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【キズナバレット】「キリング・ナイト」【仮想卓ログ】#1

・はじめに・

 こちらは、『キズナバレット』の仮想卓ログ#1です。
 全部オレ状態なので、多少のぎこちなさはご容赦ください。
 基本ルールブックに掲載されているシナリオ「キリング・ナイト」を改変しております。
・画像について
 マップは、すぎた屋さんが配付されている無料マップ素材をお借りしております。
 記事の最後に改めてクレジットとして記載しております。

GM/プロンプター : 『キズナバレット』やろうの回です。
PL1 : キズナバレット?
PL2 : からすば先生のシステムだったね。
 ウチでやるのは初めてだ。
GM/プロンプター : はい。からすば晴先生のTRPGシステムに触るのははじめてです。
 でも2人は以前、「月と花」をやってましたよね?
PL1 : シェイクスピアになりそこねたやつか!
 あれは面白かった!
PL2 : 「なり損ねた」は草。あれがからすば先生だったんだね。
 今回もナラティブ系なのかな?
GM/プロンプター : さて。それは見てからのお楽しみ。
 当方も初めて触るシステムなので、それぞれ基本ルールブックをお手元に、参照しつつやってみましょうか。

▽世界観

 舞台は、現代、日本、TOKYO。
 大きな混乱を避けるため、公にはされていませんが、10年ほど前から世界各地で「キセキ使い」という悪い怪人が出没するようになりました。
 「キセキ使い」は、福音と呼ばれるナノマシンを使い、人智を超えた力を手に入れ、文字通り「奇跡」を騙っています。

PL2 : 神じゃないのに、奇跡なんて言ってんの?
 ヴァチカン、激おこプンプン丸案件すぎるな。
GM/プロンプター : お察しの通り後出のサプリでは、偽りの奇跡を正す教徒的なキャラクタを遊ぶこともできます。
PL1 : アンデルセン神父かな。
GM/プロンプター : ──時を戻そう。

 「キセキ使い」打倒のため、各国は秘密裏に知恵を出し合い、カウンターナノマシン・リベルを開発。
 また、それを利用してキセキ使いと同等の戦闘能力を持つ「ハウンド」、ハウンドを管理する「オーナー」……2人1組の「バレット」を作りました。

PL2 : なるほど、プレイヤーはそのどちらかを選んでPCを作る、って感じだ。
GM/プロンプター : そんな感じですね。
 我らが日本の警視庁も、秘密裏に「バレット」を有し、キセキ使いを抹消する部署が存在します。通称SID。
 あなた達のPCはSIDに所属する「バレット」です。

PL1 : なんかさらっと流されたけど、「ハウンド」や「オーナー」に成るには、なにか特別な素養とかがあるの?
PL2 : あっ、聞いちゃった。
GM/プロンプター : オーナーの敵性については現在も調査中で詳細は不明ですが、ハウンドになれる人間は、ある程度条件が絞られています。
PL1 : へぇ、それって?
GM/プロンプター : それでは、ハウンドの「作り方」をご説明しますね。
 まずは、福音の影響を受けた死体を用意します。
 ここに、21グラムのリベルを投与します。
 以上です。
PL1 : …えっと、倫理観が崩壊している音しかしないんですけど。
 それは、「キセキ使い」に殺された死体を、リベルを使って蘇生して戦わせてる、ってことであってるかな?
GM/プロンプター : その認識で大丈夫です。
 しかし、リベルの蘇生効果はあくまでも一時的な物です。
 リベルがもたらす効果は非常に強力ですが、精神面への影響が強く、戦闘のためにリミッターを解除するたび、思い出せないことや認識できないものが増えていきます。
 「ハウンド」と「オーナー」は、セカイと自分を繋ぐ強い感情…「キズナ」を砕きながら、戦うのです。もちろん、それが過ぎればロストします。
 「バレット」がたどる結末は、肉体が砕け散る「晶滅」、精神をリベルに支配される「残響体」の二つ。
 そろそろ解ってきましたね、「キズナ」「バレット」の意味が。
PL2 : つまり僕らは「弾丸」ってことさ。
PL1 : 泣ける。
GM/プロンプター : かなりざっくり纏めたけど、ここまで大丈夫かな?
 大丈夫じゃない場合は、素直にルールブックを読んでね。もっと丁寧にわかりやすく書いてあるよ。
PL1 : ある程度は理解した。

