【ドイツ軍プレイヤーから見るバルジ大作戦】作戦級ゲームのミニマムな補給戦略 .2 

解析!CRT はドイツ軍の敵か味方か?

CRTはどこまでリアリティを追求すべきか?

皆様こんにちは、小林三佐です。

今回は「戦闘結果表(Combat Result Table)」(以降CRTと称します)の分析に参りたいと思います。

では早速……と行きたい処ですが、本題の前に皆さんは「ランチェスターの法則」はご存知でしょうか。この趣味に携わる皆さまなら既にご存知の概念だとは思いますが、少々説明から入らせて頂こうと思います。

「ランチェスターの法則」とは簡単に纏めると、

「近代戦(第一次世界大戦以降)の戦闘では、集団戦力(兵数・兵器数等)が優勢であればあるほど、損害も反比例するように少なくなり、勝ち易い。」*ウィキペディア参照

この研究成果は当然の事ながらシミュレーション・ウォーゲームの根幹に強く影響を与えています。ゲームのシステムにCRTが存在しますが、CRTはこのランチェスターの法則に則って創造されている、と言い切って良いかと思います。

私たちプレイヤーも攻撃の際、可能な限り戦力の集中を心掛けますが、それは戦闘結果が求める目標(勝利条件)に対し「良い結果」に繫がる可能性が高くなるからに他なりません。CRTとは現実をミニマムに抽象化したウォーゲーム内の“独自の物理定数”のようなものです。この箱庭の世界では気まぐれな神の行いは全てダイスとCRTによって導き出されます。

詳細は省きますが、バルジ大作戦のCRTを ある切り口からまず、切り出し、折れ線グラフを作成しました。

*注意 以後記載された計数表・グラフ類に記載されています%表示は2D6を基本に数値を割りだしている為、誤差が生じています。小数点3桁目を四捨五入処理、小数点2桁を表示している為、百分割合計0.08%の余剰誤差が発生します。ご了承下さい。

グラフはバルジ大作戦のCRTから二つの要素を抽出し、グラフ化しました。各比率ごとに、敵に与えうるダメージ確率(防御側損害率。グラフ線「青」)と攻撃時に敵から受けた反撃ダメージ確率(攻撃側損害率。グラフ線「赤」)を各比率毎で示しています。

如何でしょうか? 

*拡大出来ます。クリックしてください。

攻撃比率が高くなれば「青」は順当に右肩上がり線を構成します。打撃率は上昇、防御側は比率相応に被害確率が高まります。では、「赤」はどうでしょう。防御側の抵抗が強ければ、攻撃側にもそれなりの被害が出ます。ランチェスターの法則から推定すると戦力比が大きくなればなるほど、防御側の抵抗は弱くなり攻撃側の損害は少なくなってゆく……筈なのですが。「赤」は順当な右肩下がり、とは言えないようです。

比率4:1まではランチェスターの法則をなぞるように順当ですが、5:1になると10%強の増加により攻撃側の損害が増加しています。本来なら下がるべき数値ですが……。

ゲームシステムとはあらゆる軍事状況を抽象化して処理をすることで成り立っています。ではこのグラフから見る「数値の逆行」はどのような状況を抽象化したのでしょうか。前章で述べた両軍ステップロスの減少戦力差は“兵站”問題の抽象化、という理由付けが成立しましたが、今章のグラフの逆上昇は軍事的シミュレートとしては意味は見つけづらく感じてしまいます。

戦場における ”何か” の抽象化、として納得するには些か不明瞭なデザインですね。

参考までに、幾つか他のウォーゲームからCRTを同要素でグラフ化しました。

Tactics Ⅱ / Avalon Hill Game Company
Across Suez / Simulations Publications, Inc

TacticsⅡとAcross Suezは“青”“赤”とも順当な上昇っぷり、と下降っぷりを示しています。「TacticsⅡ」といえば史上初のボードウォーゲームです。さらに「Across Suez」は入門用のゲームですからデザインも無理なく、テーマもすっきりしているので、CRTがシンプルなのもその為かもしれません。

ですが……Road to the Rhineはなんと“赤”の逆上がり状態が存在しました。先二つのゲームとは違い、ほぼ直滑降なラインを“青”“赤”とも含んだ、やや極端なスタイルに目が行きますが、下降するはずのラインが一度上昇に転じるのはバルジと同じではないでしょうか。何かしら意図的なデザインの一環ではあるようです。(どちらのゲームも第二次世界大戦の同時期を扱い、戦域が“西部戦線”と同じなのも気になる処です。)

Road to the Rhine / Game Designers’ Workshop *クリックで拡大出来ます。

架空戦争(Tactics Ⅱ)や第四次中東戦争(Across Suez)に描く必要が無い要素を”西部戦線”は内包しているのかもしれませんね。ですが、もしゲームを面白くする為(プレイアビリティを高める)、という理由によりCRTに手を加えたのだとしたら……皆さんはどう思われますか?

“制作過程で紛れ込んだミス” の可能性は?

