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【キズナバレット】「キリング・ナイト」【仮想卓ログ】#2

・はじめに・

 こちらは、『キズナバレット』の仮想卓ログ#2です。#1はこちらからどうぞ。
 全部オレ状態なので、多少のぎこちなさはご容赦ください。
 基本ルールブックに掲載されているシナリオ「キリング・ナイト」を改変しております。

・前回のあらすじ・

 とりあえず大まかなところは解ったから、実際にセッションをしてみよう!
 ヒトガラのロールプレイで調査判定のダイスが増えるんだって! やったね! ――いや、失敗すんのかいっ!

ハウンド
名前:世良華音 年齢:享年16歳
ネガイ:復讐(表)/善行(裏)
耐久値:33 作戦力:6
キズナ:
 【ピアノ】母が教えてくれた ←ヒビワレ
 【自宅】帰れないからこそ帰りたい
キズアト:《善舞器官》
ヒトガラ:
 過去:小さな希望 遭遇:帰宅途中
 外見の特徴:おでこ ケージ:お洒落
 好きなもの:歌 嫌いなもの:音楽鑑賞
 得意なこと:ピアノ
 苦手なこと:騒がしい場所での会話
 喪失:聴力、ためらい
 リミッターの影響:不安定
 決意:戦う 所属:SID おもな武器:小太刀
ペアリングマーカー:
 位置:背中…興味 色:緑…安らぎ
イメソン:『このピアノでお前を8759632145回ぶん殴る/SLAVE.V-V-R』

オーナー
名前:佐伯蒼太 年齢:26歳
ネガイ:善行(表)/究明(裏)
耐久値:21 作戦力:11
キズナ:
 【菊地隼斗】親友、”人間”のお手本。今は居ない。
 【一人の食卓】過去に残る孤独の原風景。
ヒトガラ:
 過去:失踪 経緯:好奇心
 外見の特徴:張り付いた笑顔 住居:同居
 好きなもの:水煙草 嫌いなもの:一人の食事
 得意なこと:知恵働き 苦手なこと:本音で話す
 喪失:痛覚 ペアリングの副作用:依存症:煙草
 使命:問い 所属:SID おもな武器:グロック19
ペアリングマーカー:
 位置:首…執着 色:青…信頼
イメソン:『火星人/ヨルシカ』

最初の思い出
 ペアリングを終えた君達は、食事へ出かかることにした。[ファミリーレストラン]に入った君達は、[ぎこちない会話]をしつつ食事を楽しむ。[強盗の襲撃]というトラブルをなんとか乗り越えた君達は、[次は部屋で食べよう]と約束するのだった。

▽調査フェイズ

調査シーン1:佐伯 蒼太
調査表・ベーシック(12) > 聞き込み(繁華街):繁華街の店員や通行人に聞き込みしてみよう。小さな違和感や気がかりがヒントになるかも。