・舞台は現代日本
・PCは、二人一組で悪者の「キセキ使い」を抹消するヒットマン
・「ハウンド」は死体を利用して作られた戦闘人形

PL1 : こういう理解であってる?
PL2 : 大体あってるんじゃないかな。
 ちょっとハードな世界観で適度に心を痛めつつ、”おわり”のある関係性を暖めるエモ系。最近、TRPG界隈で流行ってるスタイルな気がする。『ツクモツムギ』とかもそうかも……ごめんなさい、適当言った。ちゃんとルルブ読んでないです。
 これ系って、システム面はけっこうシンプルで軽めな印象があるけど、どうでしょうね?
 …確実に言えるのは、このスタイルの走りはステラナイツの某ワールドセッティングってことだよ。
GM/プロンプター : よく喋るなぁ。
PL2 : 実を言うとバディものに目がない。
GM/プロンプター : じゃあ早速PCを作って貰おうかな。

▽PC制作

GM/プロンプター : それぞれお手元に空のキャラシをご用意くださいね。
 キャラクターの作り方は実にシンプル!
 なんとたったの4ステップ!

1 「ハウンド」or「オーナー」を決める
2 ネガイを二つ(裏と表で一つずつ決める
3 ヒトガラを決める
4 キズナを決める

PL1 : ヒトガラの項目、多いなって思ったけど、これはどちらかというとパーソナルデータか。
 過去や経緯、外見の特徴、好き嫌い得意不得意…。
GM/プロンプター : 詳細はまた喋りますが、シーン中にこのヒトガラをRPすると、判定のダイスが増えたりします。
PL2 : なるほどね。
 ――ネガイっていうのは?
GM/プロンプター : 行動の基準となる信念や願望ですね。
 キセキ使いへの「復讐」だったり、真実を追究する「究明」だったり。
 基本ルールブックに六つと、後出のサプリで四つ追加されて、合計10個ありますので、好きに選んでくださいね。
PL1 : キズナに関しては、ちょっと摺り合わせをしてからじゃないと決められないな。

GM/プロンプター : 「ハウンド」「オーナー」、それぞれどっちがやりますか?
PL2 : 僕、オーナーやりたいです。
PL1 : じゃあ私がハウンドだな。
 ちょっと乱暴なツンデレがやりたいから、…ネガイは表が「破壊」か「復讐」。裏はどうしようかな。
PL2 : 僕は……偽善者のマッドサイエンティストにしよう。
 表のネガイを「善行」裏が「究明」にしてさ。
PL1 : …「善行」いいなぁ。
 私も裏は「善行」にしようかな。
GM/プロンプター : やりたいことが固まってきましたね。
 では、二人でヒトガラを埋めつつ、摺り合わせをどうぞ。
 っいってらっしゃい!

――――――――――――――――――――――――――

GM/プロンプター : 整いましたかね?
PL1 : なんとか形にはなったかな。
PL2 : あとはもう…なるようになれだね。
GM/プロンプター : それでは、ハウンドから自己紹介をどうぞ。

PL1→世良華音 : アタシは世良華音。享年16歳、女。
 学校からの帰宅途中、キセキ使いの襲撃にあって死亡。
 アタシは、理不尽に日常を奪うキセキ使いを絶対に許さないし、SIDみたいに勝手に他人の死体を使い回す奴らも嫌い。
 ……でも本当は判ってる、戦わなきゃいけないこと。同じような悲劇をもう二度と繰り返させないために。
 っていうことで、ネガイは、復讐(表)/善行(裏)
 喪失は「聴力」。完全に聞こえないわけじゃ無いけど、全体的に聞こえが悪くて聞き逃しは多いと思う。騒がしい場所も苦手だし、無意識に声が大きくなってしまうかも。
 リミッターの影響で、普段はヒステリックを起こしやすい。相棒の佐伯に当たり散らす事も多いけど、この人なんにも響かないから、余計にイライラするんだよね。
PL2 : 一応、機嫌を取ろうとは思ってるよ。
 ただ、思春期の女の子って僕が思うよりもずっと複雑すぎてさ。
世良華音 : そういう所だ。
 初期キズナは、
 母が教えてくれた思い出としての【ピアノ】と、
 帰れないと思えばこそ考えてしまう【自宅】のこと
 …の二つにした。自己紹介として言うことはこれぐらいかな?
GM/プロンプター : 続いて、オーナーどうぞ。

