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Storm Over ARNHEM 雑感4最終回「SOAにおける異常値の定義」

注・頻出する単語は略語を用います。ご了承下さい。➡ 略語参照表

 雑感3で取り上げた防御側ダイス№毎の攻撃側勝率を表した数表では主に連合軍サイドのお話を致しました。雑感4ではSOAのBattle Systemの骨格を成す「2D6 X 2」のお話を少々とそれに伴うドイツ軍の「浸透戦術」を数値的に考察し、SOA雑感の最終回と致したいと思います。

 まずは、タイトルの「SOAにおける異常値の定義」ですが、最終稿になって ある概念の定義付けをするなど本来あってはならない本末転倒とも呼べる稚拙な考察構成をお許し頂ければ、と存じます。SOAは好きなゲームであるため、不必要に小生の思いが溢れた文章となり構成の破綻を招いてしまったようです。

私見「異常値」

 確率的に「2D6 X 2」のプレイヤーが許容可能な数値(通常値としましょう。)と異常値と呼べる(結果値として許容しがたい数値)はどのあたりから生じるのでしょうか。

 *各出目の確率を割出す為に「2D6 x 2」の確率表を作成してみました。あまりにも%数値が低い為に小数点第五位を四捨五入しました。少々見づらい絵面になりましたがクリックで拡大可能としております。ご容赦頂ければ、と思います。

 下記数表は、縦軸・横軸共に「2D6」により振り出されたダイス№で構成されています。縦横交差するダイス№、例として縦軸7・横軸3の数値が振り出される確率は0.9274%と算出された表です。「2D6」の1/36と違い1/1236とかなりの低確率と121通りの出目数を持つ為、各々の出現確率は非常に低い数値です。

SOAはこの極低確率の海に揉まれながらゲームが展開して行くのです。

 小生も表作成時には役の立つのかどうか戸惑う確率表でしたが、表のど真ん中 縦横の「7」という最頻値がぶつかり合う中央値が表内の最高確率である事に着目しました。確率は2.78%強、ここを中心に確率値が放射状に徐々に低下して行くのがお解りになるでしょうか。1%を超える値を持つセルは中央周辺のみです(背景を薄いピンクに色付けしています)。そしてピンクの周囲にある黄色い背景は1%には届かないものの0.9%強の確率を持つセルになります。

 ピンクセルの確率を合計すると59.3541%にもなり、周囲のセルよりも比較的結果値の出やすい部分、と言えるのではないでしょうか。そこに黄色セルを合算すると70.4830%にも上ります。では仮にこのピンクと黄色の背景セルを併せて「高確率帯」とでも呼称しましょう。高確率帯にはどのような結果値が収まるのかを見てい行きたいと思います。このままでは何がどう結果値として出現するのか不明です。ですので、上記の表を参考に下記に数値差の参照表を用意しています。ご覧ください。

下記の表もクリックで拡大可能です。

 SOAは「2D6 x 2」の数値差をゲームに反映させるシステムですから各セルには攻防差によるDMPが表示される形になります。判り易く言いますと、縦軸「7」と横軸「7」の交点は攻防数差「0」となる数値が来るわけです。(上述の確率表の中心点2.78%強と同じ位置です。)この表から縦軸は攻撃側「2D6」横軸は防御側「2D6」と軸の意味を明確にしてあります。防御側の数差が勝っている場合は数値をマイナス「ー」表示にしています。

 ご覧頂くととお解りかと思いますが、ピンク色背景は±4までの数値で構成され、黄色背景は±1、±4,±5が同数づつある事が解ります。ここで仮に結果値として出やすいと考えられるこの数値群を「通常値」(-5~+5)として定義しておきましょう。

 さらに集計表を眺めますと高確率帯に、プレイ中によく出やすい「通常値」が全て集約されている、とまでは言えないようです。数値差の値が高いセルは周辺セル(高確率帯の周辺、としてそう表現します。)左下(背景を青色にて表示)に集中していますし、左上から右肩下がりに高確率帯を抜け通常値が並びます。通常値は低確率地帯にも分布していますので、高確率帯(70.4830%)のみでは通常値出現頻度の確率は明示しきれていません。また同じ流れですが、上記二つの対照表を参考に各攻防数差値の頻度確率を求めてみる事にします。下記「各数差・出現頻度確率表」と仰々しい名前を付けてしまっていますが、A1の確率対照表を数差により表示、各確率を群体にて提示しているに過ぎません。形を変えてはいますが、A1表と同様に1%以上の確率にはピンク色の背景、0.9%帯を黄色い背景にしています。確率表右手二列は二種類の群体確率を表示しています。

