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異端のシステムか? 「CRTが存在しないウォーゲーム」
ウォーゲームプレイヤーは基本的にデザイナーが作成したCRT(戦闘結果表)に強い説得力と安心感を持ってプレイしている、と私は考えています。それは民間の軍事研究と各国の軍事関係者から公表される過去の戦時資料を基に構築された可能な限り信用のおける戦力比較の推移表でもあるからです。
その推移表に沿ってゲームは展開され、戦史料に近いある一定の帰結に到達します。
しかしながら「戦史に近いある一定の帰結」にはこれもまたゲームにおいて「ある一定」の振り幅が存在します。この「振り幅」……「戦闘結果」と表現しても良いのかもしれませんが、そのなかで歴史のIFを模索し戦史の帰趨を楽しむのがウォーゲームの醍醐味ともいえる、とある時期までそう考えていました。
そうです、SOAのような「CRTが存在しないゲーム」に出会うまでは…。
(少々、大げさに書いてしまいましたが、CRTの無いゲームは昔から存在します。小生がこのゲームで受けたショックを表現したかったがゆえの表記です。ご理解下さい。(笑))
このゲームの面白さ(私には異常さ、とも感じます)は2D6を両軍プレイヤーがお互いに振り合いその数差をゲームに反映させてしまうところです。
CRTが組み込まれたゲームなら……。
例えば2D6で示される結果は2から12までの11の数値で表されます。それを戦力比や戦力差、または戦術級ならば火力等と称された値を求め、CRTに照し合せれば「一定のふり幅」で結果が出る。これが私たちの見慣れたシステムです。
このシステムの良い処は敵部隊に与える損害の「予測が立ちやすい」と言う点だと私は考えます。おかげで私たちはある程度の戦力集中を軍事的予備知識無しでもCRTを参照し行う事が出来、ウォーゲームを楽しめるスタイルが作られています。少々大げさな物言いかもしれませんがウォーゲームを形作るシステムにとってCRTとは軍事史料的インテリジェンスの凝縮した結晶と言えるものです。
デザインの中でも特にCRT作成は難しく、非常に緻密な計算が必要なのだろう、と想像します。デザイナーズノートにCRTに関する記述が少ないのも、制作内容がデリケート過ぎてデザイナーがあまりCRTに関して言及をしたくないのかも……とすら想像します。
では、CRTを使用しない利点とは何でしょうか?
ゲームデザインにおいてCRT作成の作業が無くなる事でしょうか?
確かにデザイナーの負担が減るかもしれませんが……。そうなるとCRTに代替する全く未知の「結果判定システムの構築作業」がデザイナーを悩ませるのではないでしょうか。
私にはCRTを作成するよりも未知のシステム構築に費やす労苦の方がはるかに多いような気がしています。
では、デザイナーは何故より苦労の多い道をSOAでは選んだのでしょうか?
……なんて仰々しく書いてみましたが、実はもう答えはデザイナーさんが出しています。
端的に言いますとプレイアビリティを上げる為だそうです。
判定表は無作為戦況表のみ、兵士の士気を確認する為の数値も榴弾と徹甲弾の違いを数値化したシートも有りません。そういった煩雑ともいえる作業をプレイアビリティの高い戦術級ゲーム製作の為にCRTも含め極力省いたそうです。
ではCRTの代わりに用いた「2D6 x 2」(この表現が妥当かどうかはさておき、ここでは『2D6』をお互いに振りあう為に六面体ダイス4個の意味合いで表記しています。)はどのような効果をSOAに齎したのでしょうか。
注!・以下に記述する内容は、SOAをすでに楽しまれている方々には既知の内容です。今章は無視し次章にどうぞ。
まず、「2D6 ✕ 2」 を使用することによる数値の振り幅(ゲームへの影響)を見てみたいと思います。
因みに、SOAにおいて、1DMPは1ユニット交戦状態となり同ターン中は活動不能。3DMPは1ユニット除去のDMP処理を必要とします。
ドイツSS =AV12 / 英降下兵= DV2の場合。
攻防のダイス№の差がそのままDMPとなる。
攻撃側のダイス№ ー 防御側ダイス№ = DMP
戦闘結果は英軍に10DMP