PL2→佐伯蒼太 : 名前は佐伯蒼太。26歳、男。
 親友・菊地隼斗の失踪について調査していく過程で、キセキ使いやハウンドなどの存在に行き着いたんだ。最初はSIDで研究職に付いていたけど、オーナー敵性があることが判ってね。
 相棒である華音とは、仲良くしたいと思ってる。本当さ。でも何故かいつも怒らせてしまうみたいだ。
 ごめんね?
 ネガイは、善行(表)/究明(裏)
 喪失は痛覚。もともと共感能力に乏しくて、よく人の心解らないって言われます。
 リミッターの影響は依存症:煙草。紙巻き煙草のやさぐれ感が嫌だったので、パイプでも吸いたかったけど時代錯誤だし、ベイプをふかすことにしました。ここだけニッチすぎて説得力に欠けるから、併せて好きな物も水煙草に。
世良華音 : 水煙草って、『不思議の国のアリス』で青芋虫が吹かしてるアレでしょ?
 ちょっと賢者ぽい。
佐伯蒼太 : そう。
 でももしかしたら、時代感的に芋虫が吸ってるのは煙草の葉っぱじゃなくて……いや、皆まで言わないでおこうか。
 初期キズナは、
 失踪した親友の【菊地隼斗】
 孤独感の源泉としての【一人の食卓】
 ……裏「究明」の湿度を含んだ性質が出るところですね。
 僕の方も以上になります。

GM/プロンプター : ありがとうございます。
 それでは、PC制作の最後の仕上げをしていきましょう。
 ハウンドは、初期キズナのどちらかを選んで、「ヒビワレ」状態にし、かわりに「キズアト」を獲得してください。
世良華音 : ……ちょっと何言ってるのかよくわからない。
GM/プロンプター : 「キズナ」には、壊れかけた「ヒビ」状態と、完全に損壊した「ヒビワレ」状態があります。
 「ヒビワレ」状態の「キズナ」は、思い出せないし、認識できないです。
 そしてあなた達バレットは、「ヒビワレ」状態の「キズナ」の数だけ、《キズアト》という特殊なスキルを得ることが出来ます。
佐伯蒼太 : …なるほど。
 ハウンドは2つあるウチの1つが、すでに壊れた状態でセッションを始めるんだね。
 この料理(システム)を作ったシェフを呼んでくれ。
世良華音 : フレンチレストランじゃねぇんだよ。
 じゃあ、【ピアノ】を、壊します。
 《キズアト》はどれを取るべき?
佐伯蒼太 : 君が好きなのでいいよ。
世良華音 : じゃあ《善舞器官》を。
GM/プロンプター : 「キズナ」はセッションごとに1つ獲得できるので、頑張って相手の心に残るようなRPしていこうね。
佐伯蒼太 : でもソレ(キズナ)バレット(弾丸)なんですよね。
GM/プロンプター : 最後に、お互いへの感情――ペアリングマーカーの位置と色を決めて、PCはできあがりです。

 ペアリングマーカーは、ペアリングを行ったバレットの身体に浮き上がるバーコードのような印のことです。
 オーナーからの感情は、ハウンドの身体に。ハウンドからの感情はオーナーの身体に現れます。
 だから、マーカーの色と位置で、相手が自分をどういう目で見ているのか、一目瞭然なのです。

佐伯蒼太 : …それじゃあ、僕は華音の「背中」に「緑」のマーカーを付けようかな。
世良華音 : ……そういう感じか。
 だったらアタシは、佐伯の「首」に「青」のマーカーを付ける。
佐伯蒼太 : …あ、へぇー。そういう。
世良華音 : あからさまに意外そうにするな!恥ずかしい!