 佐伯蒼太は『新宿クラブ大量殺人事件』について、周囲で聞き込みをしていたが、犯人の人物像も解っていないのに、闇雲に聞いて回っても収穫があるはずが無い。
「やれやれ…。やっぱり監視映像が手に入るまで待機かな?」
 新宿を代表する繁華街、歌舞伎町の派手なネオンを見ながらポケットのVAPEを取り出す。
 しかし、じっとしているのも性に合わない。なにか出来ることはないか、と辺りを見渡すと、ちょうど往来のど真ん中でチンピラ同士の喧嘩が勃発していた。良い見物である。
「おっ、いいぞー。火事と喧嘩はなんとかって言うしね」
 ポケットシーシャの甘い香りが現実感にぼかしをかけた。
 彼らは周囲の看板や違法駐輪自転車などを使って、アクションゲーム差ながらのバトルを繰り広げていた。通行人は巻き添いを喰わないよう、遠巻きにして通り過ぎていく。
 ヤジを飛ばす人だかりの中に、見覚えのある人物を見つける。マックス・ゴウダと言ったか。喧嘩中の仲間を激励している様子だ。
 彼は確か…裏町の顔役、を自称している男だったはずだ。先日、華音と外食したとき、自分たちと同じようにトラブルに巻き込まれていた。
 もしかしたら、クラブで起きた殺人事件について、なにか知っているかもしれない。少なくとも声をかけて損は無いだろう。
「やぁ、ゴウダ君じゃないか。一月ぶりぐらいかなぁ?」
 務めて笑顔で声をかける。
「あぁ?誰だオマエ」
「ほら、この間ファミレスであったじゃないか。店が強盗に襲撃されたとき、君もあの場にいただろ?」
「――あぁ、思い出したぜ! あの時の! …前は、女の子と一緒じゃなかったか?」
「うん。今は諸事情あって、別行動なんだ」
 左手の腕時計で時間を確認すると、ちょうど八時を過ぎたあたりだ。
(華音とはすぐ合流出来そうもないな。……あの子は僕のこと嫌いだし、夕飯は一人で食べておいで、って言ってあげた方が良いのかも)
「ところで君達、ご飯はまだかな? せっかくだから、皆でなにか食べない? ちょっと聞きたい事もあるしね」
 華音と約束をしていたが、自分もそろそろお腹が空いた。かといって一人で済ませるのも味気ない。それに、上手くいけば有意義な情報が聞ける可能性がある。
「おぉ、いいぜ! ところで、それはオマエのおごりなんだろうなぁ?」
「もちろんさ! 他人の金でたらふく焼き肉を食ってくれよ」
 かくして佐伯蒼太は幾ばくかの金銭と引き換えに、ある種の情報網を手に入れた。

「で、聞きたい事ってのはなんだ?」
 マックス・ゴウダが、良いあんばいに焼けた漬けカルビを口に放り込み、白米をかっ込む。
「それなんだけどね。先頃、ここから近いクラブで起きた殺人事件を知ってる?」
 焼き肉店は大勢の客で賑わっていた。このボックス席はゴウダの仲間と、佐伯が占領する形になってしまった。
 佐伯も牛タンに刻みネギをのせる。
「知ってるぜ! まだ規制線が張ってあるとこだろ。百人は死んだって?」
「はは、それはちょっと盛りすぎてるな。死んだのは20人だよ。僕たちはその事件について調べていてね。このクラブに良く出入りしてた人間で、怪しい人物などはいなかったかな? よくトラブルを起こしてた、というような」
 佐伯が伝えると、ゴウダが同じく焼き肉を楽しむ仲間達に、「おい、知ってるか?」と声をかける。

GM/プロンプター : ヒトガラ/嫌いなもの:一人の食事 確認。
 ダイス+1 [調査判定]をどうぞ。情報1の開示値は3です。
佐伯蒼太 : 調査判定 [6,5] > [成功]
世良華音 : 本当に取り返しやがった。
調査進行度 : 1 → 3
[ 佐伯 蒼太 ] 励起値 : 1 → 2

 ゴウダの仲間の中から「その件について関係あるかは知らないが、最近問題を起こしているヤツは一人知ってる」と話が上がる。
「――…たしか、アイツの名前は『芥ハジメ』とか言ったか?」

情報1「大量殺人の犯人について」 開示値:3
 目撃証言や現場周辺の監視映像などから、キセキ使いとおぼしき人間を特定できた。芥ハジメという不良青年である。被害者の中には彼とトラブルをおこしたヤクザたちが含まれていた。しかし、たとえ怨恨を晴らしてもキセキ使いの凶行は止まらない。範囲を広げて情報を集める必要があるだろう。

