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ケダモノオペラ『少年と絵』

◆イントロ
 むかしむかし、機械が空を飛び始め、剣と魔法が昔語りになった頃……。
 ケダモノが住処のある“闇の森”から散策にでたときのこと。
 廃墟となった聖堂で、ケダモノは少年パウロと出会いました。
 絵描きに憧れるパウロは、この聖堂の名高い天井画、リュミエールの『天空の世界』を見に来たのです。
 しかし、天井は先日の空襲で焼け落ちてしまっていました。少年は意気消沈。
 けれどケダモノには失われたものの在り処に心あたりがありました。
 人喰いのケダモノが、いったいどういう風の吹き回しなのでしょう?
 ケダモノはパウロをそこまで連れて行くことにしたのです。

イントロ予言:「あなたはパウロに天井画を見せてあげました」

◆プレリュード
参加ケダモノ種:マンドラバラ
名前:コリウス 疑似餌の姿:美しい少女
欲望:奉仕 権能:慈愛 
伝説1:失楽園 住処:樹上都市の廃墟
 疑似餌は本体とは別の人格を持ち、独自で意志決定を行う。
 また、人間を引きつける花蜜を持っており、万病に効く薬にもなれば、象をも殺す劇薬
にもなる。
 疑似餌の肌を裂き、花蜜を採取すると、疑似餌は枯れることになる。

◆場面1 失われた天井画
概要:パウロと出会い、願いを聞く
場所:廃墟となった聖堂

 人の居なくなった廃墟には、沢山素敵なモノが落ちています。
 まだ息のある人や、残された宝石、壊れ損なった機械……。コリウスは疑似餌でそれらの品々を物色しながら、戦火で焼けた街を歩いていました。

 町外れの聖堂跡までやってきたときのことです。
 かつては美しかったであろう聖堂。
 今では扉はなく、壊れた天井からは燦々と日が差し込んでいます。そんな聖堂の中央で、ひとりの少年が、青空を見上げて立ち尽くしていました。

コリウスの疑似餌 : 「こんにちは。あなた、一人?こんなところまで、お散歩?」
少年 : 「わっ。こ、こんにちは。――ごめんなさい、誰もいないと思っていたから」

 少年は、少し驚いたように振り返り、
「僕は遠い町から来たんだ。この聖堂の天井に描かれていた絵を見に来たんだけど……ここも戦争で焼けちゃったみたい」
 降り注ぐ日差しを見上げて、悲しげに眼を細めます。
「それはがっかりしたね。長旅で疲れたでしょ。ここに天井画は無いけど、せっかく良い天気だし、少し座って話をしない?」
 疑似餌の少女は、崩れた聖堂に残された長椅子に腰掛け、少年にも隣に座るように促しました。
 彼は少し緊張して、少し間を開けて彼女の隣に座りました。

パウロ : 「僕の名前はパウロ。君は…散歩に来たの?」
コリウスの疑似餌 : 「パウロ、ね。私の名前はコリウス。――うん。あ、ちがうよ、いつも廃墟を歩いているわけじゃないの」
パウロ : 「ふふ。僕、もしかしたら、コリウスも天井画を見に来たのかと思った」
コリウスの疑似餌 : 「うーん…私、そんなモノがあるなんてことも知らなかったから。できたら、どんな絵が描いてあったのか、教えてくれる?」

 美しい少女の姿をしたコリウスの疑似餌が小首をかしげると、少年の表情がぱっと明るくなりました。
 自分の大好きな世界を、嬉しそうに紹介していきます。
「ここの天井にはね、リュミエールの『天空の世界』って言うフレスコ画が描かれていたんだ。この国の絵描きがみんな憧れたんだよ。僕は模写でしか知らないんだけど、それはそれは見事で――」
 肩に掛けた鞄からスケッチブックを取り出すと、挟んであった葉書大の写真や模写を見せてくれました。
「……これは、スケッチブック?パウロも絵を描くの?」
「うん……ぼ、僕の絵は…まだ人に見せられるようなものじゃないから……」
 コリウスの疑似餌が尋ねると、彼は赤くなってうつむいてしまいました。
「”まだ”ってことは、いつかは見せてくれるのよね?」
 少年は一瞬複雑な表情を見せましたが、それでもはにかんだように頷いてくれました。