GM/プロンプター : それではセッションを始めて行きましょう。
 全員初心者ということで、基本ルールブックに掲載されている「キリング・ナイト」をやっていこうと思うよ。
 ……お手柔らかに。

▽シナリオトレーラー

極東の大都市、東京。
宝石箱のように美しい、夜のない街。

煌びやかな都市の陰で起きた大量殺人事件。
その犯人はヒトならざる力の持ち主であった。

キセキを騙る怪物を葬るべく、
夜の街へと弾丸が放たれる。

キズナバレット
「キリング・ナイト」

――キズナを砕き、キセキを殺せ。

▽導入フェイズ

[バレットの日常]

 SIDが管理する宿舎の敷地内に、職員の多くが入居するマンションがある。
 佐伯蒼太が朝食の支度を終え、一部のズレも無くテーブルに配膳すると、壁に掛かった鳩時計がちょうど七回鳴いたところだった。
「こんこん♪ 起床時間だよ、華音」
 世良華音の部屋には扉が無いので、ノックの音を口に出す。
 オーナー・佐伯蒼太の職務の一つは、ハウンドと呼ばれる相方の管理。その点で彼女の個室には扉を付けることが出来なかった。代わりに、お洒落なビーズカーテンがかかっている。
 薄暗い室内で、長い黒髪の少女がベッドからのそのそと起き上がる気配がある。
「朝食はテーブルに出してあるから、先に座ってて。僕、ちょっと洗濯機回してくる」
 リビングに戻ると、長髪をポニーテールの形に纏めた少女が先に食卓に着いていた。いつも前髪を真ん中で分けるので、今日もキュートなおでこが弧を描いている。
「お待たせ」
 テーブルに並んでいるのは、目玉焼きとベーコン、トマトの乗ったサラダと、味噌汁にご飯。
 朝食のメニューとしては、申し分ないと思う。なにかもう一品ぐらい大皿があった方がいいかと思ったが、朝だしこんなものだろう。
「華音は、目玉焼きになにかける派かな?僕は塩こしょう。君は? ――醤油? それともソース? ケチャップをかけても美味しいらしいよ。見たこと無いけど、マヨネーズかける人もいるのかな?」
「……昨日の晩、あんなに怒鳴り散らかしたのに、今朝も時間通りに起こしてくれるし、朝ご飯も作ってくれるんだ。優しいんだね、佐伯は」
 華音が吐き出すように言って目をそらす。その右手は、グーで箸を握っていた。
 もちろん佐伯は、彼女がちゃんと箸を持てる事を知っている。
 佐伯はにっこり微笑んで言った。
「優しいなんて言ってもらえて嬉しい、ありがとう。でもこれは、一緒に住むことになった時に二人で決めたことだから。食事は僕、掃除は君。洗濯物は持ち回り。…今日は水曜日だから僕の――」
「褒めてない! 皮肉だよ! わかんないの!?」
 佐伯は、少し眉を下げて困ったように首をかしげた。
「初めて外で食事したときも、アタシ言ったよね? お前の目を見れば解るって。どんなに甲斐甲斐しく世話を焼いたって、アンタにとってアタシはただの備品で、観察対象なんだ! …その証拠に、お前はアタシがどんなにヒスっても態度を変えない! 今だって、急に大声を出したのに、そうやってニコニコするだけで、なんにも言い返さない! 人を馬鹿にするのも大概にしろよ!」
 一息にまくし立てた華音は、顔を真っ赤にして肩で息をする。対照的に佐伯は顔色一つ変えず、彼女に笑いかけた。
「華音、少し落ち着いて。僕は出来れば君と仲良くなりたいんだ。オーナーとハウンドという関係である以上、互いを信頼し合う必要があると思う。もちろん、君の不安な気持ちにも、寄り添っていきたい。そう警戒しないで、ね?」
 その言葉がさらに華音の心を逆なでしたのか、彼女は音を立てて立ち上がると、水が入ったグラスを掴み中身を佐伯の顔面にぶちまけた。
「ふざけんな!気持ちに寄り添う? アンタにアタシの気持ちなんて、一生わかんねぇよ! ――殺されたと思ったら勝手に生き返らされて、あげくに戦えだ!? 部屋だって扉もないし、アタシだけじゃ玄関も開けられない! ある程度の自由は保障されてるんじゃ無かったのかよ!? こんなの、やっぱり籠の中のネズミと一緒じゃないか!」
 華音は一旦口を閉じ、反応を待っている様子だったが、変わらず佐伯は眉をハの字にして微笑むだけだった。
「……せめて何か言えよ! もういい! しらないっ!」
 それだけ言い捨てると、彼女はドスドスと音を立てて自分の部屋に戻っていった。
「――……やれやれ、また怒らせてしまったなぁ」
 ソファーに放り出してあるコートのポケットから、Gotek Xを取り出す。
「何がダメだったんだろう。メニューはおかしくなかったよね?」
 佐伯は、甘い香りの煙を吐き出しながら、自分の過失を指さし確認する。
 完璧な時間、完璧な朝食。中身の無い雑談、飛び散った水。
「…………はぁーあ、一緒にご飯食べたかっただけなのに。上手くいかないなぁ」
 軽くボヤいた時、テーブルの上に出してあったスマホが鳴った。