 群体確率の値分けは、高確率帯を基準に「±5」と「6~10」・「‐6~‐10」の三種としています。

 この群体分けがSOAにおける異常値の定義に関して説得力を持つのものかどうか、甚だ疑問でした。A1の確率参照表の比較的高確率(頻度1%以上、加えて1%に非常に近い確率)を選んだのは明確な意味のあるものではありません。その結果がたまたま「±5」のグループと「-6~-10」「6~10」を分ける結果となりました。

 ですが、結果的には驚くほどSOAにおける異常値の組み込みと処理の説明に都合が良すぎ、小生は困惑してしまいました。

 これはゲームデザイナーが「2D6 X 2」の持つ普遍的な要素を、意図的にSOAのシステムに組み込んである証左なのでしょう。

 「2D6 X 2」システムにおいて各数差の発生率は、

「‐10~0」の数差は約55% / 「1~5」の数差は約40% / 「6~10」の数差は約5% 

となって、発生する数差値が中央値「0」に近づくほどに、各数値の発生確率は高くなる。

 雑感4のテーマである異常値として定義するなら、異常値とは「-6~-10」「6~10」の集団数差である。となるかと思います。

 共に出現頻度が5%程度と低いのがその理由になりますが、中でもゲーム内で被損値として影響を及ぼす「6~10」を明確にSOAの異常値と呼んで良いのではないでしょうか。

*雑感3に掲載しました「2D6」勝率表の「Victory Avg」とほぼ同様の数値です。各々の数値差の確率をとらえることでより精緻に数字が出せた、と思えます。

 この数値差発生のメカニズムを「SOAの射撃の処理」に落とし込むと、例として、攻防差「0」の射撃を受けたドイツ軍「交戦状態の二個小隊(6個分隊)兵力」は95%の確率で発生したDMPを撤退の処理のみで済ますことが出来る、のです。

 ようやくここでSOAのシステムデザインの話しを絡ませることになります。誠に長々と「2D6 X 2」のお話をしてしまいました。

SOA/Battle System

 ドイツ軍の視点。/ 浸透作戦は2個小隊以上が基本。

 ドイツ軍はアルンヘムから英降下兵を一刻も早く一掃しなければいけません。しかしその為には頑強な英降下兵に肉薄する必要があります。1ターンはB地帯に待機しているボホルト大隊を展開するターンでありドイツ軍の戦略的指針を表明する大事なターンです。 昼間でもあり移動には危険を伴いますが、射撃チームを作る為に敵隣接エリアに部隊の浸透が不可欠な状況です。

 敵エリアに浸透する分隊数は6個分隊(二個小隊)を基準にすべき、だと確率表は訴えています。

 浸透エリアに二個小隊単位のユニット数を常に維持することにより、以下の対応が可能になります。

 英降下兵の分隊単体での射撃なら数差「6」以上が出る確率は5%強~9%強(攻防差「0」または「+1」の場合)と低く、また降下兵の射撃結果が良好でも通常値のDMP範囲内(確率は39%~50%程度)ならばドイツ軍に被害が出ても1~5DMPの被損値に収まります。6DMPまではエリアからの撤退で賄える事が出来ますので無駄に除去ユニットを増やさずに浸透戦術を行える可能性は非常に高いと言えます。

 さらに付け加えるならば、英軍射撃の45%強~55%強という確率が「損害(DMP)無し」の高確率です。浸透戦術は敵の反撃を躱しながら徐々に部隊を増やして行くものです。二個小隊による浸透は多少の部隊撤退を想定した部隊数ですので、結果値の「90%~95%」が許容範囲内という確率はドイツ軍に心理的余裕を齎すことでしょう。

