Storm Over ARNHEM 考察1 「雑感とマップデザイン」

前  景

アルンヘム強襲(邦題)「市街戦の戦略とマップデザイン」

 アルンヘム強襲(以下、SOAと表記)は 囲碁・将棋に思考方法が非常に類似しているのではないか?との感想を小生は持っています。

 ヘキサタイプ(6角形の升目を使用したマップの種類)を用いた戦術級ゲームはそのシミュレートする戦闘状況が複雑かつ多岐にわたる為にどうしてもルール項目が増える傾向にあります。史実のシミュレートを重視すればプレイアビリティが低下しますし、その逆にプレイアビリティのみの追求はシミュレート性を損なう、ウォーゲームの「史実の再現性」を蔑ろにしてしまう行為となり得ます。

 非常に残念な事ではありますがプレイアビリティの追求に特化したゲームにウォーゲームが遅れを取るのは当然と言えば当然ですよね。単純に面白いのですから。

 不人気のウォーゲーム(笑)でも史実の再現性とプレイアビリティを両立したSOAは初心者に喜んでもらえるボードゲームだと思いますよ。話を元に戻しましょう。このゲーム、非常に囲碁、将棋と類似した特徴を持つゲームでマップに広がる各エリアを奪い合う様は “碁石で地目を囲う” 囲碁に、エリア間の射撃や白兵戦の切結び具合は“駒の効き”を加算していく将棋のように、古来から存在するボードゲームの王道に非常に近しい何某かを内包しているゲームとなっています。

 

 ルールはウォーゲーム類では比較的「易しい」部類になるかと思っていますが盤上の戦況把握や損害ポイントの処理等への慣れは多少時間が掛かります。そして戦術級サイズの戦略眼(若しくは市街戦の攻略技術と言い換えた方が良いでしょうか。)が見えないと(今もって小生には見えませんが。(笑))“勝ち”は手に入らないゲームのように思えます。ゲームバランスは やや連合軍優勢。バランスに関しては、デザイナーズノートの追記文が雑誌「タクテクス6号(隔月刊)」に記載されています。「バランスは非常に良いが、ドイツ軍は積極的に攻め続けないと勝ちを拾えない。史実通りの攻撃は、連合軍がポイントを拾えるようになっている」との記載が印象的でした。

 少々話は変わりますが、似たような記述をされているゲームを思い出しました。レックカンパニー製作「史上最大の作戦」の鈴木銀一郎氏が寄稿されたデザイナーズノートに以下の文言が有りました。要約した文言を記載させて頂きます。「ノルマンディに上陸した英国軍はもっとアグレッシブに攻めることが出来たのではないか?その為、アバランシェ突破を史実より早い日程に設定した・・・」やはり戦闘序列などを数値化するデザイン作業ではこのような戦況に見合わない戦力(この戦力ならもっと頑張れたのではないか?)などとの気持ちとの板挟みの中に成立していくものなのだろうな、と。デザイナーはゲーム製作段階ですでにシミュレーションにどっぷりと浸かっているからこそ出る「言葉(気持ち)」なのだろうな、と思ったりもしました。

 個人でゲームデザインをされているツイートをよく見かけますが、もしかするとデザイナーはゲーマーよりももっと楽しい時間を史料と過ごしているのかもしれませんね。済みません、また話が逸れました。本筋に帰りましょう。

「市街戦」という概念。連合軍にとっての未知の戦況。

 マップデザインは「Squad Leader」(ASLでは無くSLです。同じAvalon Hill.Co製なのでマップデザインは同じ方が手掛けているのかもしれませんね。)に似ています。マップ全景を掲載しておきますのでご覧ください。当時のアルンヘム市街をそのまま模倣したリアルな田舎町が描かれており素朴な街並みを演出していますが、教会・学校・工場等さらには高層建築物も存在し小なりとはいえ市街地として必要な要件を満たしています。