「こんこん♪ ちょっと話があるんだけど良いかな?」
 佐伯はあえて明るい声で、不貞腐れた華音に声をかける。
「あっちいって! 今話したくない!」
「そう。じゃあ、織川さんから仕事の呼び出しだけど、僕一人で行って断ってくるよ。悪いけど、留守番を頼んで良いかな?」
 すると、ベッドに跳ね起きた華音が、抱きしめていた枕を投げつけてきた。
「それを先に言えよ!!」

[事件への介入]

 202X年、12月27日。東京都霞ヶ関にある警察庁。
 世良華音は、エレベーターにて庁舎の地下20階に降りていくところだった。そこには、華音たちが所属する警察組織・SIDの本部が存在する。
 隣に立っているのは相方の佐伯蒼太。その顔は普段と変わらず、何を考えているのか解らない微笑を湛えていた。
 横目で彼を睨んでいると、ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。
 その音は、エレベーターの駆動音とは別種の音色で酷く目立つ。
 結局、いつもの癇癪を起こして朝食を食べ損ねてしまった。
「……っ」
「…お腹空いた?」
「な……何の話だ? アタシは、なんにも、聞こえなかった!」
 実際、自分の耳には殆ど聞こえなかった。
 ”リベル”の影響だろうか、以前より耳の聞こえが格段に悪くなっている。SIDの保護下で暮らしていくのに支障は無いが、普通の生活を送る中では困ることもあるだろう。
「ふふっ。僕、お腹の音が聞こえた、なんて言って無いよ」
「……っ馬鹿! ばかばかっ! 空いてないし! ぜんっぜん、空いてないしっ!」
 恥ずかしさと怒りでどうにかなりそうだ。
 感情にまかせて、佐伯の肩口を、ぽかぽか、と殴りつける。表情が変わらないところを見ると全く響いていない。

 キセキ使い。
 約十年前より、世界各地で暗躍し始めた犯罪者たちの通称だ。彼らは”福音”と呼ばれるナノマシンを使い驚異的な異能を操る。 
 キセキ使いたちに対抗するために編み出されたのが、ハウンドだ。福音の影響を受けた死者を、カウンターナノマシン”リベル”を使って改造・蘇生することで、同等の戦力を得ることが出来る。
 しかしその蘇生には重い代償が伴う。リベルは、宿主の精神を蝕み崩壊させる。リベルの活動を抑制する、あるいはハウンド自身の暴走を抑えるために、手綱を握る存在が必要になったのだ。それが、オーナーである。

 現在、キセキ使いが関与する事件や事故は、”K案件”と呼ばれ、警察庁刑事局特殊犯罪情報管理部――通称SIDが秘密裏に扱うことになっている。
 華音と佐伯は、そのSIDに所属するハウンドとオーナーなのだ。
 庁舎の地下20階、SID本部の部長室に通される。
 部屋には一人の女性が二人を待っていた。無造作に纏めた黒髪に、顔に大きな傷跡。
 SID本部長、織川楓だ。

