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PANZER BATTLES 考察3/ System of OODA Loop [Act]

行動 / Combat Result Table & Fire and Movement

 「Panzer Battles」(以下「PBS」と表記)は良い意味で期待を裏切ってくれるゲームです。Chit pull activation systemは両軍の機械化部隊に高回転率を与えてくれますが、ソ連軍の攻勢全般をより強く後押しするシステムですし、独軍第11装甲師団(以下11th PzDivと表記)は強力な攻撃力を有してはいますが脆い……歩兵部隊よりも機械化部隊の防御力は弱く損害を受けやすいデザインになっており、砲兵部隊のバックアップが無ければ序盤の戦いで既に満身創痍でしょう。6ターンの長丁場を転戦する機動防禦などとても務まる筈もありません。「考察3」では、前章にて纏める予定でした戦闘結果表(以下CRTと表記)についての考察を行います。

 感謝と謝辞。このブログ記事は小生程度の理解の範疇での分析であり、ゲーム熟練者・及び先達の方々には噴飯物のブログ記事ではあると思いますが、ウォーゲームの一つの楽しみ方として 笑ってお許し下さればと願っております。尚、考察記事を書くにあたり「PANZER BATTLES」の日本販売・及び日本語訳ルールブックの提供元であるサンセットゲームズ様にグラフィックアート掲載の許諾を頂く等のご協力を賜っております。

Combat Result Table

 「PBS」CRTの結果判定には正六面体のダイスが二つ用いられます。「2D6」とボードゲーム界隈では表記される処理スタイルですね。今回の考察War Game「PBS」は2016年に出版され、現在も販売されている(2023年6月現在)かなり新しい部類のゲームですが、やはり「2D6」を使用しています。過去に遡れば10面体ダイスを使用したWar Gameもあったと記憶しておりますが、それもごく少数の事例……War Gameのこの正六面体ダイスへの拘りの理由とは一体なんなのでしょうか。(笑)

 いきなり話が逸れてしまいました。すみません(笑)。では、CRTの解説には、まずCRTを見てもらうのが一番かと思います。

 まずは「PBS」のCRTをご覧下さい。黄色い背景は各々の出目の確率となります。各結果表記、D#(A#)は強制ステップロス数・r#は強制撤退へクス数を表記しています。敵ZOC内でも撤退は可能ですがスタック単位で1へクス毎に1ステップロスを強制。戦力の低下と位置エネルギーの低下を適度に配分して作られた事が読み取れます。撤退可能なヘクスが無いと、撤退ヘクス数もステップロスに転嫁されるので包囲攻撃は有効な手段となりえますが、無傷のフルスタック部隊(3スタックで各部隊2ステップを持つと仮定)が相手では5:1+の戦闘比・包囲攻撃・2D6=「12」の出目、と攻撃時の利点が3っ揃わないと殲滅が不可能な点が小生の興味を惹きました。

 砲撃の効果が強く影響する「PBS」のシステムではフルスタックの部隊は恰好の砲撃目標です。ゆえに砲撃に備えプレイヤーは可能な限りの分散配置を行うことをデザイナーは想定しているのかもしれません。不用意な戦力集中は「PBS」のシステム的に「戦術的な愚策」と判断される、ともとれます。

 そして、それは相対的に低い戦闘比率への戦闘を促します。とまれ、損害値の過剰な結果を表わすような戦闘結果とそのような戦闘結果を誘発する戦闘比率の欄は「PBS」のCRTには必要ない、とデザイナーは判断をし、「1:3」を下限とし「5:1+」と、比率欄を少ない7欄に抑えているように小生には思えました。

 何はともあれ「PBS」CRTは、CRTとしてはシンプルな造りに徹している、ですが 決して「単純な造り」と評しているのではなく「理解しやすい造り」との意味です。加えて戦闘結果の項目数も10種類と適度に抑えてあるのも一役買っているようです。理解しやすく、処理は強制ステップロスと強制撤退を組み合わせた様々な要件を満たす造り……と言えるのではないでしょうか。

