「兵站」という概念は、戦闘地域後方から送られてくる補給物資という意味に留まらず、衛生管理を含めた、戦場という過酷な環境において、「戦地における兵士達を人たらしめる生活環境を提供するシステム」そのものである、とされています。このあまりにも広義な意味を持つ「兵站」と呼ばれる概念をウォーゲームデザイナーはあらゆるゲーム(全てのゲームではありませんが……)で その全ての事象を一纏めにして「数値化」することで事象の表現に折り合いをつけて、私たちの前に提示してくれています。この点はMONTY’S GAMBLEにおいても例外ではなく「兵站」は数値化されて扱われ、登場する全部隊(ドイツ軍・連合軍の別無く)に「兵站」ポイントを付与することで「兵站」に関する事象一切を処理するシステムが採用されています。
最終回である今考察では、MONTY’S GAMBLE考察の総括を取り上げる予定でしが方針を変える事と致しました。各考察ごとに「書き記したいことはある程度挙げる事ができたのではないか」と考えておりますし、なによりMONTY’S GAMBLEではこの「兵站」を取り上げる章が必要だろう、とも考えてもおりました。そのため、予定を変更し兵站システムに焦点を当て「作戦戦略級」と銘打つMONTY’S GAMBLEの戦略級たる所以に切り込んで考察して行くことに致しました。中でも非常に特徴的な「空挺部隊の兵站」について、各空挺師団の規定された活動エリア内において戦略的活動方針と兵站配給の需給状況との二つの側面から、空挺各師団の活動限界に迫る事が出来れば……と考えております。
考察はMONTY’S GAMBLEにおける基本ルールを用いたゲームを対象としています。 Rulebook22.0 THE EXTENDED GAME / Rulebook23.0 OPTIONAL RULE は考察の範囲外としています。ご了承下さい。
謝と謝辞。このブログ記事は小生程度の理解の範疇での分析であり、ゲーム熟練者・及び先達の方々には噴飯物のブログ記事ではあると思いますが、ウォーゲームの一つの楽しみ方として 笑ってお許し下さればと願っております。尚、考察記事を書くにあたり「MONTY’S GAMBLE」の日本販売・及び日本語訳ルールブックの提供元であるサンセットゲームズ様にグラフィックアート掲載の許諾を頂く等のご協力を賜っております。
Logistics Sufficiency and Decline Rate:The Case of MONTY’S GAMBLE.
MONTY’S GAMBLEにおける「兵站」は比較的取り扱い易い中級程度のルールによって表現されています。(RuleBook 13.0 混乱と補給)。「兵站ベース(司令部や兵站デポ)と部隊の距離が離れていれば離れる程に兵站ポイント(以下、兵站P)が嵩み空費されて行く補給システム」は常に部隊の位置と兵站Pの総量の把握を迫り、予定していた戦略的・作戦的軍事行動に現実的修正を迫ります。
なかでも補給システムに強く影響を受けるのがこのゲームの主役とも言える空挺部隊です。輜重部隊の陸送という比較的確実に受け渡しが可能な手段を利用できない空挺部隊は、空輸された物資を空から投下される「兵站デポの空中投下」という受け渡しに危険の伴う不確かな授受方法に頼らざるを得ません。現実においても投下地点が指定されていたと思いますが、敵地での物資回収は困難を極めただろうことは想像に難くありません。ただでさえ孤立し易い空挺部隊の作戦行動に強い制約をかけただろうことは間違いないでしょう。
1兵站Pとは、「1日の戦闘行動によって疲弊した1個大隊(単位1ユニット)の疲弊状態を回復させ、戦闘状態に復帰させることが可能」な兵站量を指しており、通常は各ターンに「10」兵站Pが指定されたエリアに投下されます。
まずは各戦域の部隊数と兵站P数より算出した各ターンの需給状況をパーセンテージで数表化しましたのでご覧ください。
