まずはこちらから、序章、空飛ぶニーズヘッグhttps://privatter.net/p/9495147
◆イントロ
むかしむかし
“闇の森”のケダモノの縄張りに、テレーズという若い修道女が迷いこみました。
彼女の故郷は貴腐熱なる疫病によって危機に瀕していました。
人々を癒すという聖杯を探しに、ここへとやってきたのです。
しかし“闇の森”は、人の身にはあまりに過酷。テレーズはケダモノに助けを求めます。
ケダモノはテレーズと共に、聖杯探索の旅に出ました。
▼イントロ予言
〈予言:あなたは聖杯を持たせ、テレーズを無事に帰しました〉(選択済み)
◆プレリュード
参加ケダモノ種:ドラゴン
名前:ニーズヘッグ 疑似餌の姿:褐色灼眼の青年
欲望:狭義、好奇 権能:暴虐
伝説1:【空飛ぶニーズヘッグ】 住処:空中移動都市
夢を司り、多くの財宝とともに空を飛ぶ翼竜。
太古の因縁により”光の主”が気に入らない部分もあるが、テレーズのように敬虔で純粋な人間にはむしろ好感をもって接する。
◆場面1「テレーズとの出会い」
概要:テレーズと遭遇し、願いを聞く
舞台:ケダモノの縄張り
この日、ケダモノは森が妙にざわめいているのを感じた。
縄張りの中で、一人の年若い修道女が獣たちに囲まれていたのだ。
彼女は短剣と護符を握りしめていたが、獰猛な獣たちはそれも意に介さず、獲物に狙いを定め舌なめずりをしている。
童話『空飛ぶニーズヘッグ』に登場する空中移動都市は実在する。しかし、ニーズヘッグが魔力を蓄え、必要に応じて飛ばすのであって、普段はこうして”闇の森”の一角に悠然と存在している。
ここは、ニーズヘッグの住処『廃城の玉座』。
ニーズヘッグの疑似餌 : 「こんなところに人間とは珍しい。助けて欲しいのか?」
テレーズ : 「そういう貴方も、人間のように見えますが……いえ、ケダモノ、ですね。――私を助けてくれるのですか?」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「俺はかまわない。こんな獣たち、指先一つだからな」
●試練:修道女テレーズを守る
権能:【暴虐】【慈愛】
難度:1
▼波乱予言
〈予言:テレーズの魂はおいしそうで、我慢できませんでした〉
〈予言:テレーズはケダモノの姿におそれおののきました〉
〈予言:テレーズは怪我して、歩けませんでした〉
2d6 ベースロール (2D6) > 7[3,4]
【虚栄の王冠】(特技C)使用
<特技予言:より優れたモノが現れました>獲得
1d6 [特技C]使用(ナンバー1、2) (1D6) > 1
権能【暴虐】使用 ダイスの振り直し
3d6 権能による振り直し([特技C]使用) (3D6) > 4[1,1,2]
波乱発生
[ ニーズヘッグ ] 受難P : 0 → 1
〈予言:テレーズはケダモノの姿におそれおののきました〉獲得
ダイス目の【1】を選んで、虚栄の王冠を未使用に。<特技予言:より優れたモノが現れました>消去
「さぁ見ただろう!俺の姿に恐れをなして逃げていったわ!!」
ケダモノは自慢げに獣を追い払ったが、当の修道女本人が彼の姿に恐れおののき、林の影に隠れてしまった。
「あぁ、主よ!どうかこの命をお救いください…私はまだ死ぬわけには行かないのです……!」
「何故だ!何故隠れる!助けてやったのに!」
ニーズヘッグは憤慨して地団太をふんだが、恐怖で震え上がるのも無理は無い。彼の背後では、大きなドラゴンが小火のような吐息を吐いている。
「私を助けたのは、あなたが私を食べるためでしょう!疑似餌で近づいてきても無駄です。私にはすでにその悪魔のごとき正体が見えていますからね!」
「くそ…面倒なことになった。――安心しろ。お前一人喰ったところで、俺の腹が満たされるはずもないだろ」
それこそ、街一つ飲み込むぐらいでなければ、と疑似餌がからからと笑う。
テレーズ : 「……いいでしょう。街まで案内させるつもりなのだとして、今すぐ丸呑みにされる、ということはなさそうです」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「もう何でも良いが……。見たところ、ただの迷子、というわけでもないようだな。この森に何か用事があるのか」