 下記、表類をまずはご覧下さい。Chart2集計表とChart3グラフは同じ数字を表わしています。Chart2の結果項目群は三種、それぞれの背景色を変えてあります。ピンク色は攻撃側のみ損害を受ける項目(純被損率)。黄色は攻防どちらとも損害を受ける項目でこの欄を便宜上 小生は相互損害と呼称しています。青は防御側のみ損害を受ける項目(純打撃率)。次に、Chart3グラフはChart2における三種の数値群をグラフにして戦闘比率毎に表示した推移表です。

*Chart3における相互損害率の表示は純打撃率に合算した数値を「打撃率B」として表示しています

 ランチェスターの法則を逸脱せず、論理的に順当な数値の増減を見せてくれるCRTは、プレイアビリティを高める為のトリッキーな仕掛けなど無い王道とも呼べる造りです。The Gamaer’sらしい硬派な入門用ゲームのCRTですよね。

 それでは、前章でも触れましたが「PBS」の各戦域における状況をもう少し詳細に見ていくことにしましょう。

北北西「Surovikino」方面戦域 +Layer [CRT]

ソ連軍 第119狙撃兵師団
ソ連軍 第333狙撃兵師団
独軍 第7野戦空軍師団 & 守備隊

 *クリックで拡大出来ます。

 当戦域における両軍部隊の戦闘序列を掲載しています。ソ連軍は二個師団(第119・333狙撃兵師団)、独軍第7野戦空軍師団 及び 守備隊等がこの戦域には存在します。各部隊の序列表の第一表は戦闘部隊、第二表は砲兵部隊のみと分けて表記しています。

 尚、独軍の戦闘序列は他戦域の守備隊 及び 増援部隊も記載した序列表を用いておりますので混乱を避ける為、当戦域における初期配置指定の部隊には攻撃値欄の背景色を薄青にて表示しています。特にSurovikino守備隊のシュミット戦闘団は部隊名表記欄を薄いグレー色にしています。ご了承下さい。

 この戦域のソ連軍の総戦力値は攻撃値95防禦値187。対する独軍は攻撃値35防禦値107。攻防どちらの数値もソ連軍が圧倒しています。中でも群を抜いて差がついているのがソ連軍防禦値の187で、対する独軍の攻撃値は35と攻防における数値差は約6倍にも上ります。独軍からの反撃は不可能に感じるような厳しい数値ですね。他に数値比較で気になったのは、ソ連攻撃値と独軍防禦値が比較的近似値である事です。CRT欄で比較してみるとほぼ1:1。「PBS」CRTを総戦力値比較に代用するのは少々無理筋ですが、そこを敢えて参照するならば被損率最大69%強、打撃率に至っては相互損害を含めて30%強と攻撃失敗の可能性が非常に高い数値と言えます。では独軍が押されるような(ゲーム上の想定された展開に則るような)差はどこでつくのでしょうか。

北北西戦域 / 第119狙撃兵師団展開領域

 

 第119狙撃兵師団は州都Surovikinoを落とさざる得ない状況でゲームがスタートする不遇(笑)な師団です。

 チル川を渡り南下する為にはSurovikino直下の橋梁を手に入れるか、西南に位置する村落Chuvilevski(A8.24、A9.25)を陥落させるしかありません。しかも初期配置で既にSurovikinoへの攻勢準備が整っている状態……迂回してChuvilevski(A8.24、A9.25)から渡河するのは時間が掛かり過ぎるでしょうし、Surovikinoに籠る独軍を無視するわけにもいかない……プレイヤーの選択は如何様でしょうか。小生はまずは、敵軍の偵察から行うことに致しました。

 州都Surovikino周辺の両軍の戦力比較は以下の通りです。

 ソ連軍・第119狙撃兵師団の総攻撃値46 / 総防禦値93

 独軍・Surovikino守備隊と周辺部隊の総攻撃値14 / 総防禦値52

 (Surovikino守備隊の総攻撃値6 / 総防禦値30)。

 受け身の独軍の戦力が低いのは当然としても総攻撃値が14というのは苦笑を通り越して爆笑ものです。先にも述べましたが、デザイナーはドイツ軍守備隊の反撃は絶対的に許さないようですね。第11装甲師団の機動防禦こそが独軍の「槍」である、と強くデザイナーは語りかけて来るような攻撃値です。ただ、弱い部隊にデザインされているのに簡単には全滅しないよう数値計算がなされている辺りは唸らされます。これはどのウォーゲームをプレイしていても思うことですが、きめの細かいデザインは精緻に眺めないと見えづらいもので、時にハッとさせられる発見をソロプレイ中にしてしまうと、それまで捉えていたそのゲームのイメージが一変したりします。神は細部に宿る……デザイナーのセンスが輝く瞬間でもあります。

