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Across Suez考察〖3〗

変更とお詫び。

改めて、前章で導いた想定損害表のグラフを再掲します。

*クリックで拡大出来ます。

*併せて表記も簡略化と変更を致します。

イスラエル軍 ➡ イ軍

エジプト軍 ➡ エ軍

夜間ターン ➡ Night Turn

昼間ターン ➡ Day Turn 

 まず、読者の皆様にお詫びを・・・。

 最終ターン、グラフ上は両軍ともに2個大隊を除去しています。実は、これはあり得ない数値です。勝利条件を満たす為、イ軍は6個大隊のスエズ運河西岸への渡河が必須です。つまり、第7turnは攻勢に出る戦力が残っていない筈なのです。随時、渡河を行ったとすると最終ターンには攻撃可能な大隊は3個以下になっていると想定されます。イ軍が渡河を始めるターン以降、攻撃力が若干数減少するはずなのです。上記の誤差がグラフには反映されておりません。対してエ軍はこの数値通りの損害をイスラエル軍に与える事は可能と想定します。

 第7turnにイ軍が6個大隊を一斉に渡河すると想定すると。マップ上にはイ軍3個大隊以下、この戦力では攻撃は無理でしょう。せいぜい、補給路を守るためスクリーン配置するのが精一杯の対応になると思われます。対してエ軍は第7turnにイ軍の攻撃を受けず、6個大隊がそのまま残ります。エ軍は最終ターンを数的優位を保ち臨めます。上記の場合、エ軍の勝利はマップ上で自軍の占めている位置エネルギーに全てが委ねられるでしょう。

 イ軍の補給路を寸断可能な位置にエ軍が存在すれば、乾坤一擲の勝負が挑めますし、補給路阻害が不可能なほど遠くに戦線を押し込まれていれば、その時点でゲームオーバーです。グラフの推定損害数は両軍の戦略を立てる上で示唆に富んでいます。戦力のみのシミュレーションでは両軍ともに良い勝負が期待できる、と判断できそうです。ゲームバランスが良い証左なのだと思います。

 ここでもう1つ新しい数値、両軍の被撤退へクス数を計算しましょう。

 前章、推定損耗率表に表示しました「戦力差X戦闘数」は各ターンの敵軍撤退へクス数と捉えることが可能です。エ軍の場合は使用するCRTコラムには「Ar」(攻撃側撤退)の結果が17%存在しますのでその分、撤退数は目減りしてしまいます。イ軍、へクス奪取数は39(戦闘総数44ですが、渡河と戦線の維持を考慮すると最終ターン攻撃数5を除いた数値39は妥当だと考えます。)

*右図は、ルールブック表紙。古い物です。紙魚も浮いてますね。

 エ軍は、へクス奪取数は30(戦闘数35X0.83+2X0.5=30.05)。第1ターン、エ軍の可能攻撃数は最大で7、“CRTによる戦闘結果”の欄より2つ多く、かつ使用されるCRTは諸兵連合効果の無いコラムですので、「0,+1」の欄になります。

 この欄はDr・Arともに50%となっていますので、合計にその数値を追加しています。両軍が対峙する戦線の形状推移はイ軍が+9へクス優勢です。この数値の判断は非常に難しく、現状の戦線維持に不可欠なヘクスを1つ奪取されただけで全戦線を後退させる事はウォーゲームにおいてはよくある事象ですが、柔軟に対応可能な場合は現状を維持したまま一部分のみの後退で済む場合もあります。へクス奪取数はマップと照らし合わせての判断となり、さらに戦闘力値を含めたうえで、様々な判断が可能となります。とりあえずはイ軍がエ軍の戦線を後退させ易いと考える程度にしておきます。戦線を押し込める、という点ではイ軍がアドバンテージを握っているのは確かです。

「砲撃」と「砲撃支援」

 戦力差(推定損耗率)はイ軍優勢ではありますが、イ軍にとり勝利条件は殊の外厳しく、エ軍の優位性も主張可能であり、ゲームバランスは非常に上手く取れている。へクス奪取数は明確にイ軍有利となっており、現在の処、エ軍が不利、との判断が下せそうです。

 数値計算で省いていた「砲撃」と「砲撃支援」をそろそろ俎上に乗せるとしましょう。この両ルールは意外と似て非なるもので…

 イ軍の「砲撃支援」とは、制空権のあるイスラエル空軍の地上支援を表現している、との事。F-4ファントムが活躍していた時代でしょうか。ただ、この砲撃支援は、国境付近に存在するミサイル基地の迎撃により威力を抑えられている、という事実を鑑み、ゲーム上では、各DayTurnに1回のみ使用可能で戦闘を1シフト有利にコラムを変えられる、という形に表現されています。この砲撃支援もスエズ西岸への渡河大隊数に応じて支援数が増えます。この点だけを見れば、早期に大隊を渡河することも検討に値するかもしれません。