テレーズ : 「私は、修道女のテレーズと申します。聖杯を求めて”闇の森”に参りました」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「聖杯…?」
テレーズ : 「はい。ここ半年もの間、恐ろしい疫病が私の故郷を襲っています。全身に白いカビのようなものが広がり、高熱ののち死に至る。――聖典にも、厄災として記録されている貴腐熱、というものです」
テレーズは切り株に腰掛け、闇の森へやってきた経緯を話し始めた。
ニーズヘッグとその疑似餌も側に座り、軽く相づちをうつ。
テレーズ : 「修道院の文献には、かつてこの地を病が襲ったとき一人の聖女が聖なる杯によって人々を癒やした、と記されていました。その後、聖杯は”闇の森”へ返された、と……」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「なるほど。お前はそれを探しに来たのか」
テレーズ : 「はい。しかし闇の森はあまりにも広大で、私の手には余る、と思って居たところです」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「お前自身は、その病とやらは大丈夫なのか?」
テレーズ : 「……私にも、もう時間がありません。だから、もし…もしもあなたが、本当に私を助けてくれた心あるケダモノ様ならば、手伝ってはいただけませんか?」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「ふぅん……『書に記されし幻の杯』…悪くない。手伝ってやってもいい」
テレーズ : 「ありがとうございます!もちろん、ただでとは言いません。皆を助けた後、私の命は好きにしてかまいませんから」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「それもいいが……一度は”光の主”なんてものに捧げられた命だろう。あまり気が乗らない。――それより、聖杯だ!疫病が去った後、その杯、俺に献上せよ!」
テレーズ : 「え、それは……」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「何年かかってもかまわぬ。聖杯がその役目を果たしたならば、俺がもらい受ける。この条件が飲めないなら、お前はそこで野垂れ死ぬがいい!」
テレーズ : 「わ、わかりました……!無事に病を沈めることが出来た暁には、闇の森へ再びお返しいたします!」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「よろしい」
ニーズヘッグは、ニッと笑ったかと思うと、膝を打って立ち上がった。
「では行くぞ!」
かくして、一人と一匹は聖杯探索へ旅立った。
〈波乱予言:テレーズはケダモノの姿におそれおののきました〉←実現
◆場面2「聖杯探索」
概要:聖杯について調べる
舞台:外縁領域(闇の森)
●調査試練:聖杯について調べる
権能:【叡智】
難度:2
▼波乱予言
〈予言:あなたと聖杯には因縁がありました〉
〈予言:あなたは貴腐熱にかかりました〉
〈予言:聖なる力がケダモノをこばみました〉
2d6 ベースロール (2D6) > 9[5,4]
【虚栄の王冠】使用 1ダイス振り足し。
1d6 [特技C]使用(ナンバー1、2) (1D6) > 4
計13 達成+1 <特技予言:より優れたモノが現れました>獲得
2d6 ベースロール (2D6) > 11[6,5]
波乱は起こさず、達成+1
合計達成2 試練終了
まずは聖杯のありかを探す必要がある。
ニーズヘッグは、自信ありげに笑うとこう言った。
「ふっ、この世の財宝のことで俺が知らないことはない。俺が知らなくとも、これから会いに行くヤツが知ってる」
聖杯の伝説について、知っていそうなヤツに心当たりがある、としたり顏で、鶏の足が生えた小屋へ、テレーズを案内した。