「すみませんね、お待たせしてしまったみたいで。織川部長殿」
 佐伯が軽く頭を下げる。
 華音もそれに習うことにした。
「いや、構わない。急に呼び出したのはこっちだからな。オマエらに新しい仕事だ」
 織川楓は、まぁ座れ、と言って応接用のソファーを示す。佐伯が遠慮無く座るので、今度も華音はその横にちょこんと座る。
 慣れていないせいか、そわそわする。辺りを見渡したり、手遊びをして誤魔化そうとするが、なかなか落ち着かない。
「……佐伯」
「どうしたのかな?」
「緊張してるんだろ。世良華音は、この事件が初仕事になるだろうからな」
「部長が恐いんじゃないですか?」
「ばっ…!」
 華音がグーでヤツの横っ面を殴ろうとしたとき、あっはっは、と織川楓の笑い声が響いた。
「佐伯、オマエは相変わらず、空気を読む、と言うことを知らないな」
「よく言われます。でもごめんなさい。今のはわざと。――華音はお腹が空いてるんです。喧嘩して、朝食を食べ損ねたので」
「馬鹿! そこまで言わなくていい!!」
 本当は自分が一方的に癇癪を起こしたのだが、喧嘩、という言い方をしたということは、多少気を遣ってくれたんだろうか。
「そうか、では帰りに美味いものでも喰わせてやるといい。オススメのラーメン屋ぐらいは紹介してやる」
 織川は咥えた煙草に火を付けてから本題に入った。
「数時間前、新宿のクラブで殺人があった。一気に20人以上が解体されて、現場は血の海だ」
 とてもじゃないが普通の人間が成せる所業ではない。案の定、現場からは“福音”の残留が確認されたそうだ。
「つまり、犯人はキセキ使い、ですか」
 織川は頷いて続けた。
「問題は手口だ。”福音汚染”で喰っちまうんじゃなく、わざわざ切り刻んで殺している。…となると、殺人そのものが目的なんだろう」
 キセキ使いは食事による栄養摂取を必要としない。代わりに、福音を自らの身体から放出することで、周囲の有機物を分解吸収する。これを”福音汚染”と呼ぶ。
 このとき、影響を受けた人間の死体が残る事が希にある。それらが新たなキセキ使い――あるいはハウンドの素体となる。
「現場の解析班によると、数時間から数日以内に次の犯行に及ぶ可能性が高いという。オマエたちの仕事は、犯人を見つけ出し、抹消すること。わかったな?」
 華音は眩暈を覚えた。
 たとえどんな化け物だろうと、人間の形をしたモノを、殺せというのだ。そうしなければ、今度の被害は20人では収まらないかもしれない。しかし、未だに感情が追いつかないのだ。
 無意識に、隣に座る佐伯の袖をぎゅっと掴んでいた。
「仕事内容は理解しました。それで、オススメのラーメン屋っていうのは?」
 華音は耳を疑った。
「お、おまっ…なんでこんな話の後に、シームレスに飯の話ができるんだよ!」
「なんで、って。…華音がすごくお腹が空いてて、早く帰りたいみたいだったから」
「――…ふんっ!!」
 華音は平手でそのニコニコ顔をぶっ叩いてやった。
 織川楓は、煙草の灰を落として呆れたように少し笑った。

[ 佐伯 蒼太 ] 励起値 : 0 → 1
[ 世良 華音 ] 励起値 : 2 → 3

▽調査フェイズ

ターンテーマ表・クール(13) > 観察:あらためてパートナーを観察してみよう。なにか発見があるかも。

調査シーン1:世良 華音

 202X年、12月27日、夜。
 とある雑居ビルの警備室。宿直は一人で、夜間の仕事は監視カメラの確認と見回りのみ。
 世良華音は小柄な体格を活かし、排気ダクトの中から格子越しに警備員の動向を観察していた。
 織川楓から殺しがあったと報告されたクラブは、このビルの地下1階にある。
 窮屈で埃っぽくカビ臭かったが、店の入り口や、店内の監視カメラ映像を入手するためだ。しかたない。
(くそっ!なんでアタシがこんな泥棒みたいな真似を…! それもこれも、全部アイツのせいだ!)

 遡ること数時間前。
 ずずっ、と勢いよく醤油ラーメンを啜り、口の中をもごもごさせながら手元の調査資料をめくる。
「監視カメラ映像は入手出来なかったみたいだな。…調査に当った刑事の所感では、事情があって隠し立てしている様だったと」
 空いた箸で餃子を摘まみ、口に入れる。
「あつっ、あっつ…!」
「……美味しそうに食べるよねぇ」
「うっ……」
 向かいに座る佐伯が笑顔を崩さず、どこか含みのある言い方をする。
「あ、…朝は、その……ごめん。別に、お前が作る食事が嫌なわけじゃ無くて……」
「そっか、謝ってくれてありがとう。仲直りできてうれしいよ。嫌いなわけじゃ無いなら良かった。食事当番を交換する必要はなさそうだね。それじゃあ、話を続けようか」
「……」
 肩透かしを食らった。
「僕が思うに、この犯人はずぶの素人だ。監視映像を出し渋るほどの人物だったとは思えない。このクラブには事件とは別に、警察組織に首を突っ込まれるとマズイ人物も出入りしていたんじゃないかな」
「なるほど。その件が無事に済むまで、時間を稼いでるのか」
 佐伯はつけ麺を注文していた。華音が食べ始めるのを待って、なにか満足げにしながら割り箸を手に取る。
「うん。たしかに監視カメラの映像については、礼状を用意するなど時間をかければどうにでもなりそうだ。でも僕たちは、その時間が惜しい。多少強引な手段ではあるけど、実力行使と行こうか」