あるエリアにおける戦闘で上記の数値結果がダイスによって導かれます。攻撃側から防御側の数値を引き、残った値がダメージポイント(以下DMPと表記)になります。上記の例では、ポイント差は10。ドイツSSが攻撃側です、そのまま10DMPを英軍は受け、該当エリアの英降下兵は、撤退や除去を加味したポイント処理を強制される事になります。
上記簡単にシステムを紹介しましたがこの数値は英降下兵防御値とドイツSS攻撃値が同一の場合に成立する数値です。
英降下兵ユニットの基本防御値「Defense Value(以下、防御値はDVと表記)」は非交戦状態時「7」、ドイツSSの基本攻撃値「Attack Value(以下、攻撃値はAVと表記)」が「4」(複数のユニットによる攻撃はAV値が変わります。)。お互いの2D6はこのユニットの数値に加算され、差を求める仕組みになっています。それでは両軍ユニットの攻防値を算入してみます。
ドイツSS =AV4 + AV12 / 英降下兵= DV7 + DV2の場合。
ユニット下部の数値左「4」が攻撃力
ドイツSSは4+12=16
ドイツSS 16AV ー 英降下兵9DV = 7DMP
ユニット下部の数値中央「7」が防御力
英降下兵の数値は7+2=9
結果は7DMP処理となり10DMP処理よりもいくらか楽になりました。
ではドイツSSがルールの許す最大値の攻撃をかけた場合はどうなるでしょう。
ドイツSS =AV15 + AV12 / 英降下兵= DV7 + DV2の場合。
ドイツSSは15+12=27
SS映像は拡大可能です。クリックして下さい。
ドイツSS 27AV ー 英降下兵9DV = 18DMP
英降下兵の数値は7+2=9
詳細はここでは述べませんが、ドイツSSは15AV(因みにSOA内最大AVはドイツ重火器装甲車両を用いた攻撃で、数値は17AV)。この場合も英降下兵は7DVですから生じるDMPは18。被攻撃エリア内のユニットは6個分隊(1ユニット=1分隊)の除去を強いられるか、または退去と除去を併せた18DMPを処理しなくてはならない訳です。
大隊規模のゲームですから、たった一度の攻撃で2個小隊が全滅するのは些か派手な被害ですね。状況次第ではそのまま投了、となりかねません。これは恐ろしい破壊力であり、兵数が英国軍より多く、強力な重火器中隊を要するドイツ軍の有利な点でもあります。 ですが……数値が逆の可能性もあるのです。
ドイツSS =AV15 + AV2 / 英降下兵= DV7 + DV12の場合。
ドイツSS 17AV ー 英降下兵19DV= -2DMP
英降下兵の数値は7+12=19 / ドイツSSは15+2=17 となり結果数値差は‐2。
大規模攻撃を仕掛けたにも関わらずドイツ軍は英軍にかすり傷一つ付ける事も適わない結果になる可能性が存在します。CRTを用いたゲームではほぼ有り得ない結果です。SOA内最大値に近い攻撃で敵にダメージを与えられない。言い換えれば架空のウォーゲームCRTにおいて最大値の比率欄を使用した攻撃で損害を敵に与えられない結果、と同等ではないでしょうか。(シミュレーションする対象にもよりますが、概ね比率欄の攻撃側最大比率は攻撃側のみの被損結果は多くは無いでしょう。)
上述した内容はSOAプレイヤーなら常識でもあるはするのですが、SOAの「一定の振り幅」を皆さんに体感して欲しく思い記載しました。結論としてSOAは戦闘結果にかなり広い振り幅がある、と言えます。
ですが今さらではありますが、ご紹介した例は非常に極端な結果です。
2D6=2は「36分の1(2.78%)」
2D6=12はこれもまた「36分の1(2.78%)」
この数値が一度に現れる確率、
(36分の1)Ⅹ(36分の1)=1296分の1(0.00078%)
という極低率の可能性です。
ここまでではなくともこれに近い異常値はSOAでは頻発します。……頻発する、と言うよりも「著しく異常値が出るように感じる」が正解でしょうか。
よく戦史小説に「思いもしない出来事が重ねて起きた!」などと言う文言が度々登場し、事態が想定外の方向に流れたりしますね。ですがその事実も、その前段階では極低率の可能性の1つだった、とも言えるわけです。クラウゼヴィッツの「戦争論」の一説にも「どれほど準備を重ねようと、戦争は博打と同じく賭けである」に近い文言が記されている、と聞き及びます。
