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【光砕のリヴァルチャー】「一条ハルカは阿らない」 前章「夫婦”未満”善哉」

・はじめに・
 これは仮想卓を小説風ログにしたもの、の前日譚です。
 こちら、同じキャラクターを使ったセッション、二話目になります。一話目の前章はこちら

 本作は「どらこにあん」及び「株式会社アークライト」が権利を有する『光砕のリヴァルチャー』の二次創作です。

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 ここはフォートレス「カリワタシ」。ここにはかつて王がいた。
 彼の名前は一条アキラ。このフォートレス始まって以来の乗り手と歌われたシュヴァリエだったが、探索任務に出たきり帰らぬ人となった。そして、フォートレス「カリワタシ」の形無き玉座と王冠は、彼の一人息子――一条ハルカに託された。

 私たちが初めてリヴァルチャーに乗ってから半月。
 一条くんとはそこそこうまくやれている。……と思う。もともと口数が少ない男の子だったけど、ここ最近は頑張って喋ってくれるようになったんじゃないかな。

『こちらハンガーからクレイドルへ。機体の稼働状態はいかが?』
「特に問題ないですよ。…あ、この間破られたジアドシールドも、ちゃんと展開されてます」
「……問題ない。…ブレードが蒼絢なことを除けば」
 ドクからの通信に応えて、一条くんが無表情にぼやく。
 あれから何度か我らが愛機リヴァルチャー『黒猫』に乗る機会もあって、一条くんと上下逆さまに向き合うことも慣れてきた。ことさら今回は特別だ。
 新たなシュヴァリエを関係各所にお披露目するため、一条家主催のパーティが明日に行われる。そのプログラムの最後にデモンストレーションとして、リヴァルチャーでのアクロバット飛行が行われる予定だ。つまり、今日はその最終リハーサルなのだが…。
『それは仕方ないって、何度も言ってるだろ。明日のパーティにはイーフェの技術者も出席するんだ、シュライクフレームに余所のブレード持たせられないじゃない。資金や技術を提供してもらう手前、こういう忖度は必要なのよ』
「……」
 忖度、という言葉に一条くんが目に見えて不機嫌になる。
 『フレーム』『ウェポン』というのは、リヴァルチャーを構成する大きな二つの要素だ。ジアド粒子の荒野を生き残ったいくつかの企業が、防衛機材としてそれぞれのフォートレスに卸してくれている。
 私たちのリヴァルチャーは、イーフェ社製のシュライクフレームを使用している。デモ飛行にあたって同社製品のウェポンを使う方が見栄えが良い、ということだろう。対して、一条くんが使い慣れたブレード『カザミヤ・白雪』は名前を見れば分かるとおり、イーフェ製ではない。
「そういえば、一条くんが購入申請してた『カザミヤ・吹雪』はどうなりましたか?」
『あぁ、アレね。続報は届いてないよ。……納品はまだ大分先じゃないかなぁ』
「そうですか…」
 通信に耳を傾けていた一条くんと、そろって肩を落とした。

 デモ飛行のリハーサルを終え、リヴァルチャーは格納庫へ。
 一足先にタラップへ降り立った一条くんが、何の気なしに振り返って私に手を差し伸べてくれる。以前なら考えられなかった行動だけど、最近は驚くことも無くなった。遠慮無く手を取って、私もクレイドルを降りる。
「わっ…と……」
 反転していた重力が正常に戻り、支えてくれた一条君にぶつかった。かなりの勢いでぶつかったのに彼はびくともしない。
(大柄ってわけでもないのに…体幹がしっかりしてるんだなぁ)
 超近距離であの緋色の瞳と目が合う。
「あっ、うわぁ!ご、ごごっ、ごめん!!」
「……」
 慌てて身体を離す私に何も言わず、少しだけ何故謝るのかと怪訝な顔をしてから先にを歩き始める。
 私は、一条ハルカのあの目が苦手だ。
(うぅ……。やっぱりこわいよぉ)
 本人が言うには、別に怒ってるわけじゃないらしいけど、静かに押し黙ったあの表情や、怒り眉。あの赤い瞳ににらみ据えられると、縮み上がってしまう。それだけはどんなに慣れようと思っても、慣れることは出来なかった。

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「おかえりー」
 玄関を開けると、母が裁縫箱を仕舞いながら軽く手を振る。
「…ただいま」
 ハンガーにかけられたドレスが、襖の桟に吊られている。元々母が大学の卒業パーティで着ていったもので、丈直しをしてくれていたのだ。
「今終わったところだから、少し着てみてよ」
 母がちょっと嬉しそうなのは、良いこと。私も少し微笑んで、ハンガーを手に取る。

 私の名前は田沼ミコト。
 無口で無愛想で、いつも少し怒っているようなシュヴァリエ・一条ハルカのフィアンセに選ばれた、ただの同級生。
 母子家庭で家計も厳しい私が、上等なドレスを着て公的な社交パーティに出席するなんて。いつの間に魔法を使ったのか、きっとシンデレラにだって鼻で笑われてしまう。
「明日、母さんは行けないけど、上手くやれそ?」
「うん、まぁ……ぼちぼちかな。実は私より、一条くんのほうが心配。彼、社交的な性格とは、言えないし」
 衣装に袖を通し、裾についた糸くずを払いながら肩をすくめる。
「例の保護猫の彼ね」
「あはは、そう。でも、保護猫って呼んでるのは内緒だよ」
 私は一条くんのことを猫と呼んでいる。一切他者を寄せ付けない様が、警戒心の強い保護猫みたいに見えるから。しかも、自宅に迎えてまもなく、飼い主にも疑心を抱いている保護猫に似ている。
「…上手く取りなせると良いけど」
 当然、シュヴァリエの苦手を補うことも、フィアンセの役目だ。――そう、一条くんがしゃべらない分、私がしゃべりますとも!
(さぁ任せて!私はあなたとリヴァルチャーに乗る女なんだからね!)
 
 これまで縁が無かった未知の世界。
 その日、私はなかなか寝付けなくて、携帯の明かりを頼りに布団の中で文庫本を開いた。
 井伏鱒二の『山椒魚』。あれから返せとも、やるとも言われていないが、どうしようか。大事なものなら返した方が良いんだろうが……。
(紙の匂いがする、いいなぁ。紙の本はなかなかお高くて、私のお小遣いでは手が出ないんだ…)
 静かで何の音もせず、ただかすかな紙の香りだけ。
 まるで、一条くんが隣に座って、本を読んでいる時みたい。たった今、ページをめくる音を聞いた気がする。心地良い静寂の中で、私はゆっくりと目を閉じた。

――to be continue――

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