「何事も聞いてみるもんだね。助かったよ、ありがとう」
 ぞろぞろと焼き肉店を後にするチンピラに続いて、佐伯も店を出る。
 多少財布が軽くなってしまったが、まぁいいだろう。必要経費としておこう。
 別れ際に笑顔でお礼を言うことも忘れない。
「また何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ!ここは俺様の街だからな!」
「うん、頼りにしてるよ」
 終始楽しげな雰囲気で、この夜は解散となった。
 ゴウダたちと別れてから、改めてメモを整理する。
「芥ハジメ、か。警察のデータベースで照会してみようかな。多分前科持ちだろうし。顔写真も手に入れたい所だけど、それは華音のカメラ映像に期待しよう」
 と言ったところでスマホが着信を告げる。折良く相手は華音だ。緊張した声が聞こえる。
『も、もしもし…! アタシだけど』
「佐伯です。そっちの守備はどうだい?」
『映像は手に入った。けど、ちゃんと確認はしてない』
「了解しました。どこで落ち合う?」
『佐伯は今どこ?』
「歌舞伎町の牛角の前」
『……』
 電話口でも、すっと相手のテンションが下がったのが解った。しかし、佐伯はその理由が解っていない。
『……晩ご飯は? 二人で食べるって言ってたよね?』
 華音が重ねて聞いた。
「あぁ、実はもう食べちゃったんだ。華音はなにか食べた? まだなら、君も何か食べておいでよ。お金は渡してあるよね?」
『――…サイテー』
 重たいトーンでそれだけ言うと、一方的に通話を切られてしまった。
「あれ…?」
 佐伯は首を傾げた。

▽交流シーン

「ごめんね、まだ怒ってる?」
 車に戻り、佐伯がノートパソコンでカメラ映像を確認しながら聞いてくる。
 助手席の世良華音は、ふくれっ面のままそれを無視して、そっぽを向いた。
「華音がそんなに気にすると思って無かったんだよ」
「……仕返しのつもり?」
「仕返し?」
 佐伯が、膝に乗せたノートパソコンから顔を上げる。
「朝の仕返しのつもりかって聞いてんの!」
「それは昼間謝ってくれたし、もう終わった話だと思ってたな。仕返しなんて考えてなかった」
 じゃあなにか、佐伯は単純に華音との約束を忘れていたのか?
「……本当にサイテー! せめて、ちゃんと納得できる言い訳を聞かせてくれないと、腹の虫が治まらない!」
「時間も時間だったし、ハウンドの自由時間は貴重だ。…それに、華音は僕のこと嫌いだろ? わざわざ嫌いな奴の顔見ながら食べることも無いと思ってさ」
 腹の底が煮えかえるようだった。自分が火山だったなら、瞬間的に噴火しているし、湯沸かし器ならお湯が沸いている。
「誰がそんなこと言ったんだよっ!!!」
 今日一番大きな声が出た。
 佐伯の整えられたスーツの襟首を掴んで、力一杯引き寄せる。
「アタシは! そんなこと! 一言も! 言って! 無い!!」
 意外なことだが、流石に佐伯も驚いた様で、その顔から笑みが消えて目が点になっていた。
「……えっ、と」
「心底嫌ってるヤツとルームシェアなんてしない! アタシは、佐伯と話して信頼できるヤツだと思ったから……! そりゃ、特別好きとは言わないけど、嫌いなんて事は絶対に無い!」
「でも、いつも怒ってるし」
「それは…っ――ごめんねっ! アタシが悪いよ!」
 吐き捨てるように言って、同じように胸ぐらを掴んでいた手も離してやる。
「もぅぉぉ……! なんで本人に聞いても居ないのに、勝手に決めつけて変な気を遣うんだよ! 下手くそなんだからそういうの辞めろ! 余計にイライラする!」
「あはは…」
 佐伯は、『善良な市民』の皮を被ったマッドサイエンティストだ。関係の浅い人間ならともかく、普段から生活を共にする華音には解る。
 SIDの研究者だったと聞いて、すぐにピンときた。こいつは、一番間近でハウンドを観察、データ収集したくてオーナーになったんだ。借り受けた備品のメンテナンスは欠かさないだろう。佐伯は下手くそなりにそこへ人間らしい温かさを乗せようとするので、ちぐはぐになる。
「お前、人間不慣れなのが丸見えなんだ!」
「肝に銘じておきます」
 一旦気持ちが落ち着いたかと思ったら、今度は自分に対する嫌悪感がふつふつと湧いてきた。
「……もっと怒鳴らないで言えれば良いのに…っ。この性質のせいで、アタシいつも損してる!」
 何故いつも声を荒げてしまうのか。何故咄嗟に手が出てしまうのか。そのせいで相方にもひどい誤解をさせた。自分が嫌で嫌で仕方ない。
 それを自覚したとたん、目頭がじわと熱くなってきた。
「華音、泣かないで」
 佐伯が差し出すハンカチをむしり取ってすかさず両目に当てる。涙の粒が瞼から落ちるのを、彼に見られたくなかった。
「わかんないっ…! わかんないの! ……何でこんなに、感情がぐちゃぐちゃになっちゃうのか…自分でもわかんない!」
 泣き辞めない自分を前に、佐伯が少し動揺しているのが解る。壊れ物を触るように、そっと肩を抱かれた。
「あのさ、この仕事が済んだら、華音の好きな物を食べに行こうよ。…家で僕が作るんでも良いけど」
「……やきにく」
「焼き肉?」
「佐伯だけ牛角なんてずるいっ……アタシも一緒に食べたかったよぉ……っ!」
「あはっ…はは……」
 気の抜けた佐伯が、ふふふ、と肩をふるわせる。
「ごめん、ごめん」
 華音が泣き止むまで、佐伯はずっと慣れない動作で背中を撫でてくれていた。

