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Across Suez考察〖4〗最終回

見えない数値…地形。

 前章までは両軍の”質”と”特別ルールを見てきました。

 イスラエル軍の勝利条件の達成難度が以外に高いのが個人的には驚きです。入門用と銘を打ち、非常に短時間で決着がついてしまうゲームですが、勝つ為に要求される思考は他の標準的なウォーゲームに劣らないと思います。プレイヤーの知的好奇心を擽ります。

 この章ではAcross Suezの最後のレイヤー…マップ、及びその地形についての考察です。マップはゲームの趨勢にどのような影響を及ぼすのでしょうか。ユニットの質、特別ルールに加えマップを加味すると両軍のバランスはどう変わるのか、を見ていきます。

地形の影響…2

 CRTに影響を与える地形は陣地・砂丘・崖、とこの三種類になります。陣地はスエズ運河沿いに点在していますが、砂丘と崖の複合地形はマップ中央から東よりに位置しています。低戦力のエジプト軍はこの地形を是非利用したいところです。ですが、戦線はマップの東西の全域に広がり易く、そのほとんどが影響力のない砂漠地帯になります。点在する砂丘や崖は少々数不足と感じます。東部の戦域で拠点防御として利用をする程度ですね。

 ゲームデザイナーはゴラン高原を防御側に利点の少ない地形として表現しています。流動的な砂漠での戦車戦を再現したいのでしょうか。少なくとも防御側に徹するエジプト軍にあまり地の利は無いようです。拠って守る地形が少ないのですから、戦闘に与える影響は非常に暫定的です。この点は攻勢に出るイスラエル軍が有利に思えます。

エジプト軍はChineseFarmを占拠・維持出来ない。

 戦史ではChineseFarm(マップ中央。へクス№0910)の争奪戦が激しく展開されました。しかしAcrossSuezのマップ上では、チャイニーズファーム争奪戦はあまりお目にかかれませんし、あっても争奪戦の始まる展開は激しい消耗戦となり、中盤以降戦線を維持出来ないEgypt軍が投了する、という展開が多いのではないでしょうか。

 今一度マップをご確認下さい。チャイニーズファームは地形防御力がゲーム内最大に設定されていますが、その両サイド広がる地形は防御力に影響の無い砂漠のみです。

 しかも初期配置からすでにチャイニーズファームはエジプト軍最前線の頂点にあり、イスラエル軍にとって非常に戦力を集中しやすい状況にあります。もし、エジプト軍がファームに固執すれば、最悪はゲームの前半でエジプト軍各大隊は壊滅、戦線の維持は不可能になり、序盤に趨勢が決まることでしょう。残念ながらエジプト軍には決戦に持ち込むほどの戦力が用意されていません。初期配置状態を維持したくなるEgypt軍はChineseFarmを頂点としたバルジ線を形成したくなります。ですが、勝利を目指すならば「序盤、ChineseFarmは放棄し、部隊を温存する為に戦線を後退させる。」方針が良いように思います。

 余談ですが…。

 少々話は逸れてしまいますが、もしチャイニーズファームの激戦をシミュレートしたゲームをお望みでしたら、他のゲームデザイナーが創った第四次中東戦争物のウォーゲームはいかがでしょうか。もしくはASLのような戦術級に焦点を当てたゲームなら願いが叶うかもしれません。

              *Avalon Hill Game Company製

”Arab-Israeli Wars”

 Across Suezと同テーマを扱った戦術級ゲーム。チャイニーズファームを取り上げたシナリオが存在します。他にも現在では海外製のウォーゲームで同テーマを扱った作品が幾つか散見されますね。根強い人気のあるテーマなのですね。