 ドイツ軍の視点。/ 浸透エリアに固執するのはNG。

 不必要に浸透エリアに固執しても良い結果が生じないようです。

 浸透部隊に損害が生じたなら「撤退」処理で賄い「除去」は可能な限り行わない。浸透したばかりの部隊が全て撤退の憂き目を見ても、新手を投入すれば良いだけの話です。数的優位はドイツ軍のアドバンテージの一つですからゲームの趨勢が決するまで、決してこの数的優勢を手放してはいけない、と考えます。特に序盤戦では浸透エリアからの撤退かエリアを固守し部隊の損失でDMPを賄うか、どちらかの決断を迫られる状況が頻繁にプレイヤーを悩ませます。プレイヤーにとって重大な懸案が無い限り、DMPの処理に分隊の除去を用いるのは避けるのが賢明ではないでしょうか。

 丁寧に撤退処理を繰り返していてもドイツ軍小隊は退却に関するルール(Rulebook/8.355 RETREATS)のために細切れに分散せざるを得ない状況が発生します(そうなるようにデザインされています)。同じ所属の分隊が複数のエリアに分散すると小隊単位の射撃時に「下級所属部隊効果」を得る事が出来ません。ましてや分隊の全滅となると戦力の減少は当然として、小隊を再編成し直すことも出来なくなります。中盤・終盤に現れる分隊の混乱は、集中砲火というドイツ軍の切り札的戦術に少しづつ影を落としてゆくのです。

 ドイツ軍プレイヤーは敵射撃結果による混乱を最小限に抑え、自軍火力を維持し続ける努力が必要だと感じます。

ドイツ軍の視点。/ 纏めと追記。

 結論として、ドイツ軍浸透戦術は確率的に見て最終的には成功する、と言える数字を持っています。浸透する分隊を隣接エリアからの射撃回数に留意しながら徐々に浸透させていけば幾度目かの浸透で英降下兵の非交戦状態の分隊が尽きてしまうでしょう。もっとも浸透エリアに隣接する英軍エリアに充分な迎撃用の分隊を用意されている、と言うような「作戦負け」な状態ならば、話は別になります。第一ターンの両軍部隊配置が公開された時点で英軍の守備の弱いエリアを見つけ、序盤で部隊の再配置をするような柔軟な対応が必要です。

 上記の想定には英降下兵の集中砲火(複数のユニットによる攻撃)には言及していませんのでここで軽く述べておきます。

 英国軍の集中射撃は一時的には良い結果を招く確率が高くなります。しかし、相対的に敵浸透部隊に対しての射撃回数は減り、その後の危機対応能力自体が減衰することも英軍プレイヤーは想定せねばなりません。英国軍が力の限りの反撃をどのタイミングで行うか? ドイツ軍はそれを見越してどの程度の浸透用の部隊を温存するか? 

 ボード上に描かれた勢力図を睨み、互いの手の内を読み合う心理戦こそ、SOAにおける序盤戦のピークではないでしょうか。

最後に。

 SOAであなたはどちらの軍をプレイしたいですか?

 この問いには「連合軍」と答える方が多いのではないでしょうか。

 英第一空挺師団はマーケットガーデン作戦でも花形とも呼べる知名度です。さらに、寡兵で敵地深くに乗り込んで行くシチュエーションも浪漫に溢れていますしね。

 しかも兵数は劣勢、装甲車両部隊も重火器ユニットも連合軍には有りません。厳しい状況を打開し勝利することは熟練プレイヤーの腕の見せ所、な感じがとてもします。 ですが…… 連合軍は本当に、そんなに厳しい状況なのでしょうか?