 と、いうのが事の顛末である。
 『一仕事終えたら一緒に晩ご飯食べようね』と言っていた佐伯は、別ルートから犯人に繋がる手がかりを追っている。らしい。
 華音は極力音が出ないよう、ポケットからスマホを取り出した。
 もうじき九時になろうとしている。
(もうこんな時間なのか。晩ご飯って時間も過ぎちゃったな。どうせアイツだって適当に一人で食べてるんだろうし。……ひと、りで?)
 思い返してみれば、佐伯はいつも誰かと食卓を囲みたがっていた気がする。ずっと、下手くそな気を遣われている、と思っていたが、少し違うのかも知れない。
(もしかして、寂しいのか? だとしたら、朝は本当に悪いことしたな。…でも、本気で嫌がってる風でも無い、よな? その程度のモンなの? ――んあー! やっぱり何考えてるかわかんない! 嫌なら嫌って言えよ!)
 華音が一人悶々としていると、目下の警備室に動きがあった。
 一人残った警備員が、よっこらせ、と席を立って部屋を出て行った。見回りの時間だろうか?
 すぐに帰ってくる気配が無いのを確認し、これ幸いと音も無く部屋に降り立つ。
 画像のデータが保存されているのは、机に置かれたデスクトップパソコンだろう。いくつかファイルを確認すると、すぐに目当てのデータは見つかった。
 しかし、ここで問題が発生。
「暗号化されてる…! アイツの読み通りかよ、ムカつくなぁ!」
 もちろん、華音一人で解読することは不可能だ。だがこちらも奥の手がある。佐伯から預かったUSBには、解読プログラムが保存されている。問題は、解読とコピーに少々時間がかかると言うことだ。
 待っている時間が非常に長く感じた。実際は2分ほどだったろう。
 だが、ロード画面のバーが、残すところあと数ミリ、というところで、第二の問題が起きた。

「おい、ここで何やってる」

 一瞬、時が止まったと感じた。
 首だけで振り返ると、驚いた表情の警備員が扉の前で固まっている。
(油断した! 聞こえなかったっ…足音も、ドアの開いた音も、聞こえなかったっ……!)
 華音の身体は、思考より早く動いた。一足飛びに距離を詰め相手の懐に入ると、顎先に下から掌底をたたき込む。
 小柄で細身の華音よりも、ずっとガタイの良い男が、そのまま真後ろに、どう、と倒れた。脳震盪を起こしている。
 ここでデータを持ち帰れなかったら、調査は大きく回り道することになるだろう。自分たちには時間が無い。
 ようやく思考が行動に追いついて、パニックを起こしそうになる。
 驚いた。
 こんなにためらいなく、身体が動くとは思っていなかったのだ。自分は本当に、違う生き物、になってしまったのかもしれない。
「ご、ごめんなさい……でも、絶対悪いことには使わないから」
 パソコンの前にとって返しUSBを回収すると、そのまま男を跨いで部屋を出た。

GM/プロンプター : ではここで、[調査判定]をして貰います。情報1の開示値は3。
 ダイスを1個振って、5以上が出れば成功。進行度が2点上がり、励起値を1点差し上げます。
 失敗でも進行度は1点上がりますが、励起値はおあずけです。
世良華音 : ダイスは1個だけ?
GM/プロンプター : 通常は。で・す・が、朗報です。ヒトガラをRPしていればダイスが増えます。
世良華音 : 「喪失:聴力」でどうだ!
GM/プロンプター : ヒトガラ/喪失:聴力 確認。
 ダイス+1 [調査判定]をどうぞ。
世良華音 : 調査判定 [3,2] > [失敗] 調査進行度 : 0 → 1
 泣いちゃうな。単独行動だから相方からの助太刀も期待できないし。
佐伯蒼太 : 僕が取り返せば良いんでしょ? まぁ見てなって。
世良華音 : 正体不明の自信が一番恐い!

・エンディング・

 ココフォリアマップ:すぎた屋
 キャラアイコン立ち絵:自作

次回→ 来週

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