 かたや、エ軍の「砲撃」はユニットが接敵しているだけで砲撃可能ですので、より観測射撃のイメージが強くなります。大隊支援となる砲兵部隊が17%の確率で敵大隊を壊滅可能とは…実際の戦争では有り得ない数値のように感じます。

 それでは、特別ルールを数値換算して行きます。まずはイ軍。早期渡河を実施しない場合を想定します。コラム1シフト移動の優位をDayTurnの合計4ターンに1回づつ利用できます。イスラエル軍が頻用するCRTコラムは「+4,+5」以上が多く、1つ上がる毎に17%ずつ、除去率が上がっていますので、この数値を転用しました。つまり、これを想定損耗率表に数値を上乗せすれば、DayTurnに17%X4=68%の敵除去期待成功率の追加になります。イスラエル軍の戦力優位を補強する数値になりますが、敵除去期待成功値は砲撃支援単体では0.68でしかありません。

 対して、エジプト軍の「砲撃」は各DayTurnに2度の観測砲撃の要請が可能です。各砲撃はダイスの1の出目により、砲撃された大隊は除去。損害期待成功率は一つの砲撃で17%。DayTurnは4回あり都合8回の砲撃が可能ですから、その期待成功値は134%=1.34。単純に「砲撃支援」より2倍の利用数がある、こともそうですが接敵していれば「砲撃」は利用可能なので、戦力値2の大隊と接敵している戦力値4のイ軍装甲大隊を砂漠の塵に帰す事が可能になります。リアリティの問題は措いておくとして、戦線にしかも想定外の戦域にポッコリと穴が開く…この事態はイ軍には非常に厄介でしょう。

 「砲撃支援」はイ軍の攻撃を補強するだけですが、「砲撃」は単体で立派な戦略的攻撃として成立しています。CRT換算でも敵にのみ被害のでるコラムは存在していません。不運にも複数の大隊が「砲撃」により除去されたなら、イ軍は右に左に戦線の穴埋めの為、道路を利用した移動を繰り返すはめになるでしょう。

期待成功値は1.34は、まずゲーム中に1大隊は消えてくれる、と期待をしても良い数字です。「砲撃」成功が序盤ターンであれば有る程、エ軍に有利に働き、影響は少しづつ蓄積していきます。さらに複数回も「砲撃」が成功すれば、イ軍の戦線構築は難しくなります。

 想定損耗率の数値に「砲撃」「砲撃支援」を加算したグラフを作成してみましょう。エジプト軍「砲撃」は第2デイターンに1つ成功した、と仮定し損害期待成功値に1を加えます。イスラエル軍「砲撃支援」は各デイターンの損害期待成功値に0.17を加算する処理を加えました。

 比較しやすいように既出のグラフ(砲撃・砲撃支援を含めていない)を並べて提示しています。

 イスラエル軍「砲撃支援」の加算された影響は4デイターンに数値として現れ、エジプト軍残存大隊数が最終的に4から3へ減少。砲撃支援の期待成功値は0.83でしたので、ほぼ1大隊がマップから姿を消す順当な結果と言えるでしょう。

 次にエジプト軍「砲撃」は第2デイターンに一度成功した、と仮定し、グラフに反映させています。当然ながらイスラエル軍の最終残存数は一つ減り、8となりました。渡河大隊6を戦場から捻出すると、マップに残るのは2個大隊のみ・・・対して、エジプト軍が最終ターンに残る部隊は第6ターン時の残存数5に近いはずです。勝利条件を完遂するには少々厳しい数値だと感じます。

 戦闘におけるこれらの特別ルールは、ややエジプト軍が有利になるようにゲームに影響を与えているようですね。

 今までの考察を纏めると、

・戦闘力に関しては、勝利条件を鑑みて、バランスは良好。

・へクス奪取数はイスラエル軍が有利。

・砲撃・砲撃支援等、特別ルールはエジプト軍が有利。

 非常にバランスの良いウォーゲームと言えます。ゲームデザイナーはやはり凄いですね。

 今回はここまでといたしましょう。次章は地形について考察に参ります。ご興味のある方は是非、御一読を。

Across Suez考察〖4〗へ続く。


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