ニーズヘッグの疑似餌 : 「ここに住んでるのは、知恵者のミミルズク・フレースヴェルグだ。ただし、偏屈で人間嫌いだから、心してかかってくれ」
テレーズ : 「たしか…ミミルズクは人間と契約して疑似餌とする、と聞いたことがあります。むしろ人間と関わって初めて真価を発揮するケダモノ種なのでは……?」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「人間と契約するといっても、せいぜいが百年二百年だ。フレースヴェルグの疑似餌があの姿になってから、もう千年近くは経つ。何故人間を嫌いになったのかは知らんが、あまり深く追求するな。ヤツのかぎ爪は、結構痛い」
テレーズ : 「……そうですか。肝に銘じておきます」
ニーズヘッグは、心してかかれ、と言う割に軽い足取りで鶏の足にかかった梯子を登り、小屋の戸口に立った。すると途端に「構わん。開いている」と中から神経質そうな青年の声がする。
恐る恐る扉を開け、中に入るとテレーズは感嘆の息をついた。
屋敷の中は、本であふれていた。沢山の本棚が並び、そこにぎっしりと書物や資料が詰まっている上、入りきらないものが床をも浸食している。
あきらかに、外観から予想される以上の空間だった。魔術か何かで、室内が拡張されているのだろう。
本棚の暗がりから、青白い顔の青年が現れた。この具合の悪そうな彼が、賢者ミミルズクの疑似餌だった。
「要件は分かっている。昨日の晩から”見えて”いた」
「おお、そいつは話が早い!」
ニーズヘッグは嬉しそうに手を打ったが、相手は煩わしそうな顔をしながら、本に埋もれた机からいくつかの資料を取り上げた。
「残念ながら、私が渡せる聖杯についての資料はこれだけだ」
●情報:聖杯について : 聖杯は神話時代に“光の主“が生み出したもの。
人を癒すブドウ酒を生み出すため、“ブドウの聖杯”と呼ばれている。
かつて聖女が“闇の森”より聖杯を持ち帰り、貴腐熱の流行を鎮めた。
その後、聖杯は“闇の森”の元の在り処に返された。
詳細は不明だが、それはこの聖杯が人々に混乱をもたらしたためだという。
●情報:聖杯について2 : “ブドウの聖杯”は深淵領域の奥底にある、野ブドウの木々に囲まれた祠におさめられている。
しかし祠に至るためには幻覚を生み出すキノコの群生地“胞子の迷宮”を通り抜けなければならない。
「素晴らしい…!伝説上の聖遺物に関して、これだけしっかりした資料をお持ちとは。…地図まで!――……ケダモノ様は、まさに神話の世界に生きておられるのですね。永遠の時の中を…」
「……」
テレーズが受け取った資料を眩しそうに見ているのを、フレースヴェルグの疑似餌はどこか白けたような顏で黙ってみていた。
ニーズヘッグの疑似餌 : 「テレーズ、用が済んだら長居は無用だ。――ヴェルグも、世話になった。これでお前にまた借りが一つだ」
フレースヴェルグの疑似餌 : 「返す気の無いものを借りるな」
軽い挨拶を交わし、一人と一匹はババ・ヤガーの小屋を後にした。
「……しかし、あの古の伝説が、現実のものだったなんて。きっとあそこにあった本はどれも、歴史的価値のある書物なのでしょうね」
テレーズはもう一度感嘆の息をついて、鶏の足が生えた奇妙な小屋を振り返った。
◆場面3「胞子の迷宮」
概要:胞子の迷宮を抜ける
舞台:胞子の迷宮(闇の森)
胞子の迷宮は、原初のキノコが繁茂する領域だった。
キノコ、といってもどれも数階建ての建物ほどの高さがあり、いくつもひしめき合うように並ぶ様は、まるで迷宮だ。
それらは時折、輝く胞子を放ち、しばしば迷い込んだ生物の感覚を狂わせた。こうして閉じ込められた動物は、皆ここで朽ち果て養分となり、また迷宮は拡大していく。
「クスクス」「クスクス」
意志持つキノコたちのさざめきが、新たな獲物を歓迎しているようだ。
●試練:胞子の迷宮を抜ける
権能:【狡猾】
難度:1
▼波乱予言
〈予言:生きながらキノコの菌床になりました〉
〈予言:聖杯の幻があなたを惑わし、危地に追い込みました〉
〈予言:忘れたはずの過去を、幻覚が蘇らせました〉
2d6 ベースロール (2D6) > 6[3,3]
特技【宝物庫】使用ダイス1つ振り足し。