地形の影響…その3「道路」

 このゲームで戦況に最も影響を与えるのは道路ではないか、と小生は考えています。

 砂漠地帯を移動する場合は1へクス3移動力を必要としますが、道路移動になると1/2移動力で事足りてしまいます。単純に升目の数として砂漠移動1へクスに対し道路移動は6へクス。勿論、戦力がそれで変わる訳ではありませんが、手持ちの戦力を戦域の隅々に移動可能なら好きなタイミングで戦力を集中し敵戦線のアキレス健を狙えます。

 これから記述するのは投稿者が想定する「Across Suez」の基本的な展開です。勿論、異論もあるのは承知しています。ご意見頂ければ、活発な意見交換も可能です。コメントをお待ちしています。

個人的想定ですが…

 第1・Egypt軍ターン以降、戦線が整理され、どの程度北部に戦線が押し返されるのかが、ゲームの焦点になるのではないか、と私は想定しています。Israel軍の戦線を穿つ戦力の無いEgypt軍は戦機が到来するまで可能な限り戦線の現状維持が求められますが、戦力的優位のあるIsrael軍の圧力に負け戦線を北方に下げざる得なくなるでしょう。ChineseFarmを棄て、北方に撤退するEgypt軍に対し、当然Israel軍は戦果を拡大する為に北上、Egypt軍に噛みつき、戦力の弱体化を狙います。この時点でEgypt軍が無策ならば戦況はIsrael軍に大きく傾くでしょう。

 東西に走る道路を押えたIsrael軍はほぼ無敵状態です。Egypt軍はサンドバッグ状態となり、戦線の左右の弱点をIsrael軍は強気に叩き揺さぶりをかけます。勿論、Israel軍の攻勢にEgypt軍は対応します。しかしながら砂漠に足を取られたEgypt軍の応接は遅く、壊滅した大隊の補充が間に合いません。破壊された戦線を繕う為、戦線を下げるしか術はないでしょう。後はもうIsrael軍の独壇場です。充分に戦線を北上させ(東西に走る道路から距離を取らせ)、余裕を持って6大隊をスエズ西岸に渡河、マップ上に残る部隊をEgypt軍が南下出来ない場所に配置すれば完了です。(付け加えると、第5ターンのEgypt軍増援は北部からではなく南部から上がってきますので、こちらの大隊への応接もIsrael軍は考えねばなりません。)早ければ第6・Israel軍Turn終了時点でEgypt軍は白旗を上げるかもしれません。Egypt軍に確固とした戦略が無ければ、高確率でIsrael軍が勝利を収める、それほど有利な条件が揃っているように感じます。

 Israel軍が有利である、という補強材料を一つ加えておきます。

 夜間ターンでもIsrael軍は移動力が10はある、ということです。夜間は 両軍とも移動力が2下がります。移動力12のイスラエル軍は10に、10のエジプト軍は8になる計算です。ここで私が悪戯書きしたマップ全図をご参照下さい。ある条件でヘクスの淵廻りを赤く線引きしています。

 Israel軍の移動力12の大隊が1度の移動フェイズでスエズ運河を渡河可能な範囲を表しています。かなり広範囲からでもスエズ運河を渡河する事が可能なのが解ります。

 

 しかもこれはNight Turnの移動可能範囲を示した図です…つまり第7最終TurnにIsrael軍が赤枠内を占拠していれば、枠内に存在するIsrael軍大隊は全て渡河可能となります。かなり広く感じませんか?私にはマップ自体がIsrael軍の味方のように感じました。

 いくらアメリカ製のWarGameだからってイスラエルに贔屓が過ぎると思います。(笑)

話を元に戻しましょう。

 6ターンまで目いっぱい大隊を効率良く戦わせ、7ターン(夜間)に渡河。この形がIsrael軍のスタンダードな勝ちパターンではないでしょうか。ゲームバランスは、両軍共にスタンダードな応酬を繰り広げるとIsrael軍がかなり有利である・・・これが私の結論です。

 史実のシミュレートとしては現実に即したゲーム展開は、当然の帰結でしょう。プレイアビリティは多少損なってしまいますが。

エジプト軍は勝てないのか?