*各表の行はターンの日付を表し、列項目は「降下部隊(大隊規模)数」とそれを参照した各ターンの兵站P需給率を「通常時の兵站p」・「通常時の兵站P + 航空補給P」・「曇天時の兵站P」と3つのカテゴリーに分け表示しています。尚、「降下部隊(大隊規模)数」はターン毎の増援部隊数の記載ですが、各項目の需給率は降下部隊の累積数(1ターンから随時合算)から算出しています。不明瞭な数表となり申し訳ございません。
上記数表は今考察を読まれる前の「前提条件」と言えるべき数値かと考えます。「投下された兵站が100%確保された状態の数値」であるにも関わらず、作戦開始翌日から「予定通りの空中投下が行われても物資が不足する可能性」が数値から読み解けます。援軍の降下により戦力が増せば増すほど逼迫していた兵站事情はさらに逼迫の度合いを増して行く……明確に反比例の関係を示しています。
「航空補給+5」(RuleBook 13.424)は毎ターンに一度のみの利用しか許されておらず、空挺部隊の補給を十全にバックアップ出来るものでは有りません。広域に起こった山火事に対応する消火ヘリのごとくに、ピンポイントで補給の滞っている部隊をフォローすることしか叶いません。
加えて第3ターン以降は天候(RuleBook 17.3)にも左右され始めますし、ここでは触れていませんが当然の対応としてドイツ軍の高射砲台や高射砲部隊が火を噴きます(RuleBook 13.5)。彼らの妨害がさらに兵站量の減少を促します。
The effect of terrain on Airbone logistics
ウォーゲームに使用されるMAPにはプレイの為の情報が過不足無く記載されているものです。MONTY’S GAMBLEのMAPも例に漏れず美麗なデザインが施されスマートに数値や情報が添えられています。各エリアは個々の識別ナンバーとは別に地形影響を反映させたTEMという数値を表示し、ゲーム内で起こる様々なアクションの結果に影響を与えるようになっています。そしてもう一つ……見えない数値がMAP上を強く支配している事実にプレイヤーの皆様はお気づきでしょうか。その数値はマップに表示されていないにも関わらず厳然たる影響を空挺兵たちに齎します。
などと勿体ぶった表現をしてしまいましたが、要は担当戦域内の兵站の運搬コストを指しているだけです。
兵站投下指定エリアを基準に算出した運搬コスト(Lossと表記した方が正確かもしれません。)から各空挺師団が担当している戦域の平均的な損失度を表わす「減衰率」や求められる作戦方針から割り出すエリア数による「局地的減衰率」を算出し、各パターンの正規分布によって比較検討をしてみよう、というのが今回の狙いです。
前章で紹介した数表の兵站充足率は、物資不足の一面を表わした数値でありMONTY’S GAMBLEにおける兵站戦略のいわば表層に過ぎません。実際にゲームをプレイすると、充足率はさらに低下の一途を辿るのを実感します。
それは何故か?……ゲームシステムの成り立ちの深意はデザイナーのみしか知り得ませんが、抽象的な状況を小生の勝手な想像で埋めるとするならば、「輜重部隊の不在」であると想像します。地上部隊には後方からの輜重部隊による輸送が前線の部隊にまで陸路を経由して届けられますが、空挺部隊には、「後方からの支援部隊」そのものが存在しません。空挺師団内に「輜重」に関する部署は存在するでしょうが、「後方からの支援部隊」(輸送に利用するトラック運転手や主に運搬従事者他)と同様のプラスαのマンパワーまで期待するのは酷というものでしょう。空輸され、兵站投下指定エリアに据え置かれた物資は降下兵みずから仲間達に届けねばなりません。敵地で戦闘に従事する兵士達に他のエリアで戦う部隊に物資を運ぶ余力が残っていたでしょうか。エリアを跨ぐ度に膨大な損失と空費が生じる兵站ルールはその事象の抽象化としてもっとも優れた手法かも知れません。
