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【ドイツ軍プレイヤーから見るバルジ大作戦】作戦級ゲームのミニマムな兵站戦略

 今回取り上げるゲームは邦人ウォーゲーマーなら知らぬ者はいないであろうレックカンパニー謹製“バルジ大作戦”で御座います。

  約40年前に制作されたクラシックゲームではありますが、今もなお人気が有りゲーム研究会などで良くプレイされている様子がツイッター等で散見されます。

  かく言う私も、付き合いの長いゲームでもあり、いつか考察を述べてみたい、と考えておりました。

 皆様もご興味がおありでしたら、是非、ご一読を。

 尚、この考察は戦術や作戦と言った“兵法”に焦点を合わせてはおりません。表題の通り、ゲーム内の規模での可能な限りの戦略的思考を追求したログで御座います。

  

考察1 兵站の“質”はカウンターに現れる。

 レックカンパニーが製作した「バルジ大作戦」はエポック社から販売された和製ウォーゲームです。エポック社製のバルジ大作戦は既にネットオークション等でしか手に入らないレアなゲームとなっていまが、JWCにより再販された「バルジ大作戦」が現在も巷に出回っているのは、ゲームのファンとしてもうれしい限りです。発売からすでに40年を超えるレトロゲームですが、私の大好きなゲームでもあります。それにしても、レックカンパニーはステップロスシステムが好きなようですね。

 「砂漠の狐」も「スターリングラード」もステップロス方式を多く採用していたと記憶しています。現在に至る今も多用されている、作戦級ウォーゲームにおけるガジェットみたいなものでしょうか。

 ステップロスは戦闘部隊の戦力減少状態を描き出します。これにより兵器や車両の損失・負傷者の戦線離脱・消費した弾丸や砲弾といった戦闘部隊が戦時下に必要なあらゆる物の損失を抽象的に表現してくれるというとても優秀なシステムです。

 バルジ大作戦は機甲連隊を主軸とした突破作戦を扱っていますので、ここでは主に機甲連隊に軸足を置いてお話をさせて頂きます。

 1ステップロスの損害値(戦力減少)は両軍の兵種別カウンター毎に違います。そこで私はゲーム全体として両軍の損害値、1ステップロスの損害値2ステップロスの損害値の平均を求めてみました。

 なお、この数値は各ターン毎の損害平均値を求め、それをさらに全ターンを含めた平均値として割出してあります。

1ステップロスの損害平均値2ステップロスの損害平均値
(攻撃値)
2ステップロスの損害平均値
(防御値)
ドイツ軍「装甲」連隊2.592.762.76
ドイツ軍「装甲・歩兵」連隊1.62 1.782.08
連合軍 「機甲」連隊2.492.49
連合軍 「機甲・歩兵」連隊1.30 1.772.13

 連合軍の機甲連隊は1ステップロスをすると戦力が2ポイント下がります。ですがドイツ軍の機甲連隊は1ステップロスで一個連隊の約半分の戦力を失うのです。ポイントにして3~4ポイント。被害は甚大です。加えてドイツ軍の主力機甲連隊は7連隊しか存在せず、師団構成は機工連隊1個に装甲擲弾兵連隊(装甲車に乗った歩兵さんです)2個の編成です。また反転しますが、連合軍機甲師団構成(米軍を指しています)は機甲連隊3個編成です。連合軍師団は3ステップのロスを受けて6ポイントの喪失で済みますが、ドイツ軍は約8ポイントを失います。同数のステップロスですが、ドイツ軍がより被害が大きくなるようにデザインされています。下記に両軍の機械化連隊(車両・装甲車・戦車等の機動力と重火力をもつ装備の配備を受けた連隊を機械化と称しています。)の一部をご紹介します。

ドイツ軍第12SS装甲師団(左から、第12機甲連隊/第25装甲擲弾兵/第26装甲擲弾兵)1個機甲連隊と機械化された歩兵連隊2個による師団編成。記入された数字は攻撃力(左手)と防御力(右手)。第12機甲連隊の戦力が突出しているのがわかる。
各連隊ともに1ステップロスの損害を受けた状況。戦力半減は各連隊とも同じではあるが、相対的な戦力損失は装甲連隊(第12機甲連隊)において著しい。装甲連隊の戦力減少がドイツ軍のステップロス平均値の押し上げの要因。
連合軍(米軍)第9機甲師団(左から、CCR連隊/CCA連隊/CCB連隊)。ドイツ軍と違い3個機甲連隊による師団編成という充実ぶり。
各連隊共に1ステップロスの損害を受けた状況。どの連隊も戦力減少は同数値となる。現実に沿って考えると、装備の標準化により、「安定した損害程度」を算出しやすいシステムを構築している連合軍(米軍)と考えることも可能。(当時、戦争を最もシステマティックに運営することに成功した軍隊、ともいえるでしょうか。

各ターン毎の総戦力(増援を含めた累積表)と1ステップロス・2ステップロスの戦力減少差の平均を出した集計表を作成しました。記載しておきますので、ご興味のある方はご覧ください。