もしかすると現実の軍事的事象ではこの異常値の頻出が以外とよくあるが故に普通に感じることで、「CRT作成時に戦闘結果の簡略化の為に行なった異常値の切り捨て」自体が有る意味で軍事シミュレーション性を損ねていると言えてしまうのかもしれません。
どちらにしても これほど異常値が攻撃結果に影響を及ぼすのならゲームそのものの結果が両極端になりはしないか? との疑念が浮かんでしまうのは私だけでしょうか。
ゲームデザイナーもこの点(頻発する異常値)を考慮しダイスの代用として付録の数字チットやトランプを利用しての戦闘解決方法をわざわざルールブック(ホビージャパン製作日本語ルールブック20P / 22項)に一項を割いて提案されています。当時、この「2D6 ✕2」の戦闘結果システムにデザイナーも確固とした自信を持てなかったもの、と小生は愚考します。
勿論、どのようなウォーゲームでも戦闘結果が自分に都合が良く偏れば勝利を掴めるでしょう。
ですが、発表当時に傑作と謳われ現在まで40年以上も残るゲームシステムが駄作な筈が有りません。デザイナーは窮余の一策として「戦術的優位性」なる概念をシステムに持ち込みました。
(「窮余の一策」は小生の勝手な想像ですが、以外と的をえているのでは?と感じます。今も昔もデザイナーの皆さんの想像力には感服します。)
SOAの両軍は、そのプレイ中にどちらかが必ず「戦術的優位性」を持っており、相手に「『戦術的優位性』を渡すことによって『2D6 X 2』による戦闘結果を白紙に戻す事が出来る」、というルールです。要はダイスの目が不服な場合、振り直しを要求可能、というこれまた掟破りとも、ちゃぶ台返し、とも言えるシステムなのです。
このシステムを取り入れる事でプレイアビリティが非常に高くなっており、尚且つ異常値の是正・DMPの均一化に貢献しています。勿論、全ての異常値をこのシステムにより修正出来るわけではありませんが、確率論的にはダイスを振る回数が増せば、平均値に回帰してゆく数値の均一化が戦闘結果を有るべき形へと均してゆくことになります。
是正しきれなかった異常値はそのままダイナミックなゲーム展開へとプレイヤーを導きます。ゲームは白熱し、充実したプレイを堪能することになるのです。
英降下兵の敵撃退力(基本戦力からの考察)
まずは下記表をご覧頂きたいと思います。
少々解りづらい表です。小生のセンスの無い作表を披露するのも恥ずかしいのですが、そこは笑ってお許し下さい。(笑)。
この確率表は、攻撃力(AV)と防御力(DV)の戦力差ごとの攻撃側勝率を表しています。
縦軸は攻撃時のダイスを振る前の数値の差。たとえば、AV(攻撃値)10・DV(防御値)8ならば「2」となり逆にAV8・DV10ならば「-2」の欄になります。横軸は防御側のダイス№を表記しています。
表の中心点として縦軸は、攻撃時・攻防両ユニットの戦力差が無い「0」を、横軸は「2D6」を使用した場合の出目の確率がもっとも高い「7」を中心点にして縦横のライン背景を黄色く染めています。
そして、もっとも右にある「Winning rate」の欄は双方ダイスロール前の勝率です。数差による確率ですから、この欄があれば全て事足りるのですが、敢えて防御側ダイスロール後の確率変動も載せています。
「Victory Avg」とは?(ただの基本勝率のことです。(笑)ネーミングセンス無い奴!と笑って許してください。)
*防御側の振り出したダイス№「2~12」の11の結果値それぞれに対し算出した攻撃側勝率を合計し、結果値数の「11」で割出した値を「Winning rate」としています。
ですので、これは防御側のダイス№から導きだす攻撃側勝率が計算された表です。したがって攻撃側はダイスをこれから振る、ことになる訳です。実際にプレイ中は同時にダイスを振りますので、この表をオンタイムで見ることは叶いませんが、小生としては事前研究として十分に面白い結果が出ていると考えています。
*まずは「Winning rate」の欄をご参照下さい。