1d6 [特技C]使用(ナンバー1、2) (1D6) > 3
波乱発生 〈予言:忘れたはずの過去を、幻覚が蘇らせました〉獲得
[ ニーズヘッグ ] 受難P : 1 → 2
【宝物庫】の特技≪予言:盗まれました≫獲得
ニーズヘッグの疑似餌は、彼の宝物庫から役立つモノを持ってきていなかったか、とポケットなどを探ったが、出てきたのは飛行機の模型が一つだった。
それは螺子を巻くと両翼が鳥のように羽ばたくもので、小さいながら動物的な動きがよく再現されていた。
『これはね、羽ばたき式飛行機って言うんだよ。君みたいに空を飛ぶんだ』
遠い昔の記憶が呼び覚まされ、ニーズヘッグは軽くかぶり振った。
「……?ケダモノ様、どうかしましたか?疑似餌の方も顔色が優れないようですが…」
「っ…いや。胞子のせいで妙なモノが見えただけだ。さっさと抜けてしまおう」
青年が二人、羽ばたき機を掲げて、自分の横を駆け抜けていく。
『馬鹿だなぁ、こんなの飛ぶわけないだろ。本物の翼じゃ無いんだから』
『君の翼をモデルに作ったんだよ?きっと飛ぶさ!ほら、見ていて!丘の下まで飛んでいくから!』
ニーズヘッグの記憶のなかに埋もれていた、過去の情景。
一人の少年と出会い、彼を背に乗せ飛んだ。そこから始まった、彼らとの夢を追う日々。やがて少年は大人になり、老人になった。
論理は飛躍し、模型は翼を広げた。もちろん、ともに夢を見ていた同士達は、そのことごとくが老いていった。ケダモノの彼だけを残して。
やがてドラゴンは夢を見る。彼らが空の向こう側にあると信じた理想郷、華やぐ空中庭園を……。
『人が空を飛ぶために、羽ばたき、という動物的機構は不要らしい。しかしね、美しいんだよ。君たちの羽ばたきという行為は、とても美しい。――あぁ、人間はなんて不格好なんだろう……』
巨大キノコが途切れると、ぱっと開けた場所にたどり着いた。
蔓状の植物が、天然のアーチを作り、頭上には快晴が広がっている。
「あぁ…胞子の迷宮を抜けました。一段落ですね」
テレーズの声も、心なしか晴々して聞こえた。
疑似餌は羽ばたき式飛行機のネジを巻いた。
投げるように飛ばすと、機械は緩やかに滑空して、音を立てて地面に落ちた。
ニーズヘッグの疑似餌 : 「……先を急ぐぞ」
テレーズ : 「無断で捨てていくのはいけません。たとえ、もう要らないモノだったとしても」
テレーズは、羽ばたき式飛行機を拾い上げてから、ニーズヘッグの疑似餌を追いかけた。
「ずいぶん古いものの様ですが、大切にされていたのですか?実はこれも何かの宝物で、素人にはわからない価値があるとか」
「価値があると思うのなら、お前にやろう。大切にしてやってくれ」
「私には分かりませんが、あなたが大切にしていたモノならば、きっとその価値があるのだと思います。……お預かりしておきますね」
機械を仕舞うテレーズの声はとても優しかった。
〈予言:忘れたはずの過去を、幻覚が蘇らせました〉←実現
◆場面4「修道女の心」
概要:テレーズと話す
舞台:野ブドウの林(闇の森)
迷宮を抜けると、そこは野ブドウの林が広がっていた。
これまでとは打って変わって、どこか穏やかな空気が満ちている。
しかし、疑似餌の隣を歩くテレーズは、少し苦しそうに息をついていた。見れば、彼女の首筋には、白いカビのようなものが広がっている。
これは彼女が話していた貴腐熱の特徴そのものだ。
「……なるほど、それが貴腐熱というものか」
「あ、すみません。お見苦しいものを……」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「お前は、何故一人でここへ来た?国に頼んで、探索隊を組織してもらうこともできたのではないか?」
テレーズ : 「ええ。でもきっと、もっと時間がかかったでしょう。それでは間に合わない。私が育てている孤児達の中には、一刻を争う病状の者もいます。だから、何があっても諦めるわけには行かないんです。――私、ケダモノ様と出会えて幸運でした。こんなところまで、とてもひとりでは来られなかった。感謝しています」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「どの口が言っているんだ。最初は悪者扱いしていたくせに」
