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PANZER BATTLES 考察2/ System of OODA Loop [Decide]

決断/Artillery duel & Combat Result Table

 「PANZER BATTLES」(以下「PBS]と表記)のテーマは委任戦術。テーマを具現化するモチーフとして機動防禦の誉高いドイツ軍第11装甲師団の活躍をゲームデザイナーは描いています。

 前章では独ソ両軍の基本戦力の優劣をチットシステムを交えながらお話しました。

 ドイツ軍 第11装甲師団は「PBS]の機動力・戦力が最も高く見積もられていますが、総戦力はソ連軍が上回ります。

 今章では「PBS」において欠かせない二つの要素のうちの一つ「砲兵部隊」について考察をさせて頂く予定です。

感謝と謝辞。このブログ記事は小生程度の理解の範疇での分析であり、ゲーム熟練者・及び先達の方々には噴飯物のブログ記事ではあると思いますが、ウォーゲームの一つの楽しみ方として 笑ってお許し下さればと願っております。尚、考察記事を書くにあたり「PANZER BATTLES」の日本販売・及び日本語訳ルールブックの提供元であるサンセットゲームズ様にグラフィックアート掲載の許諾を頂く等のご協力を賜っております。

Fire Power

  「小隊」という小説をご存知でしょうか。砂川文次先生が著わしたこの小説は「北海道に侵攻してきたロシア軍を迎え撃つ自衛隊員」のお話で、作中に主人公の所属する大隊が砲撃を受ける描写が 存在します。著者が元自衛官という謳い文句どおり、説得力のある凄まじい制圧砲撃の描写は圧巻です。上長からの命令はおろか小隊員同士の連携も取れなくなる程の制圧砲撃のあとにシームレスに浸透攻撃を展開してくるロシア兵に主人公の仲間たちは為す術なく命を落として行きます。

 リアルで制圧砲撃を受けるような体験はご免被りたいところですが(笑)筆力のある小説家の描写は疑似体験として「砲撃」という単なる知識に強い想像力による色付けを齎してくれます。勿論、本物の戦史や経験者の記録には敵うはずもありませんが。

 「PBS」のマップ上にこの砲撃の疑似体験が至る所で出現します。何しろこのゲームの砲兵部隊は両軍合わせて58ユニットも登場するのですから。

 歩兵・機甲部隊数はこれも両軍で199、これに加え58もの砲兵部隊が両軍の総戦力に統合されます。おいおい、それでは前章の集計表は無意味なのでは? と思われる方もおられると思います。ここに関しては地上部隊(砲兵も立派な地上部隊なのですが……)とは敵部隊に与えるファイアパワーの処理方法が違う為、カテゴリー別に集計し比較検討した方が「PBS」のシステムと効果を深く知る為に必要である、と判断を致しました。それでは前置きが長くなりましたが、砲兵部隊の隊別集計表をご覧下さい。

ドイツ軍砲兵部隊 背景色 ”黄色” はKRのみの確率は50%
ソビエト軍砲兵部隊 説明はドイツ軍と同様

中隊単位/1hex=500m 砲兵の活躍が約束される規模

 「PBS」における砲兵部隊の効果について少々説明が必要かと思います。

 活性化する部隊が決定するとまず行われるのが砲撃セグメントです。これも後ほどお話する予定ですが、行軍や移動、さらには戦闘セグメントより先に砲撃が行われるのが「PBS」の特徴と言えます。移動より先に砲撃が始まる構成は小生にはやや戦術級めいて感じます。ですが、戦術級ほどの厳密さではありません。作戦級なりの砲兵の兵器としての立ち位置を表わしているように感じます。処理システムは1D6、1ユニットが中隊規模で構成された作戦級ゲームの制圧砲撃の抽象化、として理解しやすい構成です。制圧(砲撃成功)を受けたヘクスに存在する敵部隊は、一時的ではありますが著しく部隊としての機能を減衰させ、ゲーム展開に影響を齎します。

 上記集計表「砲撃成功率」は制圧砲撃の成功率を表しています。砲撃が成功するとキルロール(Kill Roll 以下KR))と称する1ステップロスの実損を被るか否かを1D6により再度試されることになります。KR成功率と称する欄がその確率に当たります。(KR単体の確率ではない事にご留意下さい。制圧砲撃を受けた部隊がKRを受ける確率です。)

 砲兵の威力を大局的に見る場合、有効なのが期待成功率または期待成功値で測ることではないでしょうか。各部隊数値の最終行に制圧率の総計とKR率の総計を確率そのままに表示して期待成功率と称したいと思います。或る複数の砲撃の制圧率を加算し、100%を超えると期待成功値が1.となる。1つの砲撃が成功して良いと期待出来る程度の確率、として参照するわけです。

