はじめに・・・
これは、からすば晴様制作の文通創作ゲーム『月と花』(https://talto.cc/projects/AN2mfJjvWrev5et9Bo4v9)を一人で遊んだソロプレイログです。
詳しい遊び方などはURLをクリックしてください。以下、URL元の概要欄からの引用▼
『月と花』は違う国に住む2人の王族となって、互いの近況や気持ちを手紙で送り合う創作ゲーム(クリエイティブ・ロールプレイング・ゲーム)です。
2人はかつて同じ時間を過ごした親友、恋人、あるいは家族ですが、今は会うことができません。互いの状況を知らせることができるのは手紙だけであり、それも頻繁には行えません。なぜなら、2人が住む国は対立的な関係にあり、王族同士の交流ができないからです。2人は互いのことを大切に想っていますが、そんな心とは裏腹に情勢は悪化し、最後には戦争という悲劇的な結末を迎えます。激動の時代に生きる2人の王族の物語を、手紙という形で表現してゆくことが『月と花』というゲームなのです。
それぞれ役を割り振って二人でロールプレイすることも可能ですが、今回は私一人で遊びました。劇的な二人の関係性を、頑張って描いたつもりなので、よろしくお願いします。
シェイクスピアになりたかったです。
キャラクター 月 花
月/ディートリンデ(女性:二十代
軍事大国第五王位継承者。
けんかっ早く、口下手で不器用。
五人兄妹の末の妹。上に四人兄が居る。
男系家族の中で育ったので、男性的な美徳を重んじている。
同盟軍としてともに肩を並べて戦った”花”に、強い信頼感が芽生えている。
花/グレイアム(男性:二十代
小国の第二王子。
心穏やかな青年で、基本的に”月”とは正反対の性格。彼女の苛烈な性格に心引かれている。
”月”の国の軍と同盟を組んだ折、苛烈に戦う彼女を見て恋をしてしまった。
別れてから手紙を出したが、一年の間返事が来なかった。
二通目の手紙
麗しく野に咲く花の君へ、
こんな形で手紙を書くなど、考えたこともなかった。この手紙が無事、貴君の元へ届いていると良いのだが。
さて、私とあなたとの出会いは、少々奇妙だったと言わざるを得ないだろう。覚えているだろうか?
私は忘れられそうもない。私にとってあれは、明らかな醜態だったからだ。
貴君の軍と共に戦ったカルバニアでの共同戦線。お互い、華々しい戦いぶりだったな。
貴君は、戦での私の武勇を讃えんと、私が休んでいる控えの間を訪ねてくれた。
それなのに私は……。
その時の私は折り悪く、ちょうど顔を隠していた兜を取った所だった。不測の事態に取り乱した挙句、『武人の素顔を無断で覗くとは非礼が過ぎる』『死を持って償え』と酷い言葉を浴びせてしまった。
戦いの後で気がたっていた、というのは言い訳に過ぎない。
周囲の人間にとって、女の私が戦に出ているのは、公然の秘密。知っていながら、何も言わないでくれている者が大半だ。しかし、公になってしまえば、然るべき態度を取らなくては行けなくなる。私はそれを恐れていたのだ。戦場を駆ける自由さえ奪われてしまうのではないか、と。
だが、取り乱した私に貴君は『淑女の居室に使者もなく突然押しかけた自分が悪かった』と言って真摯に頭を下げてくれた。そして、きっと手紙を書くと約束をして控えの間を後にした。
貴君は、私の正体を公的に暴き立てることも無く、むしろ約束通り丁寧に、”秘密の手紙”を送ってくれた。
あなたが全てを白日の元にしてしまうのでは無いかと、戦々恐々としていた私は、今更自分が恥ずかしく思う。
しかし、私は手紙など書いたことがなく、何を書けばいいのか、と悩んでいる間に、1年が経とうとしている。
恥ずかしながら、私は生まれてこの方、剣以外のものを満足に扱えた試しがない。ペンなど、もってのほかだ。
その私が、こうしてペン先にインクを浸し、迷いながらも筆を取っている理由は、他でもない。
貴君を信頼しての事だ。
先日、私の叔父にあたる公爵から縁談が持ち込まれた。つまり、懇意にしている貴族の元へ嫁ぐ気は無いか、ということだ。
私は戸惑ってしまった。
男兄弟に囲まれて育った故か、婦女としての栄えある人生よりも、男子たるものかくあるべし、というような名誉を重んじてしまう。戦で武勇を上げることこそが誉れであり、醜く生に縋り付くことは唾棄すべき行いだと。そう思ってしまう。
これは、長兄たちへの憧れかな? ……いや、自分の方が上手くやれるという僻みだ。
顔を隠す兜や、体型を誤魔化す甲冑が無ければ、私は戦に出られない。煩わしいと思うが、周囲のもの達が、素顔で戦に出ることを許さない。