●試練:聖堂の記憶を思い出す : 権能:【叡智】
難度:1
▼波乱予言
〈予言:あなたはその絵画の美しさが、まるでわかりませんでした〉
〈予言:あなたは大切なことを忘れてしまった自分に気づき、おののきました〉
〈予言:あなたはパウロを食べたくて食べたくて、他にはなにも考えられませんでした〉

2d6 ベースロール (2D6) > 9
特技:未使用

波乱発生
〈予言:あなたはその絵画の美しさが、まるでわかりませんでした〉獲得
[ コリウス ] 受難ポイント : 0 → 1

情報:聖堂の記憶
 そういえば“闇の森”の“夢が流れ着く岸辺”で、この聖堂を見かけた記憶がある。
 そこでは死者たちの記憶から、物や建築物が実体化してあらわれる。パウロの言うように、多くの人に親しまれていた建物であれば、その姿が岸辺に流れ着いたとしても不思議はない。
 天井画はきっと、まだ残っている。

「あぁ、思い出した。ねぇ私、これと同じモノを見たことがあるよ。”闇の森”の中に、不思議な場所があるんだけど…――」
 疑似餌の口からそのことを話すと、パウロは興奮して前のめりに詳細を尋ねてきます。

パウロ : 「それが本当の話だったら、まだ『天空の世界』が見られるかもしれない。……でも、”闇の森”って昔話や神父様のお話に出てくる、ケダモノが暮らす森だよね。コリウスは、そこに行ったことがあるの?……君はなにもの、なの?」
コリウスの疑似餌 : 「…………ひみつ。でも、パウロが行きたいなら、連れて行ってあげられるよ」
パウロ : 「うん…!お願い、僕をそこまで連れて行って……!」

「…じゃあさ、私からも一つだけ、お願いしてもいい?」
 疑似餌が、単に思いつきを口にするような気楽さで、ぽつりとつぶやきます。
「いいよ。僕なんかに出来ることがあればいいけど……」
「無事に天井画を見ることが出来たなら、私の絵を描いてくれる?」
 パウロは、真面目な顔で少し考えた後、力強く頷きました。
 彼らはさっそく長椅子から立ち上がり、崩れかけた聖堂を後にしました。
 一人と一匹は、一路”闇の森”へと足を進めます。

◆場面2 蜘蛛の群れ
概要:アラクネと蜘蛛の群れがパウロを襲う
場所:外縁領域(闇の森)

 コリウスは“闇の森”に、パウロを連れていきました。
 巨大な植物が生い茂り、その間を光り輝く精霊たちが飛び交います。幻想的な光景に、パウロは目をみはりました。

パウロ : 「わぁ、すごい……!まるで、昔お母さんが読んでくれた絵本みたいだ」
コリウスの疑似餌 : 「気に入った?」
パウロ : 「うん。僕、こんな光景が見られるなんて、思ってもみなかった」
コリウスの疑似餌 : 「よかったね。この辺の景色、描いていく?」
パウロ : 「……そうだね。もし…もしも、帰りにまだ時間があったら、どこかで座ってゆっくりスケッチでもしたいな」

 パウロの控えめな笑顔に、疑似餌の表情も柔らかくなります。
 そのとき、疑似餌の隣を歩いていたパウロの姿が、突然消えてしまいました。

コリウスの疑似餌 : 「あれ?パウロ?どこにいったの……??」
パウロ : 「うわぁっ…、こ、ここ!ここだよ!」

 慌てて見回すと、足に絡んだ蜘蛛の糸によって樹上に吊り上げられているのです。それを合図にするかのように、あたりに10匹ほどの蜘蛛たちがあらわれます。
 その背後にいるのは、一際巨大な蜘蛛のケダモノ。
 アラクネとその子供たちです。
 人の気配を感じて、アラクネが罠をはったのです!