 そんなことは無いと投稿者は考えます。スタンダードな流れでも賽の目が偏れば当然エジプト軍も勝ちを拾えるでしょう。当然ながらEgypt軍の勝ち筋…戦略があるはずです。攻勢を受ける側の戦略は非常に見えづらいですよね。それに地味ですから爽快感も少ない。得てしてウォーゲームでは防御に徹する軍を受け持つのは上級者と言いますか、熟練者ですね。

 以下、最後になりますが、小生が愚考しましたEgypt軍の勝ち筋を一つ提示させて頂いてこの考察を終わりにしたいと思います。

東西に無理に戦線を構築しない。

 Egypt軍には補給路を気にかけなくても良い立場にあります。2Turn・5Turnに登場する部隊の侵入ラインはそれぞれ違いますので増援を受けて以降、増援侵入道路は捨てても構いませんし部隊の背後にIsrael軍を侵入させなければ、戦線の構築すら不要ではないか、と考えます。

 通常、Egypt軍プレイヤーは2Turnの増援部隊を運河沿いの北方道路からmatzmed陣地方面に道路を南下させるケースが多いように感じます。道路移動のアドバンテージを利用し増援部隊はすぐに戦線に投入出来ますし、なによりmatzmed近辺の東西に走る道路ヘクスを占拠することはIsrael軍の勝利条件達成を非常に困難にさせるのも事実です。

 Israel軍にとってもmatzmed周辺の道路は勝敗に直結する地域。東西に伸びる道路を背後に守るように防衛線を展開、隙の無い構えでEgypt軍を待ち受けることでしょう。

エジプト軍の主力攻勢はChineseFarmより東側で。

 Egypt軍のmatzmed近辺での攻勢は、Israel軍に二つの利点をもたらします。一つは充実した兵力のIsrael軍に真っ向勝負を挑む形になる事。弱兵が強兵に正面から斬り付けるのは“匹夫の勇”と後の歴史家(ゲーム観戦者)に謗られかねません。(笑) 真っ向勝負はIsrael軍勝利に直結する愚策、ではないか、弱兵には弱兵の戦い方があるのではないでしょうか。WarGameによくあるはっきりと攻勢と守勢に分かれたゲームとはこのAcrossSuezは多少性質が違うように思います。

 二つ目は、スエズ西岸への渡河地点にもっとも近い敵攻勢点である事。当然の事ながらIsrael軍も攻勢点に兵力を集中します。なにしろmatzmed陣地は勝利条件の要ですから戦線の維持に努める為、しっかりと兵力を集中してくるでしょう。上記しました二つの利点をもう少し詳しく述べてみます。スエズ運河沿いに南北に通る道路を南下、matzmed陣地奪取に向かうEgypt軍の戦力増強の報に接したIsrael軍司令部はただちに敵攻勢地点に増援を差し向けるでしょう。相対的な戦力はIsrael軍の方が勝っていますのでEgypt軍の戦線突破は確率的に難しく、反対に高確率でEgypt軍の攻勢は中盤で頓挫が想定されます。ゲーム中終盤にこの地点でのIsrael軍兵力余剰はEgypt軍の敗退に直結します。これは渡河予定のユニットが移動距離を勘案する事無くmatzmedに到達でき、渡河出来る事を可能とするからです。

 上記の理由が、Egypt軍の西部(スエズ運河沿)攻勢を支持しない理由です。

 反対に東部でEgypt軍が攻勢に出るならば、matzmedまでの距離を勘案してIsrael軍は戦略を立てる必要が出てきます。距離を勘案した結果、Israel軍は幾つかの大隊を後方に下げざるを得ない選択を迫られるかもしれません。Egypt軍はゲーム内での選択肢は多くありません。ですが、主戦域の選択権だけはEgypt軍に有ります。その証左は先述しましたように、後方を顧みなくて良い、からです。