[ 佐伯 蒼太 ] 励起値 : 2 → 3
[ 世良 華音 ] 励起値 : 3 → 4

▽インタールード

世良華音 : このままだとキズナが焼き肉になりそう。
 マジでコイツ、人の気持ち分からねぇな、とは思った。約束軽視するし。あと、勝手に人の気持ち決めつけてる。
佐伯蒼太 : えー、気持ちを察して空気を読む、っていうのとは違うの? まだちょっとよく分からないんだよね。
 僕は、華音は焼き肉が好きなのでは、という新たな一面を発見したよ。
世良華音 : 違う違う!そうじゃ、そうじゃなぁーい!

[ 佐伯 蒼太 ] 励起値 : 3 → 4
[ 世良 華音 ] 励起値 : 4 → 5

▽調査フェイズ 二週目

ターンテーマ表・クール(63) > 好きなもの:パートナーの好きなものは何だろうか。まだ知らないものがあるのかも。
調査シーン2:佐伯 蒼太
調査表・ダイナミック(61) > 力試し:情報の代価に、腕試しや度胸試しを提示された。提案に乗るか、他の条件を提示する必要がある。

 佐伯が、ナチュラルに夕飯の約束を反故にした件について、一応の和解を見た後。改めて二人で、どうやって芥ハジメの足跡をたどるかについて話し合っていた。
 その時、外から車の窓をノックする影が現れた。

「失礼、ちょっとよろしい。先頃、私たちコープス・コーが目をかけているクラブに侵入し、カメラ映像を盗んだのは、あなた達かしら?」

 窓をノックしたのは、華音よりも小さな少女だった。幼女と言っても差し支えないだろう。
 ロリータ風、というのか。フリルやリボンが目立つ服装で、肌は青白く瞳は澄んだグリーンだった。日本語の発音に違和感は無いが、明らかに日本人ではない。そして彼女の隣には、同じく外人と思わしき赤毛の青年が控えていた。
「コープス・コー、だって?」
「マル無視されることは無い、と思っていましたが、随分早かったですね」
「お、おい佐伯!お前、解ってて私をあの店に侵入させたのか!?」
 コープス・コーというのは、新宿歌舞伎町を裏で牛耳っている犯罪結社だ。前身は北米系のマフィアだと聞く。
「そもそも、新宿のクラブで彼らの傘下に入っていない方が、今時珍しいよ」
 佐伯が肩をすくめる。
 彼女たちが此方の言い分を聞く気が無いのは、隣に立つ青年を見ればよく分かる。彼はハウンドだ。青い瞳もさることながら、何より首に装着されたハーネスが彼の正体を明らかにしている。
「そう警戒しないで。こちらとしても、できれば手荒なまねはしたくないの。私たちのボスが、あなた達とお話をしたいと言っているわ。付いてきてくださる?」
 車の中から隣の青年を見上げると、リベルの影響が見られる青い瞳で、ぎろり、と睨まれた。
(この男。絶対に強い……)
 華音が家飼いの黒柴だとしたら、彼は根っから軍用犬として鍛えられたドーベルマンだ。
「下手に抵抗しても仕方ないね。行こうか」
「おいおい、大丈夫なのかよ……」
 佐伯が車を降りる。華音も、有事の際を見越して後部座席に積んである”ヴィオラケース”を手に取ってから、彼に続いた。
 推定オーナーの幼女が先頭を歩き、佐伯と華音がそれに続く。そしてまるで逃走を防ぐように、最後にあの赤毛のハウンドが黙って付いてきていた。
 二人の案内でたどり着いたのは、半地下にあるバーだった。表の階段横に、『現在改装中につき関係者以外立ち入り禁止』『近日新装オープン』と書いてある。階段の照明がまだ設置されていない様で、階段は非常に暗く歩きづらかった。
 華音が暗闇に足を取られて躓いた時、背後から「ドンクサ…」と呟く声が聞こえた。
 え、と振り返ったが、あの赤毛の青年は何事も無かったようにすまし顔をしている。
「ごめんなさいね、アイザックは日本語が苦手なの。言葉を上手く使えないのは許して上げて頂戴。今のも本当は、『足下に気をつけて、お嬢さん』と言いたかったのよ」
 前を歩いていた幼女が、バーの扉に手をかけて、薄く笑った。
「ぜ、絶対違う! コイツ今、正しい意味知ってて、アタシのことドンクサって…!」
「面白いジョークですね、今度僕も使わせて貰おうかな。――一つだけ訂正しておくけど、華音はドンクサじゃないよ。ただちょっと直情的で慌てん坊なだけで」
「おい! そこはもっと良い風に言うところだろ!」
「ふふ。…さぁ、どうぞ入って。私たちのボスが中で待っているわ」