テレーズ : 「ふふふ。修道院では、ケダモノは恐ろしい悪魔だと教わりました。私はそれを疑ったことが無かったのです。……でも、全然違った。神父様も間違うことがあるんですね」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「この世に『間違い』などというものは存在しない。我らドラゴンの夢と同じように、その者達の中ではそれが正しく、あるべき姿なのだ」
テレーズ : 「あるべき姿……。少なくとも私は、もうあなたが悪者だとは思えません」
「――…ところで、そろそろお名前を伺っても?」
テレーズに指摘され、ニーズヘッグは初めて自分が名乗っていないことに気がついた。
「俺の名前はニーズヘッグ。『空飛ぶニーズヘッグ』だ」
「ニーズヘッグ様。このご恩は決して忘れないでしょう。さぁ、聖杯はもうすぐです。――行きましょう!」
テレーズは、健気に笑いかけ、野ブドウの林を歩いて行く。
◆場面5「暗黒の狩人たち」
概要:ヤミオオカミを撃退する
舞台:聖杯の祠(闇の森)
生い茂る野ブドウを分け入っていくと、ついに白亜の祠が姿を現した。しかし、門の前では幼い子供たちが数人、所在なげに座り込んでいる。
「おかあさん、どこ…。恐いよ、恐いよぉ……」
子供たちの泣き声が聞こえると、テレーズはひどく動揺した表情でニーズヘッグを振り返った。
「罠、でしょうか。でも…万が一にでも本当だとしたら。見捨てるなんて、とても……」
「まぁ、待て」
今にも駆け出しそうな彼女を制し、ニーズヘッグが言った。
「冷静に考えて、子供がこんな場所に居るはずが無い。本当だったら、あの胞子の迷宮を抜けてきたことになる。それに……微かだが影海の匂いがする。あれはヤミオオカミだ」
人間には知覚できないが、影海には匂いがある。微かに夜の海のような香りがするのだ。あの子供たちからはその香りがする。人ならざるモノであることは確実だろう。
テレーズを下がらせ、ニーズヘッグの疑似餌が子供たちへ近づくと、ヤミオオカミの群れが影から踊り出し、一斉に飛びかかった。
しかし、彼らは若いゆえに分からなかった。このドラゴンが自分たちよりも優れた存在であることが。
「まだどれも若いな。力量差の分からぬ雑魚め」
次の瞬間、疑似餌のすぐ後ろに控えたニーズヘッグが、口を大きく開き業火の炎を吐き出した。これこそが、ドラゴンの吐息。
「群れなければ狩りの出来ないオオカミ共など、敵では無いわ!影海ごと焼き尽くしてくれよう!ははははは!」
テレーズ : 「す、凄まじい火力ですね……。子供達はどうなりましたか?」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「あんなモノ、ただの疑似餌だ。どれも若い個体で、影海への潜り方が浅い。あれでは何匹か、焼け死んでしまったかもしれんな」
テレーズ : 「まぁ……。人間ではないとはいえ、無駄な殺生はいけないことです。やはり、あなたは悪いケダモノ様の様な気もしてきました……」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「つべこべ言うな。これで邪魔者はいなくなっただろう」
テレーズ : 「それはそうなのですが…」
<特技予言:より優れたモノが現れました>←実現
◆場面6「ブドウの聖杯」
概要:聖杯を得て、テレーズと分かれる
舞台:聖杯の祠(闇の森)
薄暗い祠の奥には、古くて小さな杯が置かれていた。一見、どこにでもあるありふれた骨董品のように見える。
テレーズが近寄り手に取ると、どこからか穏やかな女の声が響いた。
「この杯にあなたの血を捧げなさい。あなたが真に敬虔であれば、万病を癒やすブドウ酒に変じましょう」
その言葉とともに、テレーズの指先がひとりでに裂け、滴った血の一滴が杯にこぼれた。すると、杯の底から湧き出すようにブドウ酒が杯を満たした。
彼女がこわごわ聖杯を煽ると、肌に広がったカビのようなものが剥がれ、熱っぽさも消え去った。その肉体から病魔が消え失せたのだ。