 戦力集計表 / 機甲連隊「ターン毎の総戦力集計」 /  機甲・歩兵 両連隊「ターン毎の総戦力集計」

ここでは戦力減少の平均値だけ挙げておきます、ドイツ軍は1ステップロスの場合、カウンターの戦力減少平均値は約2.6ポイント。連合軍は平均値でも2ポイントで0.6ポイントもの ”損害ポイントがドイツ軍より少ない” アドバンテージがあります。この事象を戦略的に捉えると、両軍同等の損害を出す“引分け”に分類される戦闘結果は連合軍の勝ち(単一の事象では微差ではありますが)と言えます。

 さらに2ステップロスの戦力減少平均値を見て頂きますが、もっと酷い差が生じているのがお判りでしょうか。

 この2ステップロスの意味は1つのカウンターに2ステップの損害が出た場合を想定した数値である事をご了承下さい。連隊カウンターは2ステップの損害を受けるとマップ上から除去されてしまいます。その場合を想定した平均値はドイツ軍2.76、連合軍 約2.5となり数値差は若干減りますが、勝利条件的にみるとドイツ軍は勝利ポイントを1失う結果に見舞われます。

 上記のカウンターに対するゲームデザインは非常に優れた“現実の抽象化”といえます。

小林三佐の独り言”東洋史最古のウォーゲーム”    

 史実によると1944年12月16日に開始された作戦は一か月程続きますが、その前半戦で勝敗はほぼ決した超短期作戦です。兵員の補充や車輛のオーバーホール等の戦力の回復を見込める補填期間は無く。ドイツ軍はそもそもが満足のいく兵站の確保・配給が可能だったのかも疑問視される状況です。この状況をデザイナーは両軍カウンターに数値の微差を付加することで上手くゲームに織り込んでいったのでしょう。あくまで、これは私の想像でしか有りませんが、当時の補給に関する問題をこのように処理した、と考えると非常に ”腑に落ちる” のです。

 さて、問題はここからです。見事なまでに当時の状況をゲームに盛り込んで下さったゲームデザイナーを出し抜くドイツ軍プレイヤーの戦略的采配は存在するのでしょうか。

「独逸軍機甲連隊の損害を少なくする。

「その為に歩兵連隊に損害を負担してもらう作戦的配置(同一スタック)を考慮する。

 これはまたありふれたスキルですね。誰もが皆同じく考えたと思います。私もこのスキルは使いますし、これからもバルジをプレイする度に利用するスキルです。でもこれだけでは足りない。そもそもドイツ軍のマップ上の戦力で、リエージュの完全占領やミューズ渡河は可能でしょうか? 私の意見では瞬間的には可能だと思います。ですが、勝利に貢献する部隊運用とはとても思えません。ドイツ軍は奔れば走るほど、鋭く尖った槍とも言える機甲連隊は分散してゆきます。周辺戦域に突破すればするほど、戦線を維持する連隊数は少なくなります。ゲーム後半には新鮮な連隊の増援により強化する連合軍に対して無思慮・無作為な戦線拡大は敗北という結果を呼び込むに等しい行為です。

 重要都市占領や突破、連合軍連隊除去によるポイントを一定数獲得する成算が立てば、余力を残したまま戦域拡大は止めるべきではないでしょうか。そして、残存した機甲連隊を主軸とした強固な防衛線を築くのです。

 この作戦方針は現実とかなり乖離しています。ヒトラーはミューズ河を超えようとしていましたが……基本的に兵站の限界に直面していたドイツ軍の死期を早めた作戦かもしれません。

 当時からゲームバランスは連合軍に傾いていると囁かれていましたが、“鹿内ギャンビット”の登場でドイツ軍も勝ち易くなったと良く言われています。ゲームバランスの回復はゲームアビリティを上げ、白熱したゲーム展開が日本のあらゆる場所で展開されたことでしょう。40年経った現在でもこのゲームは研究に値する地位に君臨しています。このギャンビットの登場は私にとっても“目から鱗”でした。ならばもう少し、あと5㎝でも5mmでもドイツ軍が勝ちに近づく方法はないものでしょうか。

 次回の考察は CRT戦闘結果表)を取り上げて行きます。

 第1章を終わるに辺り、一言、レックカンパニーに感謝を……。

 日本ウォーゲーム界の重鎮にして天才ゲームデザイナーの鈴木銀一郎氏とレックカンパニーのデザイナー諸氏が創造したこのゲーム。

 研究すればするほど私などには手に負えないゲームであると痛感します。流石、完成度の高い日本屈指の作戦級ウォーゲームです。

 本邦ウォーゲーム黎明期にこのゲーム触れる事が出来た私は幸運の持ち主です。

 ”思索する”という喜びをレックカンパニーのゲーム群とデザイナーの皆様に教えて頂きました。

 そのことに感謝しながら、第1章,幕引きとさせて頂きます。

【ドイツ軍プレイヤーから見るバルジ大作戦】作戦級ゲームのミニマムな兵站戦略。次回考察はこちらです。

「考察2 解析!CRT はドイツ軍の敵か味方か?」に続く。

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