 店の内装は深い赤と黒で色調を揃えてあり、まさに大人な雰囲気のジャズバーと言ったところだ。ボックス席が4つと、カウンターにはスツールが六脚。改装中と言うことで、所々ビニールやテープが見えるがかなり店の形はできあがっている。
 カウンター席の一つに、男が一人腰掛けている。まるでスポットでも当るように、そこだけ照明が点灯していた。
「あら、いらっしゃい! よく来てくれたわね~♪ マギーとザックも、お使いご苦労様」
 その男は――男? 本当に男だろうか? ――笑顔で華音と佐伯を迎え入れた。
 女性ものの化粧をしているにもかかわらず、顔が整っているからか妙に似合っている、気がしてくる。
「コープス・コーの代表…アディソン・ルーカスか。……やれやれ、すごい人が出てきちゃったな」
「やれやれ、とか言ってる割りに涼しい顔してるじゃん。大丈夫なのか、この状況」
「少なくとも、僕らを始末することが目的では無さそうだね」
 案内役の二人は、奥のボックス席に座り静かに此方を観察しているようだった。
「ハウンドのお嬢さん、そう睨まないで。私たちはただ、護衛としてアディに付いてきただけ。話し合いに水を差すような無粋はしないし、いない者と思ってもらってかまわないわ」

「どうやら、自己紹介は必要なさそうね。それにしても可愛い子が来てくれてよかったわ! とんでもないドブスが来ちゃったらどうしようかと思った! アナタが、カノンさんでしょ? もっと近くでその凛としたお顔を見せて頂戴♡」
「ええっと……」
「華音、絶対に僕の側を離れるな」
 アディソンの言葉に戸惑っていると、佐伯が普段の笑顔を崩さないままはっきりと言った。
「わ、わかった」
「やぁね、独占欲の強い男は。嫌われちゃうわよ」
「僕は見ての通り、小心者なのでね。アウェーで”唯一頼れる武器”を手放すほど、無警戒ではいられないんですよ。それで、話というのは?」
「アナタ、会話を楽しむってこと知らないのね。…まぁいいわ。――SIDには、この件から手を引いて欲しいの。元々、あれはウチの島で起きた事件じゃない? こっちで処理するのがスジってもんでしょ」
「そんなことをしていいんですか? おそらく、コープス・コーだけで済ませるとややこしいことになりますよ」
 アディソンも佐伯も、穏やかな笑顔を浮かべながら剣呑な応酬を続ける。お茶でも飲みながら談笑しているようだった。
「この事件は被害者が多すぎるんです。白獅子組の息がかかった半グレや、沌竜会の下請け…。死人に口なしなんだから、公的機関が介入しないのを幸いと良いように話を書き換えた、と要らぬ疑いをかけられるのでは? 悪いことはいいません、事件の捜査はSIDに任せてください。それ以外に見聞きしたことには、関わりませんよ」
「サエキ ソウタ。…アナタ、それ約束できるの? 友人の失踪事件から、警察の暗部にたどり着いてしまった識りたがりのアナタが」
 アディソンが悪戯っぽく笑った。彼は佐伯の過去を識っているらしい。
 華音も本人から聞いたことがある。
 事の起こりは、五年前のK案件。おおやけには飛行機事故、という報道になっていたが、実際はハイジャックを起こしたキセキ使いが乗客全員を福音汚染で消しまう、という事件だったらしい。遺族に返された遺体は全て偽物で、被害者の中には当時大学生だった佐伯の友人も含まれていた。葬儀の折に違和感を覚えた佐伯は、執念深く事件を追いかけた。
「ええ、もちろん。約束出来ますよ。……もう五年前の無鉄砲な僕とは違うので」
 佐伯が、妙に自信ありげにうなずき、「ただし条件があります」と人差し指を立てた。
「条件…? うふふ。ずいぶん強気に出るわね。アナタ、自分の立場わかっているのかしら?」
 アディソンが目を細める。
 次の瞬間、華音の視界の端でなにかがキラリと光った。