SOA Map
左記掲載のマップと同地域の現在の街並み。角度が右に傾いています。
Google Earthより転載

 この街において英国軍随一の精強を誇る第一空挺師団は「市街戦」という未知の戦いに巻き込まれて行きます。

 市街戦そのものが全く無かったとは考えられませんが、軍事知識として「市街戦」というものに焦点を当てた研究が当時為されていなかったのは事実でしょう。「長大な戦線と塹壕戦」が生まれた第一次世界大戦。電撃戦という野外決戦の一形態が生まれた第二次世界大戦初期。そして戦争後期に生まれた「市街戦」は現在も対テロリスト対策の基本事項にも用いられるほど活発な研究がなされている分野です。

市街戦について

 当時、この最新の軍事知識を持つ国家は二か国だけです。敗北寸前まで追い込まれたソビエト連邦はスターリングラードで行われた激烈な市街戦において対ドイツへの勝利の足掛かりを掴みました。

 もう一か国は言わずと知れたドイツ。ソビエト連邦との血で血を洗う戦争で力尽きはしましたが、スターリングラード・レニングラードという市街戦での経験値は当時群を抜いていました。

 片や連合軍は「市街戦」の経験と研究に出遅れていた、と言えます。宣なるかな連合軍国家は小規模の市街戦は経験しているでしょうが、自らの体に叩き込まれるような、彫り込まれるような地獄の市街戦を経験したことが無いのです。

 市街戦の経験が乏しいとは言えどもSOAで英国降下兵は基本的に守りに徹する事で障害物の多い街で戦う利点を大いに享受できる立場です。対するドイツ軍はこちらも精強を謳われるSS装甲師団。しかし第9SS装甲師団・第10SS装甲師団は共に戦争後期に編成され戦争経験が乏しい若者が主体の師団なのです。戦争経験は豊富だが市街戦に慣れていない英国空挺師団。片や編成されたばかりの経験値の低い若い兵士たちですが、重火器は豊富(空挺師団との比較です。)。このあたり、ユニットの数値調整に見事に反映されています。ウォーゲーム好きには目の保養ですよ。

 ここに一人の将校が登場します。ドイツ軍将校のブリンクマン、階級は少佐です。小生がこのテーマで小説を書くとすれば(勿論、そんな筆力有りません。笑)、このブリンクマン少佐を主人公か非常にメインに近い立場に据えるでしょう。

 少佐は地獄の東部戦線から生きて西部戦線に戻って来ました。しかもスターリングラード市街戦を経験した古強者。恐らく、西部戦線において市街戦を知識と経験に於いて知り尽くした将校が「最もその知識と経験を必要としている時間・場所に存在した」というドイツ軍にとり僥倖とも言えるべき稀有な人事異動が発生しているのです。(この人事を行ったドイツ軍人事課?の職員は鉄十字勲章ものです。)彼がSS装甲師団を指揮し、英国軍第一空挺師団旗下・第二落下傘大隊指揮者 ジョン フロスト中佐と知恵と力の限りを振り絞り戦う舞台がネーデルライン大河橋北岸のアルンヘム市街です。

 規模は戦術級ではありますが焦点は戦術では無く、この二人の将校から見る「市街地における戦略」という特殊なシミュレートが「アルンヘム強襲(邦題)」と名付けられたこのゲームの真骨頂と言えます。

 前章概略で述べましたがSOAはやや英国軍が有利です。ドイツ軍プレイヤーが互角に戦うにはゲームに習熟する必要があり、それはまるで詰め将棋を幾度も解いて棋力を上げていく棋士さながらです。マップ上にあるエリア間の射撃や装甲車の突入、盤外砲撃、夜間ターンの浸透術、建築物の放火というバリエーション豊富な戦術を効果的に組み合わせる技術を磨き、ジョン・フロスト中佐を追い込んでいくのです。

 勿論、英国軍プレイヤーも慣れるに従いドイツ軍を翻弄し守備エリアを頑強に守り抜く術を手に入れブリンクマン少佐を出し抜いて行きます。

 プレイアビリティは折り紙付きです。事前にご忠告を一つ。白熱しすぎて盤外乱闘に発展しないように……。あくまでも決着はマップ上で決するようにしましょう。

 申し訳ありません。ついつい雑感に字数を尽くしてしまいました。

戦略考・俯瞰「Area11

 各ターンでは任意の一つのエリア内のユニットだけ移動や射撃を行う「フェイズ」を交互に繰り返します。任意のエリアに置かれたユニットが多数存在するなら、複数の動きや射撃をして構いませんし、後々の為に動かない、と言う選択も可能です。ユニットは使用(射撃や移動に)されると裏返しになり白地の裏面を見せ、次のターンまで動くことが出来ません。こうして各ターン終了時には赤や黒のユニットはほとんどが使用済みとなり白地にかわりターン終了となります。