コリウスの疑似餌 : (ケダモノの力を使えばなんとか出来るけど、正体がばれたら怖がられてしまうかもしれない…せっかく友達になれそうだったのに……)

●試練:パウロを蜘蛛から救う : 権能:【暴虐】
難度:1
▼波乱予言
〈予言:かつてあなたの大切なモノが、アラクネに殺されました〉
〈予言:パウロは足を怪我してしまい、歩けそうにありません〉
〈予言:パウロはあなたの獰猛さにおそれおののきました〉

2d6 ベースロール (2D6) > 7
2d6 [特技B]【沈黙の策略】使用(ナンバー3、4) (2D6) > 3

 突如、イバラの蔦が蜘蛛を振り払い、パウロを縛っていた糸を断ち切りました。
「あ、れ……?今、わたし……わたし、じゃない…?」
 マンドラバラの疑似餌は、本体とは別の意志と人格を持ち、本体の枝葉も自分の手足のように操れる。…と思って居るのです。
 疑似餌は、身に覚えの無い能力の発動に戸惑いつつ、落ちそうになったパウロを抱き留めました。
そこへ、アラクネの疑似餌が姿を現し、二人に声を掛けてきます。
「匂う、匂うぞ。かぐわしい花蜜と、美味そうな子供の魂の匂いじゃ」

コリウスの疑似餌 : 「……な、なによ。これ以上パウロに何かするなら、私も、本気をだすからね!」
アラクネの疑似餌 : 「解せんな。さっさと喰ってしまえばいいものを。要らぬなら私によこせ」
コリウスの疑似餌 : 「ダメよ!誰がアンタなんかに喰わせるもんですか!」
アラクネの疑似餌 : 「人の子を飼って永遠の退屈を慰めるか…いや、貴様の場合、子でもなすのか。……くだらん。実にくだらん」
コリウスの疑似餌 : 「くだらなくて結構。ほら、あっちに行って。もう私たちを放っておいて」
アラクネの疑似餌 : 「ふん。まぁいい、お前と戦うには、もっと子を呼び集めねばな…」

 そう吐き捨てると、アラクネは森の暗がりへと去って行きました。
「今のは……ケダモノ、だよね。コリウスもケダモノみたいに言ってたけど、本当?」
 森の中に佇むパウロが、不安げな表情でコリウスを見ています。
 彼が目をこらすと、少女の姿をした疑似餌の背後に、コリウスの本体である巨大な人食い花が姿を現しました。
「……っ!」
「まって、逃げないで!……本当のことを言えなくてごめんなさい。騙すつもりはないの。私はただ、あなたと友達になりたかったの」
 驚いて身を引くパウロに、疑似餌の少女がとっさに手をつかみました。
 人食い花は、枝葉や蔓を器用に動かし、根を引きずって移動しているようです。
 

コリウスの疑似餌 : 「……この先、また命を狙われるかもしれない。もし、もう帰るなら、あの崩れた聖堂まで送っていくわ…」
パウロ : 「ううん、いけるところまで言ってみたい。――……でも、その前に少し休憩しよう。はぁ…すこし、疲れちゃって。それに、おなかもすいた……」

 パウロは見た目以上に消耗しているようで、隣の疑似餌に寄りかかりました。
 ――ぽつりぽつりと雨が降り始めています。
 空を見上げると、雲海があたりを覆っています。遠くからは、雷の轟きまで。
 もう少し歩けば、ケダモノの住処があります。そこまで行けば安全に休息できるでしょう。

コリウスの疑似餌 : 「大丈夫?近くに私の住処があるから、そこまでは行こう。歩ける?」
パウロ : 「う、うん…」

 雲が出てきたせいか、日が一気に陰った様に感じました。冷たい雨の中、一人と一匹は、ケダモノの住処を目指して歩きます。

◆場面3 あらしのなかで
概要:ケダモノがパウロの病気に気づく
場所:ケダモノの住処(樹上都市の廃墟)

 住処につく頃には、激しい嵐が訪れていました。
 コリウスの住処は、人が住まなくなって久しい樹上都市。木の上に残された住居を、自らの枝葉で補強し、強度を保っています。
 パウロはふらふらと、簡素なベッドへ横になります。
 彼の顔は熱っぽく、なにか尋ねても、うわ言のような答えしかかえってきません。
 人の身体にうといケダモノにも、彼の様子がおかしいことがわかります。