 ガキィッ!

 今まで黙っていたバレットの片割れ――赤毛の青年が軍用マチェットで佐伯に斬りかかった。とっさに鞘を纏った”小太刀”で受ける。乱暴に開けられ放り出されたヴィオラケースが、足下で軽い音を立てた。
 ほとんど頭上から叩きつけるように振り下ろされた刃物を受け止めて、手足がビリビリと痺れていた。
(なんて膂力だ! …こんなの力で押し切られる!)
「は、話が違う! 水を差すような真似はしないと言ったのに!」
 呻くように言う間に、手の中の刀剣からみしっと怪しい感触が伝わる。
「あら、勘違いさせてしまってごめんなさいね。私たちはコープス・コーの私兵。当然、交渉がスムーズに進むよう、ちょっとしたサプライズを仕掛けることもあるわ。公平な立場を貫く見届け人ではないの」
 ボックス席に座る幼女が、ティーカップを傾けながら言った。
「くっ…! なんとかしろ、佐伯!」

「僕たちが欲しいのは――」
 肩越しに振り返ると、佐伯が素知らぬ顔で話を続けていた。
「僕たちが欲しいのは、貴方たちが持っている芥ハジメに関する情報です。監視カメラの映像を削除するのと、交換条件でどうですか?」
「あら、そんなことでいいのかしら?」
「SIDの目的は、彼が次なる犯行を起こす前に抹消すること。生憎と、他のことに首を突っ込んでいる時間はない」
 アディソンは人差し指を顎に当てて少し考えて、ようやく納得したようにため息を吐いた。
「正直、もっと楽に済むと思っていたわ。少し脅かしてやれば、って。以外と食い下がるのね。このまま一戦交えてもいいけれど、そんなことしたらお店がボロボロになっちゃう。――マギー、ザック、もういいわよ」
 ザックと呼ばれたハウンドは、何故か少し悔しそうに幼女の隣に下がる。
「た……助かったぁ」
 プレッシャーから解放された華音は、ほっとして尻餅をついた。

GM/プロンプター : ヒトガラ/過去:失踪 確認。
 ダイス+1 [調査判定]をどうぞ。情報1の開示値は6です。
佐伯蒼太 : 調査判定 [4,2] > [失敗]
 ごめん、失敗した。
世良華音 : はっ、…もしかして、ここでキズアトを使える?
GM/プロンプター : 良いですよ。――各《キズアト》には、調査フェイズで使えるドラマ効果と、戦闘で使える決戦効果の二種類が記載されています。ここで使用出来るのはドラマ効果ですね。
世良華音 : だったら、《善舞器官》を使わせて貰う! 4の出目に+1し、5に変更。これで成功になるだろ。
佐伯蒼太 : フォローありがとう。でも自分の判定に使わなくて良かったのかな?
世良華音 : お前が成功しておけば、アタシの成否は関係なくなるからさ。
[ 佐伯 蒼太 ] 励起値 : 4 → 5 調査進行度 : 3 → 5