 まずご覧頂きたいのは、両軍の砲兵部隊数です。独軍36部隊に対してソ連軍は22部隊となっており独軍より通常部隊数が勝っているソ連軍ですが砲兵部隊の陣容では一転して貧弱さが目立ちます。史実に忠実だろうとは想像しますが、デザイナーは砲兵の砲撃力の差でゲームバランスの調整をされているように感じます。

 しかしながら、砲兵の部隊の内訳は中隊規模の短射程野戦砲兵(射程3ヘクス・約1.5㎞)が大部分を占め、数多ある小さい規模(あくまで作戦級の視点からですが、中隊同士の小競り合い程度)の戦闘に埋没してしまうほどの小ぶりな中隊クラスです。大隊所属砲兵と師団所属砲兵という高火力で尚且つ長射程(10ヘクス以上・5㎞超)を持つ部隊はそれ程多くなく、独軍の高火力(50%以上)且つ長射程の砲兵数(連隊または大隊クラス)は10部隊。ソ連軍の同等砲兵は6部隊とここでも差がついており明確に独軍優位です。

 因みに単体部隊のヘクス制圧率を見てみると、砲兵中隊 約33%、砲兵大隊(連隊も含む) 約66% と当たり前ですが規模の大きい部隊ほど制圧率は高くKR率も比例して高確率になっています。

 実は、ここで両軍砲兵部隊の数値集計表を圧縮した集計表(前回と同様にユニット数集計とチットの回転率を掛け合わせた総集計の表)を掲載する予定でしたが。砲兵の立ち位置を戦域別に表現してみてはどうだろう、と思い立ちました。幸い「PBS」は師団クラスに戦域を分ける事が容易なので3か所の戦域に分けて戦況も踏まえてお話をして、それから総計表をご覧頂く事に致します。

北北西(Map左上)ソ連軍 「第119 / 第333狙撃兵師団」戦域。

 この戦域のソ連軍は歩兵二個師団による攻勢をかけてきます。都市Surovikino(A)を第119狙撃兵師団が狙い、その直下では守備隊の補給線を断つように第333狙撃兵師団が独軍第7空野軍と守備隊に迫ります。

 ソ連軍に足の速い部隊は存在せず、少数の砲兵部隊もSurovikino守備隊(都市ヘクスの地形修正と守備隊の高い防御力の為に簡単には陥落ません。)の戦力を削ぐことに注力する展開になる事が多いようです。砲撃成功の期待成功率は各師団ともに約167%。両師団合わせて330%超。さらに言えば、各ターンにこの戦域のソ連軍は2度活性化します(各ターンに2度の戦闘&移動を行えるので、期待成功率は660%を超えるのです。)。この数値は2度の活性化フェイズで3ヘクス以上づつ制圧砲撃が成功するだろうと期待できる数値です。

 対して独軍はSurovikino守備隊に合わせて第7空軍野戦師団が迎え撃ちますが、戦力が貧弱過ぎて目も当てられない状態です。総砲撃力は辛うじて100%を超える程度……あまり期待は持てませんね。恐らく焦点はSurovikinoの攻防です。砲撃が成功し、さらに補給線が断たれると守備隊の防御力は1/4まで低下します。それを独軍が許すかどうか、がこの戦域の焦点ではないでしょうか。

東部(Map右やや下)ソ連軍「第4親衛師団及び独立部隊」戦域。

 ソ連軍・第4親衛師団と 独立親衛部隊は強力で足の速い機械化部隊を有し、砲兵部隊も連隊規模の高火力を揃えています。チル川東南部の南岸沿いの道路を着実に穿つように南下してくるソ連軍を止める術はあるのでしょうか?

 対する独軍・第336歩兵師団にもそれなりの兵力が存在し善戦を期待出来るものの親衛師団と独立部隊の協調攻勢は1個歩兵師団では手に余ります。

 ソ連軍が擁する砲兵部隊群(5個連隊、3個大隊・4個中隊 / 制圧期待率620%弱)は高火力を有しており、攻勢点へクスに陣取る独軍部隊はほぼ制圧砲撃を受けて弱体化の憂き目にあうのは必定で、あまつさえKRによる戦力の無力化(KR期待成功率180%強)に直面します。ですが、独軍砲兵の陣容も負けてはいません。4個大隊・12個中隊とソ連軍に比して小ぶりながら制圧期待率は670%弱とやや優勢です。KR率においても170%強とほぼ互角の期待成功率を有しており、攻勢点に圧力をかけるソ連軍主力の足を止め得る力を十二分に有しています。