 下に例として挙げたのは全てIsrael軍の行動です。

①matzmed付近の戦域で6Turnまで戦闘に従事した装甲大隊はEgypt軍をさんざん削り、7Turnに余裕で渡河を敢行する。

②東部戦域で6Turnまで戦闘に従事した装甲大隊はEgypt軍をさんざん削ったが、距離がある為、7Turnにスエズ運河を渡河出来なかった。

③東部戦域で5Turnまで戦闘に従事した装甲大隊はEgypt軍をさんざん削ったが、距離がある為、6Turnに東部戦域から離脱し戦闘に加わらず、7Turnに渡河を成功させた。

 もし、あなたがEgypt軍を指揮していたと仮定するならば、上記①②③のうち、どの状況を望みますか?

 理想は②ですか? 流石に②は無理としても、せめて③の選択肢をとるべきかどうかをIsrael軍プレーヤーに悩ませるべきではないでしょうか。

 Israel軍の渡河を予定している大隊を容易に渡河可能な状況にさせない。その為に可能な限りChineseFarmより東で攻勢をかけ、matzmedから離れた場所を争点にするようIsrael軍を誘導する。その間も攻撃の手を緩めず可能な限りIsrael軍ユニットを削る努力も必要です。足を止めるな、と言いつつ、攻撃も忘れるな、との言は矛盾を感じるかと思いますが、Israel軍を損耗させ渡河大隊の絶対数を足りなくさせる事は、Israel軍の勝利条件達成に非常にプレッシャーをかけます。

 首尾よくIsrael軍の戦力を削ぎ、東部に戦力を誘導する ことに成功すれば、ユニットのやりくりにIsrael軍は忙殺されます。特に5Turn、Egypt軍の増援は南端の道路を使い北上してきますので、北部東端と南部にへの対応と戦場から6大隊の渡河準備の同時進行を厳しいものにさせることが出来れば、必ず隙が生まれます。その隙をついて狙うのが、左記のマップ全図に赤くマーキングしてある2箇所の地点です。右上のへクス(№1604)と左下のへクス(№0716)、この二点を同時に抑えることがIsrael軍の補給路を断つ近道であり、Egypt軍を勝利させる方法の一つではないでしょうか。

 他にも多くの戦略がEgypt軍にもあるかと思います。様々な戦術や戦略へ想像を巡らせるのもこの趣味の楽しみかと…。ここまでこのブログを読んで頂いた方々には、ここに書かれている作戦の5歩も10歩も先を行かれている戦略を確立されている方もおられるのは承知しております。小生の私見に穴があり過ぎて呆れている諸氏も居られるでしょう。そこに関しては、ソロプレーばかりが大半である私のゲームに対する歪みであると反省致します。

 私の歪みに風穴を開けて頂けるようなご意見・ご感想を頂ければ幸いです。そこそこ長い文章になってしまいました。

 初見ゲーマー氏のウォーゲーム紹介サイトより同じゲームを考察しているのですが、小生の考察記事より非常に面白く楽しく拝聴出来る紹介映像です。小生とは全く違う解釈の内容となっており、人それぞれ物の見方はちがうものだなぁ、と感心しきりです。

 謝辞・実は、初見ゲーマー氏に連絡を取る手段が無く,氏には無断でこの映像を当ブログで紹介しております。

 注・初見ゲーマー様へ、映像の紹介が貴方様のご不快を招くようでしたら、一報頂けませんでしょうか。早急に映像を取り下げさせて頂きます。

「Across Suez 考察」は今回にて最終回とさせて頂きます。

 この趣味を楽しまれている皆様の末席に座らせて頂いていますソロプレイヤーのつぶやきに耳を傾けて頂き、(読んで頂いているので、目を傾けて頂き? でしょうか。)誠に有り難う御座いました。

 皆様が良きウォーゲームライフを過ごされる事を願いつつ筆を擱かせて頂きます。

最後までお読み頂き、誠に有り難う御座いました。

                                      小林三佐

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