 失礼しました。話を元に戻しましょう。ここではまず小生はスタンダードな選択を選びました、州都Surovikino攻略です。

 戦域の焦点は州都Surovikino(黄色い丸 A)。

 詳細な作戦展開はプレイヤーの皆様にお任せするとして、小生は数字の上のお話をさせて頂きます。

 Surovikino周辺の制圧に1個連隊を投入。残る二個連隊は州都制圧の為、都市部に展開。

 1個連隊の総攻撃値は13ですから2個連隊の合計攻撃値26。

 第119狙撃兵師団は独軍の総防御値30を誇るシュミット戦闘団の殲滅が最重要課題です。敵の総防禦値をソ連軍の攻撃値が上回っていない状況からして攻勢は中々に厳しく感じます。

 防禦側はどのような体制で迎え撃つでしょうか。フルスタックは3ユニット迄ですから守備隊は18の防禦値を一つのへクスに投入可能です。対するソ連軍の総攻撃値は26。戦力比はソ連1.4…:独軍1。さらに地形影響として都市部では2コラムシフト移動という防御側にさらに有利な1:3の戦闘比戦闘をソ連軍は余儀なくされます。これなら独軍には申し分無い防禦戦です。他の例として、独軍守備隊が2スタックなら防禦値12。ソ連2.16…:独軍1ここでも戦闘比は1:2……と都市部において独軍は圧倒的な強さを見せます。実際にはここまで守備隊が戦力を単一へクスに集中することは無いと思いますが、シュミット戦闘団の部隊単位は大隊規模で防御値は6とそれなりの戦いをソ連軍二個連隊に対し見せてくれます。

 ですが……ドイツ軍守備隊には非常に残念な弱点が存在します。それは、支援用の砲兵部隊が州都守備隊には存在しないことです。Surovikinoの周辺に存在する砲兵部隊はチル川西南の1個砲兵中隊のみで支援は期待出来ません。対して、119狙撃兵師団は3個砲兵中隊と1個砲兵連隊が支援可能な状態です。

 先の例えで出しました守備隊フルスタック防禦に対し、ソ連軍の制圧砲撃が成功すると、守備隊の防禦値は9と一気に下降します。制圧のみならず、意図した無力化砲撃(同一へクスへの集中砲撃)を浴びせるならば、低確率とは言えどKRの「1D6」を振る回数が増えるかもしれません。KRが成功すると守備隊は1ステップロスの実損を被りますので守備隊防禦値は8以下までさがります。もっとも制圧砲撃の成功ですら、都市部における地形影響が相殺してしまうので、低比率の戦闘に119狙撃兵師団は常時悩まされる事になります。

北北西戦域 / 第333狙撃兵師団展開領域

 基本的にソ連軍の狙撃兵師団の足は遅くデザインされています。それでも尚且つ、333狙撃兵師団は能力以上の展開力を求められているように感じます。

 再度、北北西戦域のマップを掲載いたしますが、333狙撃兵師団は明らかに、州都Surovikinoの補給線を断つ目的が課せられていること、そしてVPでもある129高地(黄色い丸B)の確保が最低限達成すべきミッションに思えます。

 州都Surovikinoの補給線の切断は友軍119狙撃兵師団を助ける事に繫がります。補給線の立たれた部隊は次の活性化フェイズ終了時に補給切れとなり、防御力が1/2に低下。制圧砲撃の成功(防御力1/2)と部隊の補給切れ(防御力1/2)は累積しますので1/4まで守備隊の防禦値を低下させる効果が期待できます。守備隊の防御力が高いと言えど、防禦値6が1.5にまで低下するのです。効果は絶大と言えます。