部隊を回復させる為に兵站Pを使用する行為をMONTY’S GAMBLEではリフィットと呼称しています。「Rulebook13.6リフィットのコスト」に様々な状況の部隊回復に必要なコストが記載されています。一部抜粋を致しますのでご覧ください。
エリアを跨ぐユニットの回復に倍以上の運搬コストが消費される事がお解りになるかと思います。 連合軍空挺部隊を指揮するプレイヤーは「ドイツ軍よりも戦力が充実している 」この一点だけを頼りにして無作為に戦線を広げる事が得策かどうか……各空挺師団の担当戦域における攻守のバランスをどのように選択するかに部隊の回復力が大きく影響を与えます。で、あるならばプレイヤーは少なくとも連合軍空挺部隊の戦略方針を策定する前に、各空挺師団に割り振られた担当戦域における地形影響(特に兵站需給コストに関する)に目を向けるべきかも知れません。どのエリアの部隊を回復させ、どのエリアの部隊を後回しにするか、この選択には必ずコストの緻密な計算が付き纏います。(ゲームの楽しみ方は十人十色。プレイヤー個人の楽しみ方の種類にこのような考察は必要ない方も居られると思います。決して強制の意図はございません事をご了承下さい。)
以下、各空挺師団が担当する戦域別に「勝利条件完遂の為の戦略」と「兵站需給の効率度」の2方面からの戦略的考察を行いました。
「勝利条件完遂要件」の為に複数の部隊配置案(配置案というよりエリア選定)を策定。その部隊配置案それぞれに「兵站需給の効率度」を求め、比較検討を行いました。この数値算出の基準に各戦闘区域の兵站投下指定エリアを中心に据える「兵站の運搬ポイント」を利用し、各担当戦域の基準「兵站減衰率」の算出。そしてそれぞれの部隊配置毎の兵站運搬コストを数値化、「正規分布」による図表化をもって視覚的に読者の皆様へ訴えかけられれば、と考えました。
各空挺師団の詳細は別章にて用意しています。
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下記の各空挺師団のタイトルをクリックして下さい。考察の詳細を確認出来ます。
私は流動的な戦線の流れるような移動や変化が好きです。だからなのか第二次世界大戦の戦車戦、バルバロッサ作戦やバルジ大作戦のように刻々と戦線の変化する様なウォーゲームに強く惹かれるところがあります。
まあ、恐らくウォーゲームを好きになった当初、初心者の段階を抜け切れずにずるずると来てしまっているような心持がしています。マーケットガーデン作戦も私の初心者心を強く刺激するテーマの一つです。そのためMONTY’S GAMBLEの基本ゲーム(作戦開始か4日間を扱う)は強い興味をもって考察できるのですが、延長ゲームにはあまり気が惹かれないのです。
ですが……MONTY’S GAMBLEを制作したゲームデザイナーは強く延長ゲームを推しています。もっともデザイナーズノートは付録されていないので明確な文言での推奨はされていませんが、ゲーム考察のためにルールブックを読み漁っていると「ああ、これは延長ゲームと名付けてはいるけれど、キャンペーンゲームとして扱ったほうがよいのだなあ。」と思わせる感じがそこかしこから匂ってきます。
私は、基本ゲームでRed Devilsを勝利条件達成のため、切り捨てる判断をしてしまいました。皆さんはいかがでしょうか? もし、切り捨てるのを躊躇うのでしたら、是非とも延長ゲームをプレイされることをお勧めします。
今回の考察にて使用したデータにご興味のある方は、下記のボタンよりダウンロードしてください。
今回の考察は皆様への約束も守れずにずるずると遅くなってしまいました。
申し訳ございません。
もし、この投稿をお待ち頂いていた読者様がおられましたら、本当に有難うございます。
それでは、MONTY’S GAMBLE.考察 この稿にてお開きとさせて頂きます。
重ねまして、最後までお読みくださり有難うございました。