのを今でも覚えています。

 私が日本製のウォーゲームの存在を初めて知った瞬間でした。

 日本人が創ったウォーゲームと海外から輸入されたウォーゲームとの違いもその頃の幼い私には理解できず、海外製品より安く購入出来た「バルジ大作戦」に仲間とのめり込む毎日でした。

 早速手に入れたゲームで仲間と幾度と無く“日本製”のアルデンヌの森を彷徨ったものです。

 あの頃からずっと頭から離れずにいた疑問があります。

何故「バルジ大作戦」は6D2なのか?

 なんとなくではありますが、作戦級と呼称されるクラスのゲームのCRTに使用するダイスは6D1(六面体ダイス一つ)のイメージがあり、バルジ大作戦(以下「バルジ」)をやる度になんとなく、二つのダイスを振る行為が引っかかっていたものでした。(戦術級は大ベストセラーの”SL”やエリアスタイルを確立した”SOA”なども6D2でしたね。)

 今回は、1980年代の日本の若者たちを数知れず“ウォーゲームの沼”に引きずり込んだに違いない、日本製ウォーゲーム黎明期の傑作、エポック版「バルジ大作戦」を考察して行きたいと思います。

 「バルジ大作戦」と銘打つ作品は当時でも複数存在し、その全てがアメリカ製のゲームでした。Avalon Hill。SPI。GDW。当時の名だたるメーカー名が思い出されます。そのメーカーが当時よりさらに十数年前から精力的に制作していたゲーム群が堰を切ったように日本に流れ込んでいた時代です。

 ゲームボード上に再現される個々の戦闘を彼我の戦力比・防衛地点や地形の種別の有無を数値換算し、無作為に抽出した数を戦闘結果表に照し合せてゲームに結果を反映させる。

 当時の日本の若者にとり非常に斬新なイメージでそのシステムは評価され、海外製のCRTはリアルそのものに映ったと思います。軍事大国「アメリカ」からウォーゲームとCRTの基本が誕生したのは自然な流れだったのではないでしょうか。

 こちらが初期の戦闘結果表になります。Avalon Hill 社製「TacticsⅡ」のものです。戦力比とシンプルな戦闘結果。そして戦力比の比率換算表からなるシートは現在からすると古色蒼然たるものですね。

 当時の私達は今まで知らなかった情報がこのシートには眠っている! 位の勢いでこの表を眺めたものです。

 そういった海外製品を相手にエポック製ウォーゲームは私にとってとても異彩を放つ作品群でもありました。まずは、海外製に比べて安い事が挙げられますか。当時バルジは3800円だったと記憶しています。Avalon Hill製品は通常5800円。喉から手が出るほど欲しかったSquadLeaferは6800円でした。まだ中学生の私には購入金額の高低は大問題でもありました。

 話がそれました。(笑)失礼。CRTに話を戻しましょう。

 とりわけ“バルジ”は戦闘結果を導く為、6D2を使用するので結果欄が11項目もあり、3対1の比率で攻撃しても、良い目と悪い目の結果が両極端で戦力を集結させた意味が無い、などと嘆く場面が多かった事を思い出します。ここで私は子供ながらに疑問を感じそれずっと不思議に思って何となく今日まで過ごして来ました。

 6D1ならば戦闘結果は6通り。どのような比率であれ最高6種類の結果しかゲームには反映しません、ですが6D2ですと各比率に11項目もの戦闘結果欄が必要になります。果たして必要なのか?…と考えてしまう訳です。戦闘結果は勿論、幾種類以上もあって良く、それを比率毎に確率を調整してゆく。

 ランチェスターの法則…でしたか、攻撃に参加する人員が増えてゆく毎に、戦闘力が大きい方がますます有利に、そして損害が少なくなって行く。という数理モデルがあったかと思いますが、それに照し合せれば比率の高低で結果の良し悪しにグラデーションを付ければ良く、11項目もの結果は多すぎるのではないか?「現実の戦争状況を抽象化し、デザイナーが抽出した問題を具現化し解り易く提示する」と言う命題を科せられたシミュレーションウォーゲームに必要だろうか? と今更ながらに大げさに考えてしまう訳です。

 そして、答えは簡単に出てしまいました。良いのです(笑)。デザイナーが必要だと考え、システムに密に盛り込まれた形ある意図は恐らく、全てのゲーム(おそらく、小説やミュージックなどの創作物全てに)隠されて、いつか一人でも多くの人に理解されることを夢見て眠り続けるのだと今では解釈しています。

 今回、バルジのCRTを解析してゆくのですが、つたない解釈が多々御座います。もしよろしければ、後日、メールにてでも、さらに踏み込んだ解析を皆様からご教授頂ければ、と望んでおります。

アメリカ製と日本製の違いを感じた「 マップ」

 海外製バルジに比べて、エポック製バルジは非常に抽象的に図柄が描かれているように思います。初めてエポック製バルジのゲーム盤(以後、マップと呼称します)を見た私の感想は“美しい”、と同時に“寒い”との印象を強く受けました。基本的にこのジャンルのボードはマップ感が強く、特に海外製のヘキサタイプのマス目を持つゲームは戦術級を除いてほぼ見てくれは“地図”です。ですがエポック製バルジは森の深さを濃緑、冬の寒さを白と二色のカラーリングが目立ちます。海外製がアルデンヌ地方の地図をそのままゲーム盤にした感じがしますが、日本製はアルデンヌの森と当時の季節“冬”を描いているように感じるのは私だけでしょうか。それはまるで“地図”と呼ぶより物語の“舞台背景”そのもので、より臨場感が増し“現場に居る“感が強いのです。

 息が凍り付きそうなほどの寒さの中、じっと深い森林にその身を隠したドイツ兵。

 戦車のアイドリング中のエンジンで僅かな暖を取る戦車兵たち。

 まぁ、当時の戦車がアイドリング出来るの?とか暖かさはどの位?なんて知識は小生には全くないのですが。(笑)

 そんな光景がよく頭をよぎりました。

 真面目な話に戻りますが、皆さんはアメリカ製のゲームにはそのような情景が浮かびづらく思いませんか。もとは軍人が戦争そのものの分析の為に始めた机上演習を民間の趣味の領域にまで落し込んだアメリカのWarGameは“国家間の争いを見事なまでに抽象的に纏め、兵士の生死に纏わる情動的な感情を一切排除した盤上遊戯”として一般大衆に広まりました。戦争という不条理を理解するインテリジェンスとしての側面を強調しながら。

 日本に紹介されたWarGameを日本の黎明期のゲームデザイナーたちは、どのように受け止めて、どのように吸収し、どのように創作して行ったのでしょうか。本来の所は当時のデザイナーしか知りようも有りませんが、日本製ゲームを改めて見直すことで、ゲーム制作の背景まで想像を巡らすことも、ウォーゲームファンの楽しみの一つとして許して頂ければ、と思います。

 考察.2「ステップロス/ 両軍比較」へ続く。


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