私の周りにいる者たちは、とても優しい。しかし、そのままの私を伝えて相談が出来るほど、味方だとは思えない。
彼らが望むとおり、どこか立派な方に嫁ぎ、男子を産むことこそ婦女の幸福と、受け入れるしかないのだろうか。
目の前が真っ暗になりかけた時、あなたがくれた”秘密の手紙”のことを思い出した。
武人としても淑女としても、私に敬意を払い、あんなに丁寧な手紙をくれた貴君であれば、頭ごなしに否定することは無いだろうと……。
1年もすっぽかすような真似をしておいて、今更そんな虫がいい話もないだろう。それは私自身も理解している。
だから、出来ればでいい。もしもまだ、私に愛想をつかしていなかったなら、返事が欲しい。
ただ、貴君からの返事が欲しい。
仕返しに、100年だって待たされても構わないから。
雲に陰る貴方の月より
三通目の手紙
厳粛なる輝きの可憐な月へ、
君からの手紙を受け取った時の僕を、君の目にも見せたかった。そうすれば、僕がどれだけ嬉しかったか、きっと分かってもらえるはずだ。
君の手紙を待つのは苦ではなかったよ。最初の手紙も、僕が非礼を詫びたかったから贈ったもので、かなり自己満足的なものだったから。元から返事を期待してはいなかった。
待つのは苦ではなかったが、君を待たせるのは耐えがたかったな。本当はすぐにでも返書を出したかったが、兄が病に倒れ、彼の仕事が僕に回って来てしまった。それに忙殺され、1人落ち着いて手紙を書く暇を見つけられなかった。
気がつけば、9ヶ月も経ってしまっている。
元々、僕の兄は体が弱く、父王の跡を継げるのか、と周りから心配されていた。……きっと、正式な跡継ぎは僕になるのだろう。その練習と思えば、無駄なことでもない気がしてくる。
こんなことを言うと、君はまた怒るかもしれないが、僕は君が少し羨ましい。君には、心を悩ませるだけの選択肢があるからだ。
決まった道を歩くことしか出来ない僕は、それが少し羨ましい。
この2年の間に、君の国と僕の国は少しばかり、ややこしい関係になってしまったようだ。
今ここで僕が君に、戦うことを止めろ、と言えば、まるでこの口を借りて父や兄が喋っているように聞こえてしまう。
この国を守りたいのは、僕も2人も変わらないのだから。敵国の武将が1人減ってくれるならば、悪いことでは無い。
だが、僕は君にそんなことを言いたくはないよ。
月の君、僕は君を愛している。
戦場を自由に駆け、自在に剣を振るう君は、僕の心を掴んで離さなかった。今でもあの胸の高鳴りを忘れられない。
僕はまたあの戦場で君を見たいのだ。たとえ、敵として剣を交えることになったとしても。
君は、君の進む道について、存分に悩むといい。どちらを選んでも、いつかもう一度会いに行こう。敵か味方かは、さておき。
僕は、君の窓辺に咲く一輪の花になりたい。そうすれば、この姿が、この香りが、君の心を慰められるのに。
今この身は、君に会いに行くことも出来ない。
君の国の軍隊が、こちらの国境に近付いている、という話を聞いた。
大臣たちが、いざと言う時のために亡命の計画を立てていた。じきに僕自身も、君と同じように岐路に立たされることになるだろう。
貴女に会いたい。
窓辺の風に揺れる貴女の花より
追伸・近隣の国で手に入れた赤石の髪飾りを贈ろう。きっと君の黒髪によく似合う。
いつかこの髪飾りを付けた君に会えることを祈っている。
四通目の手紙
めぐる季節の中で咲く花の君へ
貴君からの返事を受け取り、いても立っても居られず、いくらも経たない内に、こうしてまた筆をとっている。
あなたが、私の意思を認めてくれたことが嬉しい。血の繋がった兄たちは、あまりそう思ってはくれないからな。
実は、長兄たちと少しばかり揉めてしまった。……あなたとの文通がバレた訳では無いので、安心して欲しい。貴君の国への軍事作戦についてだ。
彼らは、私を何も出来ない少女として城に押し込めておきたいようだ。しかし、私は戦に出るつもりだ。私たち二人は、最早戦場でしか会えないのだから。
亡命の件。貴君の命が大切ならば、迷わず逃げなさい、と言うところだが、きっと貴君はそんな選択をしないだろう。あなたは最後の時まで、民と城を守ろうとする。そういう人だ。
私は、ひどく自己中心的な我儘な女だ。貴君と今一度謁えたいがために、兄たちに駄々を捏ねたのだ。
ただ、あなたに会いたい。
花嫁としての幸福に浴し、穏やかな日々の中で、全くの他人のあなたと会うよりも、炎を掲げて互いに騎士として剣を交える方が、二人の”つながり”のようなものを感じられる気がする。