 軽い説明ではありますが、このフェイズ(インパルスとも表現されます。)の繰り返しは単一のエリアに多くのユニットが存在し且つ多方面に働きかけることが出来るエリアがとても重要になるシステムです。何故なら、多方面、つまり複数のエリアに対し一度のフェイズで働きかけることにより、対するプレイヤーは単一フェイズでは解決できない問題を複数抱える事となります。当然ながら、これから起こるであろう問題を事前に対処したいプレイヤーは相手の手を潰す行動に出ます…手の内を読み合うわけです。読み、を入れるのは対戦型のゲームならほぼ全てのゲームで行われるプレイヤーの思考形態ですが、SOAでは特に強く読み合い合戦を意識させられます。

余談が長くなりました。まずは下図をご覧ください。

 マップのエリア内に太字で数字を記入してありますが、数字の意味はおわかりでしょうか。

 これはそのエリアが隣接しているエリア数を記したものです。ざっと見ると川岸(マップ下部)はゲーム範囲の南限になりますから3から4エリアの隣接エリアしかありませんが基本的に5から6エリアとの隣接が大半のエリアです。

 エリアに記入された数字は三色。黄色は英降下兵初期配置エリア。黒はドイツ軍SS装甲部隊の配置エリアです。それ以外は白で表示してあります。

 ただ一つだけ異質の隣接エリア数を持つエリアが存在します。第11エリアです。このエリアは見ておわかりのように9か所もの隣接エリアを持つ区画となっています。

 マップを拡大して頂ければわかりやすいでしょうか。小さい赤丸の中に白抜きで「11」の数字のエリアが該当エリアです。

 エリアには大型の工場のような建築物が描かれていますし、広く見渡せる複数の階層を持つ建物が周囲を睥睨している為に隣接エリア(影響を与え得るエリア)が多く設定されていると想定されます。

 エリア11に隣接しているドイツ軍初期配置地区は5か所(全部で10か所の初期配置エリアがある)非常に戦力が集中しやすくなっています、エリア11を抜くことで、エリア6・7・16という英国守備エリアの脇腹に爪を立てる事が可能となるからです。英軍とて弱点をそう簡単に晒すわけにはいかない為にエリア11を優先的に守りたい、それ故にエリア11の攻防はこのゲームの序盤の焦点の一つになる、と言えます。エリア11を英独両軍が奪い合う天王山としてデザインされているのが明瞭に分かる数字です。

 ならば英国軍側はエリア11を中心に兵力を集中すれば良いのでは、と考えてしまいますがドイツ軍SS装甲部隊とは移動力が違い、一端接敵されると移動力が嵩み、配置転換もままならない事態が頻発します。英国軍は数と攻撃力でも劣ります。偏った戦力集中は、他エリアの脆弱性を強調してしまいます(初期配置は隠匿配置となっており事前に決めたエリアにユニットを並べてようやくお互いの攻め筋が判ったりします。)。

 ドイツ軍視点では、エリア11周辺の守備が強固ならば、エリア22・23(マップ北部中央)を狙う戦力転換も視野に入れておくべきです。エリア3・18(マップ西部中央から南端)は降下兵にとって特に戦力が薄くなりがちなポイントです。以後の章で述べる積りですが、増援獲得の確率を高める戦略も存在しそうです。

今章はここまでとさせて頂きます。

ボードゲームの中でも小生が好きな作品ベスト5に入ります。

少々熱が入りすぎ雑感で紙数が尽きてしまいました。申し訳ありません。

最後までお読み頂き、有難う御座いました。

Storm Over ARNHEM 考察2「戦術級ゲームの抽象化」に続く。

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