 実は小生は連合軍がかなり有利なのではないか? と考えています。(補足として、ヴァリアントルールは考慮していません。)

 勝利条件は連合軍有利に感じます。なぜなら既に連合軍は全ての勝利ポイントエリアをゲーム開始時には抑えており、無理に攻め筋を作るような展開は不要だからです。さらにドイツ軍にとって勝利ポイント数は複数のターンによる積上げがないと達成不可能なことも理由の一つです。その辺りを考慮すると盤上における位置エネルギーは相当な比重で連合軍有利と言えないでしょうか。

 次に、分隊単位で構成されるユニットはどうでしょう。英降下兵ユニットの防御値はドイツSSより「+1~+2」高く、分隊単位の攻撃程度ではエリア奪取どころか、分隊の撃退も低確率でしか為し得ません。簡単ではありますが、ここも連合軍が有利ですね。

そして、小生が何より連合軍有利だと考えるポイントは、第1ターンの戦術的優位性を連合軍が握っている、事です。第1ターンは初期配置の状況が公開されるターンでもあり、両軍の基本的な戦況とギャップがありありと見えてしまいます。そのタイミングで連合軍は初手を指すことが出来る……これは非常に有利です。

 「敵の打ちたい所に打て」とは将棋で良く言われる言葉ですが、連合軍第一ターンがまさにその言葉通りの展開になる可能性が高く、ドイツ軍の浸透したいエリアをいち早く抑える作戦を熟練連合軍プレイヤーが見逃す筈が無い、と推察します。

 ドイツ軍も集中砲火に効果的なエリアを我が物にしたいがために早速両軍の激しい鍔迫り合いが始まるでしょう。序盤2ターンまでに効果的な射撃チームを幾つ編成出来るか、によってゲームの流れは大きく変わります。恐らく、第3ターンの開始時に射撃チームの編成が不可能だった場合、ドイツ軍は勝利ポイントを取り切れないだろう、と感じています。

 そして最後にもう一つ、英降下兵の可能性です。想像の域を出ませんが、小生にはまだ未発見の対ドイツ軍対策があるように感じます。あくまで想像なのでそんな戦術は無いのかもしれません。ですが……もし本当にそんな対応策があるとすれば、ゲームバランスは大きく連合軍に傾くことになるでしょう。

 上記が、連合軍が有利である、との小生の根拠です。ただ、連合軍プレイヤーの対応が後手に回り、早い段階でドイツ軍が射撃チーム編成を為した場合、このアドバンテージは瞬く間に逆転してしまうことも申し添えておきます。プレイアビリティが高く、序盤戦が重要なポイントを占めるウォーゲームであるSOAは研究し尽くせない程の魅力に溢れたゲームです。

 エリアマップと「2D6x2」システム。そして「戦術的優位性」という力業が混然一体となったSOAはウォーゲームのプレイアビリティを高めながら戦略性をシミュレートすることに長けたシステムを持つ稀有なゲームです。かなり優秀なこのシステムは現在でも「川口支隊の戦い」(Multi-Man Publishing / Area Movement Series )などのゲームに採用されており、様々な戦史的事象を表現するシステムの一つとして確固たる地位を築いています。恐らくこれから発表される未来のウォーゲームにもこのシステムが採用、又はさらに進化したシステムが発表されることは間違いないと思われます。これからこのシステムがどのように発展してゆくのか、一人のウォーゲーマーとして目が離せない次第です。

紙数が尽きました。

ゲームデザイナーの皆様に感謝しつつ、「SOA 雑感4最終回」の筆を擱かせて頂きます。

最後までお読み頂いた皆様、誠に有り難うございます。

 追記と謝辞。

 追記・小生が想定していた予定より大幅に時間が掛かってしまい、さらにはしっかりと纏めまで出来ていない雑感でした。小生の力ではSOAの魅力を語り尽くす事が出来ないのだと痛感致しました。SOAにかぎらずウォーゲームの本当の魅力はプレイでしか味わえないものです。もし、あなたの友人が奇遇にもこのゲームを持っていたとしたら、借りて一度はプレイしてみるべきです。好みは有るでしょうが、最高のゲームの一つであることは小生が保証します(小生が保証しても何にもなりませんが(笑))。

 謝辞・「雑感」は小生のSOAに対する稚拙な理解度の範疇の意見であり、すでにこのレベルを越えられた多数のプレイヤーにとっては噴飯物の意見である事は重々承知をしております。皆様方には苦笑しつつ暖かく見守って頂けると有難い限りです。

ご意見、ご要望お待ちしております。

 たしか、同様のシステムでスターリングラード市街戦を扱ったシミュレーションゲームが存在したかとの覚えがあります。確か小生も持っていたはず……今夜あたり引っ張り出してSOAと見比べてみようかな。