私たち二人は、あのカルバニアの戦で出会ったのだから。
私もあなたを愛している。
私の言葉に真摯に応え、民を愛し国を愛している貴君を、愛している。
貴君は、花になりたいと言った。窓辺に揺れる切り花になりたいと。
側にいたいと思ってくれることは嬉しい。しかし、誰かに手折られ、枯れるのを待つだけの花というのが貴君なら、きっと私は、そんなものは捨ててしまうだろう。死を待つだけの命は、既に死んでいるのと変わらない。
私はそんなものには興味が無い。
私は、私の心に従うと決めた。
貴君が、愛している、と言ってくれた私でいたいのだ。あなたが最初の手紙で言ってくれたような、孤高の月でありたい。
貴君も最後まで、野に咲く自由な花であって欲しい。私はそんなあなたを愛している。
私は前線に送られることになった。
貴君と戦うのは私だ。
ここで別れの挨拶をしておこうと思う。きっと戦場で言葉を交わす時間は無いだろうから。実際こうして手紙を出せるのもこれが最後だ。無事に届いていればいいが。
花よ、花よ。気高き花よ。
誰にも手折られる事無く、どうぞそこで咲いていておくれ。
貴方の孤高の月より
五通目の手紙
涼やかな月の君へ
返事が遅れてすまない。
大丈夫だ、君の手紙はちゃんと僕に届いているよ。
君は自分の力で答えを見つけたんだね。何も出来なかったのは残念だが、君の覚悟は素晴らしいと思う。おかげで僕も心が決まった。
しかし、僕は君に謝らなければいけない。……手紙を読む限り、君にとっては嬉しい報せかもしれないが。
防衛軍の指揮官になった。任命されたのではなく、自分で名乗り出たのだ。君の言う通り、僕は民や国を捨てて逃げ出すことなど出来ない。
君は先の手紙で言っていたね。死を待つだけの命は既に死んでいるのと同じだと。僕もそう思う。ここで生き延びたとして、僕の手の中に、一体何が残るというのだろう。
慕ってくれていた民はおらず、国土も失い、そして……嗚呼。そして、君と会うチャンスは永遠に失われる。
だからこそ僕は、君と戦うことを決めた。たとえ、この戦で死ぬことになったとしても、最後に剣を交わす相手が君ならば、それもいい。
たとえば、僕と君がただの町人だったならどうだろう?手を繋ぎ、抱きしめ合うことが出来ただろうか。
もしも2人に来世のようなものがあったなら、恋人になれる未来もあったのかもしれない。
こんな話に意味は無い。そんなことは分かっているけれど、考えずには居られない。
だって君、僕は無骨な手甲に包まれた君の手しか知らないんだ。好いた女性の手さえ触れたことがない男を、君はどう思う。
僕は今、君に別れを告げるために、ペンを走らせている。だが、さよならを言うつもりは無い。僕達はもう一度だけ直接会う機会がある。
夜闇に飛び散る火の粉や、鬨の声。鉄と血の匂い。そこでは言葉なんて、僕の空想と同じように、なんの意味もなさない。
互いの唇は愛も別れも囁かないが、唯一二人の間に響き渡る剣戟の音だけが、言葉の代わりになってくれるだろう。
名残惜しいが、手紙はこの辺りで終わろうと思う。
この薄い紙越しに君にキスを贈ろうか? ……いや、止めておこう。乾いてひび割れた紙は、君の唇とは程遠いだろうから。
美しい月光の君よ、僕は最後まで君が愛していると言ってくれた僕でありたい。
それではまた会おう、僕たちにとって、最初で最後の”戦場”で……。
月光を愛する花より
終 章
西暦1765年、ヘザーフォード公国 第2王子・グレイアムと、ブランシェ国王女・ディートリンデの2人が、人目を忍び交した四通の手紙を、ここに紹介した。
内容を見るに、本来は全部で五通あったようだが、王子から贈られた最初の一通と三通目に追記されている”赤石の髪飾り”は未だに見つかっていない。
専門家の間では、ディートリンデと共に墓所に眠っている、という説が有力視されている。
最後の手紙の日付により、「ヘザーフォードの戦い」直前だと言うことが分かる。
ヘザーフォードは戦で1度滅びたが、グレイアム王は生き残り、数少ない民と共に国を復興した。今でも彼の横顔は、建国記念に発行された記念硬貨に刻印され、多くの民に愛され続けている。
「ヘザーフォードの戦い」以後、ディートリンデ王女は革命軍を指揮し、祖国のあり方を、父王と兄たちに問いかけたが、苛烈な革命戦争のただ中で命を落とし、その生涯の幕を閉じた。享年不詳。その若く短い彼女の人生は、今もって多くの謎に包まれている。
『復活の王子と革命の王女』展、図録冊子より抜粋
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