その可能性は低い、と考えて良いでしょう。近年、再販もされている日本製バルジにCRTの改変が為された、との情報は無く(スミマセン! 再販バルジを小生は持っておりません。)、さらに言えば わざわざ2D6をゲームに採用し戦闘結果項目を増やす事でゲームを複雑化する手法を取り入れているデザイナー達がこんな単純な数値ミスをするはずも無いでしょう。

数値変動は意図的に取り入れているが、”軍事的事象のシミュレーションが目的では無い”

  小生にはこれが納得の行く説明に感じます。但し、“軍事的事象をシミュレーションする“という理由以外の為にCRTの不可解な数値変動は許されて良のか? との疑問は残りますが。ですが……デザイナーが敢えてゲームをコントロールする為に行った数値変動だったならばプレイヤーは理解こそすれ非難すべきものではないのだ、とも思います。ゲームにおいて「隠し味」とはゲーマーには気付かない処でプレイアビリティを高めるからこそ「隠し味」と言えますよね。

上記を踏まえ、とりあえず私は「隠し味」説を採用することとしました。

CRTの「隠し味」を特定することにしましょう。いったいどんな香辛料を使って調理されているのでしょう。詳細に論じる為、問題の戦闘比率5対1を含んでいる仕様頻度が高いと想定される戦闘比4対1~ 6対1の三つの比率を詳細に見ていきましょう。

CRT 4:1結果項目別割合。
58.38% 薄緑の範囲は敵のみに損害。
41.70% 内訳・27.80%は相互損害(引き分け)、11.12%は双方共に影響無
2.78%は攻撃側のみ被害。
CRT 5:1結果項目別割合。
58.38% 薄緑の範囲は敵のみに損害。
41.70% 相互損害(引き分け)
CRT 6:1結果項目別割合。
58.38% 薄緑の範囲は敵のみに損害。
41.70% 相互損害(引き分け)

*クリックで拡大出来ます。

ざっと目を通して頂いたと仮定して話を進めます。

このグラフ作成に当り結果項目を三つの結果群に分けました。

薄緑群 : 攻撃成功。防御側のみに損害が発生する項目。但し、戦果の大小は問わず。

青 群 : 防御・攻撃側双方に損害が発生する項目。但し、損害の大小は問わず。

赤 群 : 攻撃失敗。攻撃側のみに損害が発生する項目。但し、損害の大小は問わず。

 注記、“Cont(双方損害無し)”のみ黄色表示にしています。

41.70%の壁。何故、ここまでExchenge(相互損害)率が高いのか?

攻撃成功率は戦闘比率の高まりと比例関係にあります。しかしグラフは三つとも攻撃成功率「薄緑群」(58.38%) は変わらないままです。この点に関しては項目のシフトチェンジによって目先の変化はあるので問題ないようにも感じます。例えば「D1」の結果確率が減り、より被害が増加する項目「D2」の確率が増えるような変化です。これはこれで「高確率の攻撃が良い結果を生じる」とも言えますが、攻撃成功確率の上昇(薄緑群の%の増加)が本筋の変化ではないか? との疑問が付き纏います。ですが、本章の問題提議はここではありません。

章題にある、41.70%という異常なほどの「引き分け率」の高さです。この数値設定は明確にゲームに影響を与える意図をもって5:1と6:1に織り込まれているようです。では、その意図とは何か? 考察1で述べた、機甲師団を構成する機械化連隊のステップロスのポイント減少の差異が答えになると思います。両軍が共に1ステップロスを受けると平均値で連合軍は2P、ドイツ軍は2.6pの戦闘力の減少が生じます。この理由を小生は兵站能力の差を抽象化したものだ、と考えました。そして、ドイツ軍はこの「引き分けが多いCRT」を用いて戦えば戦うほど高確率な相互損害により機械化部隊は脆弱になって行く。勿論、連合軍も損害は増えますが、戦力の減少差がドイツ軍よりも少ないことが、相対的に連合軍を次第に優位に立たせていく……という流れを作っているのでしょう。まさしく、神=ゲームデザイナーの見事なシステムの作り込みです。システムの妙に気づきはしましたが、ドイツ軍にとっては自軍カウンターに内包する脆弱性と、その脆弱性を密かに突くCRTは、決して味方とは言えないでしょうね。

カウンター構成もCRTもドイツ軍にとって厳しいゲーム要素としてシステム化されているようですね。それならば、ドイツ軍として少しでも勝利条件に結び付けられるような対応策は考案出来るのでしょうか。このあたりは考察3にて語りたいと思います。

考察1と考察2ではバルジ大作戦の”兵站”がどのように抽象化されているか、を述べてきました。この考察は小生、小林三佐の勝手な憶測の域は出ておりません。ただ、扱った数値はバルジ大作戦のシステム構築を担っている土台にまぎれもなく存在するものです。ゲームデザイナーの残した足跡として充分に語るに足る資料だと小生は考えております。紙数が足りず、説明が足りない部分も多いのも事実です。考察2で使用したグラフの基礎資料として作成した集計表に興味がおありの方が居られましたら、下段にて集計表作成に使用したExcelファイルをダウンロードしてご利用ください。

三佐の独り言。「おぼえてますか? バルジ大作戦の広告」

最後までお読みいただきありがとうございます。

【ドイツ軍プレイヤーから見るバルジ大作戦】作戦級ゲームのミニマムな補給戦略 .3 

「戦況支配率から滲み出るゲームデザイナーの厳しい要求に続く。

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資料ダウンロードはこちらをクリック ➡ バルジ大作戦・考察2「CRT解析」

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