 しかしながら、やはり「PBS」のチットシステムにより、この戦域は常にソ連軍にイニシアティブを執られています。独軍はかなりの確率で戦線を寸断される状況に追い込まれるでしょう(この戦域を336師団のみで凌げたのだとしたら、それは独軍の圧勝を意味すると言っても過言ではありません。)。将棋ではありませんが、2手続けて指されるアドバンテージは計り知れないものがあります。

中央西部 ソ連軍「第1戦車軍 」戦域。(1Turn~4Turn)

このゲームの主役であり機動防禦の要、独軍 第11装甲師団(以下、11th PzDiv と表記)の主戦域に目を向けましょう。

 独軍 第336歩兵師団と第7空軍野戦師団の戦線のギャップを突き、ソ連軍 第1戦車軍は戦線を突破。雪煙を上げながら無人の雪原をState Farm79(D)に向け突き進みます。勝利ポイント(以下VP)地点でもあるState Farm79(D)に進軍する理由は理解できますが、両翼の部隊(333歩兵師団・第4親衛師団)との連携も取らずに行う侵攻は如何なものだったのでしょうか。

 戦史では、ここから11th PzDiv の華々しい機動防御が展開されるわけですが……。

 中央西部戦域においては両軍の兵種の偏りが顕著なのが特徴と言えます。

 第1ターンに分散投入されてくる11th PzDivの砲兵部隊は、4個砲兵大隊・7個砲兵中隊と充実しており、この装甲師団を手厚く掩護してくれます。1つの活性化セグメントにおける制圧率は550%、KR率は160%を超える破壊力を有し、独軍において唯一の攻勢点に使用し得る砲兵部隊とも言えます。

 片やソ連軍ですが、用兵思想の違いでしょうか。それとも編成が間に合わず省略でもされたのか……第1戦車軍の砲兵は1個砲兵大隊のみ、制圧率は50%・KR率8%強と単体としての数値は低くないと言えますが、流石に連隊規模とはいえ砲兵部隊が一つだけ、というのは運用面で多様性を欠いてしまします。

 砲兵の運用法として最も使用されるスタイルは「複数の砲兵部隊による集中且つ重点的な単一へクスへの制圧砲撃」だと小生は考えますが、皆様はいかがでしょうか。単体での砲兵運用は効果が無い、とまでは言えないにせよ軍規模の戦車部隊の砲兵数が1個連隊とは……第1戦車軍のトップを哀れまずにはいられません。

 以上を鑑みると西部中央戦域は砲兵数の差が原因で圧倒的に独軍が有利となっています。なにしろ攻勢点に独軍のみが砲兵の影響を与えうる状況です。まして成功率は高い、ソ連軍の防御力はこの地においてはもとから半減した数値しかないに等しいのです。

 第1戦車軍は、砲撃に晒され、補給線を断たれ、蹂躙されるでしょう。ソ連軍プレイヤーは西部中央戦域の対策を考えねば、第4ターン以降に登場する第5機械化師団の到着を待たずしてゲームの趨勢が決まりかねない、と覚悟してプレイに望まれるのが良いかと愚考します。

 ざっと各戦域の状況と砲兵の分散具合を解説致しました。ここまで考察しての感想ですが、「PBS」の規模ゆえ砲兵部隊に焦点が強く合うのか、デザイナーの意図として砲兵に強く焦点を当てているのか、が小生には未だ掴め切れていません。SCSシリーズを複数プレイされた方はもしかするとこの辺りの感触を肌で感じるように理解されて居られるかも、とも想像します。シリーズを通してプレイを行わないとデザイナーの意図が掴めない、そんなゲーム群が存在するだろう ことは想像に難くありません。

 紙数が尽きてしまいました。

今回はこの辺りで終了と致します。

最後までお読み下さり,有難う御座います。

 追記、「PBS」における砲兵部隊の解説は「CRT」と「移動」からも影響される要素が強くある為にこの項では概説にとどめる事と致します。今回の戦域解説を基礎として、以後は「CRT」、「移動」の要素をレイヤーにして解説を進めていければ、と予定しています。

 尚、前章と今章で使用した各計数表(Excelにて作成。砲兵を含む、両軍部隊カウンター別ユニット数値集計表)にご興味がある方は末尾にダウンロードの用意をしておきますのでお手に取って頂ければと思います。

 謝辞・予定では今章の考察にCRTも含めるつもりでしたが、予想外に砲兵考察に紙数を割いてしまいました。予告を守れず、申し訳ありません。

次回は戦闘結果表と移動から見る「Panzer Battles]を考察します。 

PANZER BATTLES 考察3/ System of OODA Loop [Act]

行動 / Combat Result Table & Fire and Movement に続く。

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