「民は安らぎをえるでしょう。あなたの受難と引き換えに……」
その言葉を最後に、女の声は二度と聞こえなかった。
テレーズ : 「今のは…聖女様のお声……?でも、なんだかひどく悲しげでした…」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「無垢で敬虔な血と引き換えに、全てを救う。――なるほど、これが神秘の聖杯か」
テレーズ : 「私は大丈夫です。ほんのちょっとの血でいいんですから。……なにより、これでみんな救われます。ここまで連れてきてくださったニーズヘッグ様のおかげですね。ありがとうございます」
ニーズヘッグの疑似餌 : 「礼を言うにはまだ早いのでは無いか。お前はこれからが一仕事だろう。それに、聖杯が役目を果たした暁には、俺の元に返しに来るという約束、忘れていないぞ」
テレーズ : 「もちろん!私、いっぱい頑張ります!」
”闇の森”への入り口――回廊は数多存在している。
ニーズヘッグは、テレーズを彼女の村にほど近い回廊へ送り届け、しばしの別れを告げた。
しかし、めでたしめでたし……、とは行かなかった。
〈イントロ予言:あなたは聖杯を持たせ、テレーズを無事に帰しました〉←実現
◆場面7「酸っぱいブドウ」
概要:テレーズが魔女として告発される
舞台:人間の世界
修道女テレーズは病に苦しむ子供達に、ブドウ酒を振る舞った。それから村人達に、噂を聞きつけてやってきた人々に……。
ブドウ酒の聖女テレーズの噂は、たちどころに広まり、人々の希望の光となった。しかし彼女は、ブドウ酒がなにから生み出されるのか、それだけは誰にも言わなかった。
聖女といっても一人の人間。テレーズが救える数には限りがある。その手からこぼれ落ちた人々は、彼女を妬み、あの不思議なブドウ酒の秘密を暴いてやろうと考えた。
そして、ついに不満と疑念があふれ出す。
「この魔女は己が血を、患者達に飲ませていたぞ。あの”闇の森”から無傷で帰ったのだ。これは聖杯などではない。人食いどもから授かった、悪魔のわざだ!」
◆場面8「聖女の運命」
概要:孤児たちがケダモノに助けを求める
舞台:ケダモノの縄張り(闇の森)
あれから半年が経った。
ニーズヘッグの縄張りはまたしてもざわめき立っていた。また人間の気配だ。
何者か、と見に行くと、人間の子供たちが数人つれたって泣きながら歩いていた。
先頭の子供は、あの修道女が持っていた魔除けの護符を握りしめている。
あのテレーズが、子供たちをこんな危険な場所によこすだろうか。
きっと何かがあったのだ。一体何が……。
「おい、そこな人間の子供達。修道女テレーズの知り合いだな」
「あ、あなたは、ニーズヘッグ様…ですか?」
疑似餌で話しかけると、とたんに子供たちはニーズヘッグを取り囲んだ。
「テレーズお姉ちゃんをしってるの…?」
「大変なんだ!お姉ちゃんが連れて行かれちゃって…」
「ケダモノ様!お願い、テレーズお姉ちゃんを助けて!」
子供達が口々に話し出したので、
「おいおい、一度に話されるとわからん。順を追って説明しろ」
「うん……。テレーズお姉ちゃんが、王都からきた騎士団に連れて行かれちゃったんだ。妖術を使って、皆を騙したって――」
一番年長らしい少年が一人前に出て、事の次第を話し始めた。
「なんだと…!?」
◆場面9「裁かるる聖女」
概要:テレーズを火刑から救う
舞台:牢獄
火刑前夜。
明かり取りの窓から、白い月明かりが差し込み、吹きさらしの牢屋をさらに寒々しく写している。
テレーズは冷たい床に膝をつき、静かに最後の祈りを捧げていた。
明朝、王都の広場には大勢の群衆が集まるだろう。多くの人間の思惑の中、彼女は火刑に処される。
教会の権威を離れ、人望を集める聖女への危機感。薬師たちからの嫉妬と猜疑。
聖杯を我が物にしたいという私欲。
なぜ聖女のいる村は助かり、自分の故郷はそうでなかったのかという悲痛……。
その全てが一人の修道女を、魔女へと仕立て上げた。
●試練:計略でテレーズを解放する
権能:【狡猾】【叡智】
難度:2
▼波乱予言
〈予言:貴腐熱が“闇の森”を地獄へと変えました〉