●試練:パウロの手当をする : 権能:【慈愛】
難度:1
▼波乱予言
〈予言:あなたの治療は、重い副作用を引き起こしました〉
〈予言:あなたは人間をちっとも理解していませんでした〉
〈予言:パウロの利き腕が麻痺しました〉

2d6 ベースロール (2D6) > 11
特技・権能:未使用 波乱:なし

 パウロの様子は、単に長旅の疲れが出た訳ではないようです。
 身体は病にむしばまれ、刻一刻と弱っていきます。

 コリウスは疑似餌を上手く扱い、かいがいしくパウロの世話をしました。魔法の花弁でくるんでやり、朝露を集めた水を飲ませてやりました。
 その甲斐あって、パウロは少し回復し、しっかり話が出来るようになります。しかし、すっかり元通り、とは行かないようです。
「……僕の町に降り注いだ爆弾には、毒があったんだ。家族も友達も家も学校も、僕がこのスケッチブックに描いたものはみんななくなっちゃった。僕の身体、お医者様にもどうしようもないんだって」
 パウロは咳き込みながら、ぽつりぽつりと話しました。
「そっか。だから最期にあの絵が見たかったの?」
「……うん」
 疑似餌の少女はベッド脇に座り、パウロの頭を撫でました。

コリウスの疑似餌 : 「…じゃあ、私も秘密を教えてあげるね」
パウロ : 「え、コリウスの秘密って、ケダモノってことじゃないの?」
コリウスの疑似餌 : 「ふふ、女の子は男の子の倍、秘密があるんだよ」

 疑似餌は、形の良い唇を、パウロの耳元に寄せて、
「実はね、私は特殊な疑似餌なんだ。この身体の中には、魔法の花蜜が詰まってる。純粋な心で愛し愛された人にとっては万病の薬に、汚く騙し欺く人にとっては瞬時に死に至る劇薬になるんだよ」
「それって…」

コリウスの疑似餌 : 「どちらにせよ、肌を割かないと取り出せないから、疑似餌の私は枯れてしまうんだけどね。――試してみる?」
パウロ : 「……やめておくよ。僕の病がここで治っても、コリウスが居ないと、聖堂の天井画まで一人ではたどり着けないから。…それに、せっかく出来た友達を失いたくない」

「僕の肉なんて、おいしくないかもしれない。でも、あの絵が見られたら、僕は君に食べられてもいいよ……」
 半分譫言のようにそういって、パウロはもう一度目を閉じました。

シナリオ予言〈予言:天井画を見上げながら、パウロは息絶えました〉

「…………だめよ。まだ絵を見せてもらってないじゃない…」
 ベッド脇に座り込んだコリウスの疑似餌は、聞こえないほど小さくつぶやいた。
 しばらくすると、嵐は嘘のようにぴたりと収まりました。
 その頃には、パウロもすっかり元気を取り戻し、先を急ごう、とコリウスをせかすほどです。
 二人は一路、”夢の流れ着く岸辺”へと旅を再開しました。

◆場面4 外つ川の氾濫
概要:氾濫した川を渡る
場所:ウロボロスの流れ・外つ川支流

 ふたたび出発したあなたたちは、思わぬ障害に行き当たりました。
 通り道をふさぐように、轟々と音をたてて川の水が横切っているのです。
 おそらく嵐で、“闇の森”を巡る外つ川が氾濫したのでしょう。
 ここを渡らねば、海岸にはたどり着けません。
 パウロの身体には、時間がないのです……。

パウロ : 「これは、泳いでは渡れないね……」
コリウスの疑似餌 : 「……うーん…。もう私の正体はばれてしまっているのよね。変に人間のフリをしているならまだしも、ケダモノとしての力を使っても良いなら、これぐらいは簡単に渡れると思う」
パウロ : 「ほんとう?」
コリウスの疑似餌 : 「もちろん。あなたをつれて向こう岸に渡ってみせるわ」

●試練:川を渡る : 権能:【狡猾】【叡智】
難度:1
▼波乱予言
〈予言:あなたはパウロとはぐれ、肝心なときに一緒にいませんでした〉
〈予言:川の冷たさに、パウロは凍えてしまいました〉
〈予言:パウロは書き溜めたスケッチブックをなくしてしまいました〉