 第119狙撃兵師団へのこれ以上の支援は無いでしょう。そして西方へ侵攻することで第333狙撃兵師団は129高地を自然と呑み込んで行く形になって行きます。

 この師団の目先の狙いは戦線正面に位置する129高地。この高地は勝利得点へクス(以下VP)でもありますし、なにより「PBS」において丘の戦略的地位は高く設定されていますので、攻撃目標には最適な地点です。

 補足として……「PBS」では戦闘に最も影響を与える地形が「丘」で、その効果を具現化できるユニットが砲兵部隊と言えます。この両者は相補関係を成しており、長距離射程を持つ大隊以上の砲兵部隊の活用に大きなアドバンテージを与えるものです。特に砲兵を多く抱える独軍をプレイするゲーマーは「丘」の特性に注力し考察を深めるべきではないでしょうか。「PBS」は機動防禦をモチーフにしていますが、一側面として砲兵運用スキルに関する洞察を強く求められているように感じます。

ソ連軍 第333狙撃兵師団所属砲兵
独軍第7空軍野戦師団所属砲兵(攻撃成功率欄背景色「薄青色」) & 独立砲兵

 第333狙撃兵師団所属砲兵と第7空軍野戦師団の所属砲兵の集計表を載せています。少々見づらいですが独軍集計表 砲撃成功率欄の背景色が薄青色の部隊が北北西戦域の砲兵部隊です。ご容赦の程を。

 北北西の戦域では砲兵数は倍数でソ連軍が優位です。しかしその半数はSurovikino攻略に投入されていますので、実質的に差は無い、と判断できます。もっともSurovikinoの陥落以後は砲撃力の優位はソ連軍に傾き、余力の出来た第119狙撃兵師団がようやく333狙撃兵師団と合流し始めると状況は一変するでしょう。2個師団規模となった勢力は雪崩を打って南下し始めます。こうなると第7野戦空軍師団以下、北北西戦域のドイツ軍戦線の崩壊がリアルにマップ上に展開されることとなります。

 可能な限り早急に333狙撃兵師団はSurovikino守備隊の補給線の切断を図らなければなりません。もたもたと南方方面への戦線構築を怠ると、突出した中隊は 11th PzDiv の機動防禦の前に全滅の憂き目に遭う事必定です。4ターン以降に登場するソ連軍第5機械化師団が現れるまでに2個師団による戦線構築が叶えば、この戦域はソ連軍にとり良い方向へ向かう可能性が高くなります。ですが、11th PzDiv はその状況変化を簡単に許してくれる相手ではないことを覚悟しておくべきです。

東南「Nizhne-Chirskaya」方面戦域 +Layer [CRT]

 東南戦域は独軍 第336歩兵師団(以下、336Inf Div)が展開している戦域です。北北西戦域と比べより東西に長く、より広い範囲の戦線構築が必要な戦域であり、チル川南岸に沿って走る街道は「Blizhne Mel’nichnyy」・「Nizhne-Chirskaya」とVPを獲得できる二つの街は比較的近距離に並んでいます。

 Map全図で俯瞰すると、北方ではチル側が東西に流れているのですが、蛇行した流れは北方東部で大きく南に下り東南戦域まで下るとほぼ南北に流れながら東端に達する複雑な河川です。チル川の複雑な流れと同じようにこの戦域のソ連軍も一筋縄では行かない複雑な様相を呈しています。

 第4親衛狙撃兵師団(以下、4Guard’s Div)を基幹として親衛部隊・独立部隊が参加するこの戦域のソ連軍は合計約4個師団と2個連隊と大きい混成部隊となっています。対峙する独軍 336Inf Divは一個師団……攻勢の規模がかなり大きいのが見て取れます。

 しかしながらソ連軍は人海戦術に頼る余りか規模の割には攻撃値それほど高くありません(ユニット単位では4Guard’s Divは大隊単位。親衛・独立部隊は大隊、若しくは連隊単位となっており独軍の中隊単位とは一クラス規模が違うと言えます。)

 では、戦力比較と参りましょう。下記の戦闘序列をご覧ください。

ソ連軍 第4親衛狙撃兵師団
ソ連軍 親衛・独立部隊
独軍 第336歩兵師団

 

ソ連軍 : 戦闘部隊のユニット数は40(総攻撃値118、総防御値213)、

     砲兵ユニット数は12(期待制圧率は600%強。KR成功率180%強)