〈予言:聖杯は打ち砕かれ、人は病に抗う術をなくしました〉
〈予言:テレーズの生き様は捻じ曲げられて後世に残りました〉
〈予言:テレーズの子供たちは、テレーズを憎みました〉
〈予言:テレーズは信仰を失い、聖杯がふたたび満ちることはありませんでした〉
〈予言:テレーズは人の世を捨て去りました〉
2d6 ベースロール (2D6) > 11[5,6]
特技、不使用 達成+1
2d6 ベースロール (2D6) > 5[2,3]
【竜の夢】使用 3ダイス振り足し
特技≪予言:あなたはその悪夢にとらわれてしまいました。ずっとずっと……≫獲得
3d6 [特技A]使用(ナンバー5) (3D6) > 12[3,5,4]
計17 達成+1
合計達成2
テレーズが薄暗い月明かりの中、目を伏せて祈りを捧げていると、果たして自分は起きているのか眠ってしまったのか、はっきりしない瞬間が訪れた。
「人間の作った牢を破ることなど、造作も無い。俺の宝物庫には、この世全ての錠という錠を開けられる魔法の鍵があるからな!」
夢の淵を彷徨う意識の暗がりに、あのドラゴンの声がする。
疑似餌を介した声ではないはずだ。なのに、不思議と言葉の意味は聞き取れるし、彼の声だとすぐに分かった。
あぁ、これは夢なのだ。ドラゴンたちは他人の夢に干渉できると聞いたことがある。ならば自分は、眠ってしまったのか……。
「ニーズヘッグ様…。こんな場所まで、私を助けに来てくれたのですね」
「お前が世話をしていた子供達が、俺の縄張りまでやってきた。奴ら、泣いていたぞ。――さぁ、背に乗れ。牢番たちに気づかれる前に逃げてしまおう」
「……とてもありがたい申し出ではありますが、――断らせていただきます」
テレーズはゆっくりと首を横に振った。
「何故だ!」
「今私が、ケダモノ様のお力を借りて逃げ出せば、”光の主”に背いたことを認める様なもの。そうすれば、私が育てていた孤児達も、村の修道院もあらぬ疑いを掛けられてしまう。それだけは避けたいのです」
「愚かな。そんなことのために、みすみす死んでやる必要は無い!」
「いいえ、私にとって命と同じぐらい大事なこと。ニーズヘッグ様には申し訳ありませんが、逃げることはできません」
「ぐぅ…!強情な女め!俺は今すぐお前を食い殺してしまっても良いのだぞ!」
焦りからか、その純粋な心からか、いつしかその声は怒気をはらんでいた。
「構いません。元々、聖杯探索のお礼に、死後の魂はあなた様に差し上げるつもりでしたから」
「……分かった。お前がそのつもりなら、こちらも考えがある。お前がこのまま死ぬというなら、この国まるごと飲み込んでやるぞ!それでもいいのか!」
テレーズは、ニーズヘッグの咆哮に少しも怖じること無く、むしろ少し笑いかけた様にも見えた。
「何がおかしい!!」
「あなたにそんなことは出来ません。『空飛ぶニーズヘッグ』というおとぎ話に出てくるあなたは、国を丸呑みにするほど巨大で意地悪だけれど、私があの森で出会ったあなたは、意地悪でもないし恐ろしく巨大でも無かった」
修道女はあくまでも優しく、ドラゴンに語りかけた。
「――あなたが不思議な都市に住んでいるのは事実でしょう。でも、その経緯は全く違うものだったのでは?」
ニーズヘッグは、ただため息をついた
「……たとえ、お前がおとなしく殺されても、疑いが晴れることは無い。死んだ後ですら、皆お前を魔女と罵る。それが奴らの信じたいことだからだ。…そんな奴らのために、死んでやるのか?」
「はい、もう覚悟は決めていますから。私の死に際し、聖杯はやはり”闇の森”にお返しします。ニーズヘッグ様、あなたがお持ちになってください。おそらく審問所で管理されているでしょう」
「ちっ……!もう俺は知らん!好きにせよ!」
「あぁ、渡し忘れるところでした。これを――」
背を向けたニーズヘッグにテレーズは再度声を掛けた。
修道服のポケットから羽ばたき式飛行機を取り出すと、彼女はニーズヘッグに笑いかけた。
「これだけは、なんとか押収されずに済みました。きっと子供のオモチャだと思われたのね……」
木材と螺子といくつかの金具で出来た、鳥のような飛行機。ニーズヘッグは、じっとそれを見つめた。