 佐伯がカメラ映像をコピーするのに使ったUSBをアディソンに投げ渡した。
 その後、あの不気味なバレットは、二人して華音たちに付いてくると、佐伯がパソコンのデータから例の映像のコピーを削除するのを見届けた。
「この映像は、まだ本部には上げてない。バックアップも無いから、以上で削除完了だよ」
「たしかに。では約束通りに我々の収穫を共有しましょうか。――ザック、彼に例の物を」
 コープス・コーで例の事件を洗っていたのはマギーとザックだったようで、彼女の言葉で赤毛の青年から何枚かのリストと手書きのメモを渡された。
(こいつ、ずっと黙ってこの子に従ってるけど、自我みたいな物、無いんだろうか……?)
 SIDで他のバレットを見て居ても思うが、必ずしも自分たちが”オーソドックス”という訳でもない。バディのあり方は千差万別だ。
「私たちも短い時間で手当たり次第に集めた物だから、使える情報か否かは、そちらで判断して頂戴」
 マギーは去り際に振り返ると、
「組織の目は至る所にあるわ。もしおかしな動きをしたら、私たちにはすぐに解るの。日頃の行いに気をつける事ね」
 彼女の隣に立つ赤毛の青年が、二本指で自分の目をさしてから佐伯に突きつけた
「今後、軽率な行動は控えることにするよ」

 『思いがけず裏社会を覗いてしまったね』とは、二人が去ってからの佐伯の言葉だ。相変わらず困った風もなく、にこにこしている。
「ふざけんな! こっちは死ぬかと思ったわ!」
「まぁまぁ、そう怒らないで。万事上手くいったんだから」
「まさかとは思うが……お前、奴らと交渉して情報を得るために、解っててカメラ映像を――!」
「えーっと…なんのことぉ?」
「とぼけるな、このすっとこどっこい! お前、最初から『今回の件以外に都合の悪い物が映っているのかもね』って言ってただろ!」
 きっと今後も、こういう風に軽いのりで危ない橋を渡ることになるのだろう。
「もう知らん! バディ解消だぁー!!!」
 時刻は夜の十一時半。駐車場に停車した乗用車から、少女の怒声が響いた。

エンディング

 本来ここには、お借りしたアイコンや素材のURLを張るべきなのですが、今回は画像を使わなかったので、代わりに『キズナバレット』のアマゾンページを張っておきます。
 こんなとこまで来る人は大体買ってる、って? うん、知ってる。でも、これで知った人がいるかもしれないし、TRPGプレイヤー心理として宣伝はしておこうと思うよ。よろしくね。

キズナバレット 1 猟犬たちのネガイ
 ↑こちらが基本ルールブック。『キズナバレット』を楽しむ上で大切なことが色々書いてある。このログで端折った部分もわかりやすく書いてあるので、よく分からなかった人は買った方が良い。気をつけて欲しいのは、一緒に遊ぶお友達は付属していないところですかね。


キズナバレット 2 野良犬たちのキズアト
 ↑こちらが二巻。ネガイや傷号という追加データもさることながら、東京に拠点を置くSID以外の組織に所属するPCを作れる。なにより、組織に所属しないフリーのバレットを制作することも可能ですよ。そしてバレットの行く末である残響体のエネミーデータも掲載されたお得な一冊。


キズナバレット 3 テンシたちの終末
 ↑こちらが三巻。各ネガイに《キズアト》が追加されている他、テンシに仕えるバレット…ゴスペルバレットを作って遊べちゃうし、テンシをエネミーとして扱う際のデータも掲載されている。そして、大ボリュームなキャンペーンシナリオが入ったお腹いっぱいの一冊。…ここだけの秘密なんだが、なんとこの巻ではペアリングマーカーの表が追加されている!

 これから『キズナバレット』を始める人が、楽しい卓を囲めますように。どうでも良いけど、このサイトで記事を書き始めて初めて『TRPG紹介』らしいことをしたような気がする。それでは今週はこのへんで。

次回 来週

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