 独 軍 : 第336歩兵師団はユニット数33(総攻撃値61、総防御値155)、

     砲兵ユニット数16(期待制圧率670%弱。KR成功率180%弱)

 流石に攻撃値・防禦値ともにソ連軍が優位ですが、砲撃値は独軍がやや優勢の感があります。KR成功率に関してはほぼ同等と見て良い数値ではないでしょうか。但し、ソ連軍は全域で最低でも各ターン2回の活性化が約束されています……つまりソ連軍部隊の各攻防値は上記に記した数値より2倍換算され得る数値である事をお忘れなく。

 2回の活性化はソ連軍歩兵部隊の非常に有利な点ですが、東南戦域のソ連軍はこの利点をさらに高める能力を二つ有しています。それは砲撃力と突破能力です。

 まず、砲撃力ですが脅威ともいえるレベルにまで高まります。ソ連軍 砲兵の制圧期待率600%強が倍の1200%強にまで高まる……これは単純に12へクスに展開する部隊全てを制圧砲撃によって防御力を1/2に低下させ得るものです。さらに極端な事例で表現すると現実的尺度換算で戦線の長さ6㎞・幅0.5㎞の広さ全域が砲撃の雨に晒される想定です。比例して高まるKR成功率も360%強と跳ね上がります。独軍は、攻撃値2.55(4%強)~3.4(5.5%強)、防禦値2.7(1.7%強)~3.6(2.3%強)の攻防値が砲撃のみで各ターンに削られて行きます。対する独軍にも砲兵部隊はソ連軍と互角に渡り合える数が揃ってはいますが、活性化により回転率が倍化するソ連軍砲兵に弾薬量で叶う筈も無いのです。

 もう一つの利点は「突破能力」。東南戦域に展開された親衛・独立部隊には突破能力を有した足の速い部隊が19ユニット(規模不問)存在し、これはチル川全戦域内最大数を誇ります。そうなのです、小生はこの点も驚いてしまいました。突破能力を有する部隊は、第一戦車軍が12・第五機械化師団が16と独立・親衛部隊を下回るのです。ソ連軍は各ターン2回の移動・攻撃を行う為、部隊展開と局所的に綻びた戦線の穴を容易に拡大可能です。しかも親衛部隊の大部分が突破能力を有していますので、北北西戦域とは戦況変化の度合いが全く違います。独軍プレイヤーはこの点を常に留意すべきではないでしょうか。

 東南戦域におけるソ連軍の作戦成功時の進軍ラインを三つ想定した図を作成しました。クリックにより拡大可能ですのでご確認下さい。想定図はあくまでもソ連軍の理想的な進軍がなされた場合である事にご留意ください。進撃方向は赤矢印、進撃に伴い展開されてゆくソ連軍の防禦戦が青破線で表しています。

 白の破線がゲーム開始時の独軍戦線で、戦線が突破され、チル川南岸の奥深くにまで浸透したラインが「戦線1」……ゲーム展開上現実的ではありませんが、突破ライン「は」と想定しました。戦略的に重要な142高地を呑み込み、砲撃戦の優勢を頼みに防衛線を展開する……域内の3VPを全て抑え、さらにNizhne-Chirskayaからの独軍11Panzer Divの突破ポイントまでブロックする展開はソ連軍にとって理想過ぎる展開ですが、もし142高地が陥るならば、この展開もある得るのではないでしょうか。

 「戦線2」は戦線1と同様に336Inf Div 防衛線西方からの突破を許した想定ですが、142高地を拠点とした独軍とソ連軍の攻防により自然発生した戦線と捉えても良いと思います。当然ながらこの戦線を維持し最終ターンまで持ちこたえれば、ソ連軍の勝利は間違いないでしょう。

 「戦線3」が想定図の中で最も可能性の高い展開ではないでしょうか。「ろ」、または「い」の突破ラインは部隊の集中がし易い位置にあります。もう一つの利点は街道を利用するとNizhne-Chirskayaまでは最短の距離である事です。特に「い」の突破ラインには初期配置の関係で戦力の過集中が発生します。それゆえに独軍が拠点として頼むチル川沿いの街道街Blizhne Mel’nichnyyもソ連軍の猛攻とチル川北岸からの支援砲撃も相まって序盤には陥落、1VPをもぎ取られて行きます。そしてそのまま手をこまねいていると一気にNizhne-Chirskayaまでも危険に晒されます。