英降下兵は補給物資が手に入らないままアルンヘム市街で孤立しています。彼らは手持ちの物資のみで橋を守り切らなくてはなりません。1分隊のみでドイツ軍に攻撃をかける状況が自然と多くなる状況です。その攻防差は「0」になる事も多いのではないでしょうか。ですが、攻防差「0」の攻撃は勝率が約44%程度なのはご存知でしょうか。差が無く、同じく「2D6」を振りあうのだから確率はお互い50%同士だろう、と思えてしまうのですが、お互い「2D6」を振り合い、共に“同じ数値”を振り出すと結果は防御側のDMP「0」、攻撃失敗と言うわけです。その僅かな確率差ですが、結果的に防御側に有利な確率を生み出してしまいます。
「2D6」の性質上の特色は、「様々なダイス、特に六面体ダイスを良く使用されるゲームのプレイヤー」の皆様なら すでに把握されておられると思いますので軽い説明に止めさせて頂きますが、1から6の表記された正六面体ダイスを二つ振ると、全ての種類の出目の確率は36分の1、そして結果値は2から12までの11種類。その11種類の結果値内で最頻値は中央値でもある「7」。この「7」が出る確率が約16.68%(6分の1)。
この確率16.68%を攻防どちらが自軍の値に引き込むかで勝率が大きく変わります……。
前述の「差=0の攻撃」の攻撃側が1分隊を攻撃に参加させるとしましょう。すると「差=1」となり、表・縦軸は「1」の欄を参照することになります。「Winning rate」の欄では55.60%……約10%の勝率上昇を見せます。
上記の確率を踏まえると、戦力差「0」の攻撃時は1分隊の応援を追加することが戦術的に理にかなっている、のではないでしょうか。もっとも先ほども述べましたが、英降下兵は戦力の温存を終始考えねばならない為、”応援の1分隊”をひねり出すのが難しいのですが。
ここからは「Winning rate」以外の欄、特に防御側ダイス№「7」をご参照下さい。
6分の1(16.68%)と書くと低率に感じますが、「2D6]の結果値でもっとも出る確率が高い数値」でもあります。この数値「7」を参照しながら攻防の確率の綾を見ていきたいと思います。引き続き攻撃側が敵防御力より「+1」の火力で攻撃をかけたとします。可能性として最頻値「7」が振り出されると仮定すると(表の黄色欄「7」の確率分布をご覧下さい。)、攻撃側勝率が58.30%となります。
攻撃に1ユニット加えただけで、40%強の勝率から60%弱へと勝率が跳ね上がります。勿論、ダイス№次第ではありますが、勝率の低い戦闘より、少しでも勝率の高い戦闘を心掛ける事が良い結果に繋がるのは間違いありません。表全体を見て頂くと中央値「7」の上下で58.30%と41.62%が階段状に別れています。この「少しだけ敵より多い戦力」で攻撃するスタイルは英降下兵に適している、と言えるかもしれません。
隣接エリアに移動し交戦状態になったボホルト大隊(防御力「2」)が良い例でしょう。隣エリアから射撃する一個分隊の降下兵はエリア間の射撃値修正により「+1」(Dayの場合)の差になり、58.30%の確率でボホルト大隊を蹴散らしてゆきますが、Nightになると、ボホルト大隊のエリア浸透率は目に見えて多くなります。原因は夜間の射撃値修正値「+2」です。説明が重複しますが、攻撃は攻防値差「0」となり英降下兵の敵撃退率は41.7%にまで低下します。この確率低下の問題を処理する為には1分隊以上の応援が攻撃には必要になるのですが、部隊数の劣る英軍には厳しい選択です。
確率的には英降下兵は夜間の敵撃退率に問題を抱えている、言って良いと思います。
当然ながらこの問題はデザイナーが提起したシミュレートの一つではあります。影響はドイツ軍の夜間浸透の成功率の上昇と翌朝の大規模攻勢ので戦術的なアドバンテージとなってゲームに強く影響していきます。この状況を英軍プレイヤーが野放しにしてしまうとドイツ軍の勝機を掴む大きな足掛かりとなり、災いは英降下兵に降り掛かってくるでしょう。
それでは、それに対抗する戦術的手段は英国軍プレイヤーに残されているでしょうか?
謝辞。予定ではこの稿で「雑感・StormOverARNHEM」は最終回を迎える予定でしたが、小生の好きなゲームでもある為か紙数が尽きても校了の気配が見えません。次回を雑感4として、最終回と予定しています。お読み頂ている皆さまには申し訳ございませんが、もう少しお付合い願えれば有難い限りです。
次回、StormOverARNHEM 雑感4「SOAの異常値の定義」の予定です。
最後までお読み頂き有難う御座います。