「……それはオーニソプターと言う。『羽ばたくモノ』の証。最後まで、有翼飛行にこだわっていた者達が、同士の証として持っていた。それももはや、俺だけになってしまったがな」
「それならこれは……とっても大切なモノじゃないですか」
ニーズヘッグは、オーニソプターを軽く咥えると、尋ねた。
「最期に聞きたいことがある。今、人はどのように空を飛ぶ?」
「私は乗ったことがありませんが、気球というもので飛ぶそうです。空気の力で飛ぶのだとか」
「そうか。……そうか」
【伝説『空飛ぶニーズヘッグ』】使用
・特技予言≪あなたはその悪夢にとらわれてしまいました。ずっとずっと……≫を消去
・調査試練「聖杯について調べる」の波乱〈予言:あなたと聖杯には因縁がありました〉を獲得
青白い光を背に、ドラゴンが飛んで行く。
オーニソプター ――人の夢を咥えて。
「これが彼女に課せられた受難なのか。これでは…あんまりじゃないか……。”光の主”よ、これがあなたの望んだ世界なのか…!」
祈りに似たドラゴンの咆哮に、夜風は冷たく吹き付けた。
異説オペラ【天罰】使用
オペラ<予言:奇跡が罪深きモノを滅ぼしました>獲得
翌日朝早く、審問所は騒然とした。
昨夜遅く、牢屋と詰め所に何者かが侵入したからだ。侵入者は、難なく牢番を出し抜き、魔女が収監されている鉄格子の扉を開けておきながら、彼女を連れては逃げなかった。……ただし、彼女の持っていた『聖杯』だけは忽然と姿を消していた。
≪予言:盗まれました≫←実現
―――◆―――◆―――◆―――
それからすぐ、ニーズヘッグは空中移動都市ごと、長い旅に出た。
これは、彼が世界を一回りし、帰ってきた時のこと……。
彼の疑似餌は、鶏の足が生えた小屋を訪ねた。
「おーい、帰ったぞ!土産だ、いつかの借りを返してやる」
「お前が借りを覚えているとは意外だな。死ぬのか?」
そこには変わらず神経質な青年が書籍に埋もれたように暮らしていた。
「死なんわ! ――立ち寄った街の闇市で妙に魔力を帯びた書を見つけた。お前が好きそうだと思って買ってきてやったぞ」
「……見たことの無い言語で書かれているが、おそらく『ネクロノミコン』に類するものだろう。――あぁ、そういえば。お前が帰ってきたら言おうと思っていたんだ」
フレースヴェルグの疑似餌は、世間話でもするようにそう言って続けた。
「昔、お前修道女と聖杯を探していただろう。彼女を火刑に処した王都、あれから五年も経たないうちに、滅びたぞ」
「……そうか」
けして口には出さなかったが、天罰だろうと思った。
奴らはよってたかって、罪無き無垢な命を傷つけた。王都滅亡は、”光の主”から使わされた報いだ。
「ははは。そうか。そういうこともある、か」
それ以降、ニーズヘッグはことあるごとに旅に出た。
今彼がどこに居るのか、それを知るものは誰もいない。空を飛び移動し続ける空中都市を住処にしているのだから。
しかし、どんなに遠く、永く旅をしても、あの修道女と聖杯のことを忘れることは出来なかった。
オペラ<予言:奇跡が罪深きモノを滅ぼしました>←実現
――670年後
若き英雄は飛空艇で、空中都市に乗り上げた。
「ここが邪竜の住処か。恐ろしく静かだな……」
無人の街に驚きながらも、警戒を怠らずに、竜が眠る王城の玉座へ歩みを進める。
「客人とは珍しい。貴様も俺から聖杯を奪いに来たのか?」
「違う!俺たちは、聖杯を取り返しにきたのだ!――お前こそ、かつて聖女から聖杯を盗み、王都に百の災いを振らせ滅ぼした憎き邪竜・ニーズヘッグ!」
「……ぬははははははっ!!!!」
ニーズヘッグは勇者の言葉を聞いて、大笑いした。
それは咆哮と言っても過言では無いほどの大きな声で、その振動が広間をぐらぐらと揺らし、ぱらぱらと砂塵が降ってきたほどだ。
「面白い!面白いではないか!いいだろう!その戦い、正々堂々受けて立とう!!」
聖杯との因縁により、ニーズヘッグは数多の英雄と戦う運命なのだ。
彼を倒せる猛者が現れる、そのときまで……。
波乱<予言:あなたと聖杯には因縁がありました>←実現
ケダモノオペラ『ブドウの血の聖女』あるいは『ニーズヘッグのたからもの』
おしまい。