 東南戦域は北北西戦域よりも流動性が強く感じられ、ソ連軍の波のように押し寄せる人海戦術が見事にシミュレートされているように思えます。二度の活性化を得たソ連軍の「引いては押してくる」を繰り返す波状攻撃が次第に336Inf Divの防衛線を蝕む様を見事に表現しています。

 ソ連軍の猛攻を受ける336Inf Divに対抗策はあるのでしょうか。基本攻防値から見ても独軍の反転攻勢は現実的ではありませんし、街道沿いに戦力を集中すると西方での対応に非常に苦慮する事になるのは必定ですので、独軍は戦線の何処を突破されても良いか常に考慮する必要に迫られます。逆説的ですが、突破されるならば、西方の突破の方が独軍にとってまだ良い被害、と言えるでしょうか。142高地(VP)までは距離があり、336Inf Divの防衛線西端ならば、行軍セグメントを利用せずとも第11装甲師団の防御範囲になり得る可能性もあり対応が比較的容易い、とも言えます。

 ともあれ、突破能力に特化した部隊を全面に立てて押し寄せてくるソ連軍に対し、336Inf Div唯一の強みは砲兵の射程距離にあります。中隊規模の短射程砲兵は局所的に利用するに留まりますが、戦局に重要な敵攻勢地点には射程8㎞(16ヘクス)の砲兵を三個大隊有する独軍がやや有利とも言えます。長射程の砲兵は戦域を広くカバーしてくれますので、各地域の高地を抑え観測地の利点を占有すればソ連軍攻勢の主力を防禦砲撃により制圧、頓挫させることも夢ではありません。

 東南戦域のソ連軍戦線突破は時として、独軍プレイヤーのゲーム敗北に直結します。北北西戦域も当然に大事なのですが、東南戦域の親衛・独立部隊群は防御力も高くデザインされており、一度押し込まれ安定した戦線を構築されると、恐らく取り返せる確率は極低率にしかなり得ません。事前の対応策としては戦線後方の予備部隊の配置、ですが、さらに戦線が薄くなることも覚悟せねばならないでしょう。 

 

補足・Kill Roll 「無力化・壊滅の概念」について

砲兵・運用術 Wikipedia

 これまで砲兵部隊の運用方法として制圧砲撃を主にお話して参りました。砲兵を用い、「一時的に該当地域の敵部隊を機能不全に追い込み抵抗力を弱める戦術」が制圧砲撃ですが、「PBS」のシステムではより簡易的なイメージになりますが、無力化・壊滅化と呼ばれる砲撃もシミュレートされているように思えます。

 無力化とは砲兵運用時において、面制圧力に伴う実損(10%程度)と「PBS」では仮定出来ます。「PBS」ではキルロールの数値がまさにその概念のシステム化そのものでしょう。

 壊滅化とは大規模に砲兵を運用し、オーバーキルな面制圧力による敵部隊の殲滅(30%)を謀る戦術。と規定して構わないと思います。大隊・連隊規模の砲兵部隊の集中運用が壊滅化砲撃に近いかと思われます。但し、確率的には複数のKRを成功させねばならず、必ずしも効果的な攻撃方法とは言えません。

 「PBS」は本当に第11装甲師団の機動防禦をシミュレートしているのか?、この疑問を「PBS」の考察を始めてから幾度と無く小生は胸の内で反芻を重ねてしまっています。そう考えてしまうほどに砲兵システムの「PBS」における影響が強く、砲兵システムが機能しないと機動防禦が、果ては「PBS」そのものがゲームとして成立していないのかも……との思いが強くなってゆきます。

 紙数が尽きました。

 予定紙数を超えてしまっているにも関わらず、考察が終了しない小生の構成力の無さをお許し下さい。

最後までお読み頂き有難う御座います。

 次章を最終回と致し、第11装甲師団が登場する中央戦域 と「行軍セグメント」の考察で幕を閉じる予定で御座います。

PANZER BATTLES 考察4 最終回 / Auftragstaktik

委任戦術 / mobile defense & Road March and Barrage に続く。

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