2d6 ベースロール (2D6) > 10
特技:未使用 波乱:なし

 疑似餌が手をかざすと、しゅるしゅると本体から蔓がのび、川にしっかりとした橋をくみ上げました。

パウロ : 「わぁ、すごい……!」
コリウスの疑似餌 : 「足下に気をつけてね」

 コリウスの疑似餌は、パウロの手を取り、蔓橋を渡っていきます。
「ねぇ、コリウス。聖堂に着いたら、僕の絵を見せてあげる。いつか見せるって、約束をしたから」
「嬉しい!楽しみね」
 川を渡りきる頃には、日が落ちかけています。
 しかし、目的地”夢が流れ着く岸辺”まではあと少し――。

◆場面5 夢が流れ着く岸辺
概要:聖堂を探す
場所:夢が流れ着く岸辺

 あなたたちが“夢が流れ着く岸辺”にたどり着く頃には、夜空に満月がのぼっています。
 広大な砂浜には、無人の街が広がっていました。ひとつひとつの建物は見事なものですが、時代も文化もバラバラ。これまで世界に産まれ、死んでいった人々の夢が織りなした、奇妙なオブジェ。
 このどこかで聖堂を見たはず。しかし海岸はあまりに広大です。

「ここが、”夢が流れ着く岸辺”。私はここであの絵を見たと思うの。あの崩れた廃墟と同じ聖堂を探さなきゃ…」
「うん。まだ時間はあるはず、一緒に探そう!」
 そのとき背後の森から、無数の影が迫ってきました。
 森中から集められたアラクネの子供たちです。
 まだパウロのことをあきらめていなかったのです!
 あなたはパウロを運びながら聖堂を探しはじめました。

●試練:追手をかわし、聖堂を探す : 権能:すべて
難度:2
▼波乱予言
〈予言:あなたはもう人を好きにならないと決めました〉
〈予言:蜘蛛たちがすべてを食べつくしました〉
〈予言:スケッチブックに描かれたものが、現実にあらわれました〉
〈予言:パウロはもう目が見えませんでした〉

2d6 ベースロール (2D6) > 10
特技・権能:未使用
達成+1
2d6 ベースロール (2D6) > 9
特技:【イバラのつる】使用 ダイス+1
1d6 [特技C]使用(ナンバー1、2) (1D6) > 4 計13
達成+1 達成合計2 波乱:なし
特技予言<トゲが守りたい物を傷つけました>獲得

 コリウスはとっさに、イバラのつるを振るい蜘蛛たちを追い払おうとしました。しかし、大きくしなった蔓は、パウロまで巻き込み怪我をさせてしまったのです。
「あいたっ…!」
「あ、ああっ!だいじょうぶ?ごめんね?」
 疑似餌の少女は慌てて駆け寄ります。
 かすり傷ですが、パウロの腕からは少し血が滲んでいます。
「…だ、大丈夫。これぐらい、なんてことないよ。少し、痛いけど」
 疑似餌は、傷の様子を見て、自分のドレスの裾を紐状に破き、包帯のように巻き付けました。
 マンドラバラが疑似餌に着せているドレスは、魔力が浸透した花弁そのもの。きっと傷の治りも早くなるはず。

 本体の蔓が蜘蛛の群れを蹴散らし、ほとんどを追い払うころ、二人はようやく聖堂を見つけました。
「……ここだ。同じ建物だよ。まだ扉もついてるし、天井だってある」
「うん。……不思議な感じ。僕、あの天井画を見られるんだね。今、すごくドキドキしてる…」
 いよいよ疑似餌の少女とパウロは、手を繋いで聖堂の扉を開けました。

◆場面6 月光の天井画
概要:パウロと供に天井画を見る
場所:もう一つの聖堂

 聖堂の中は、幻想的な景色が広がっていました。
 ステンドグラスから、煌々と月明かりが差し込み、美しい天井画はより一層きらきらと輝いて見えます。
「……綺麗、だなぁ」
 パウロは、感嘆の声とともに、苦しそうに息を吐いて、長椅子に座りました。
「すごい……すごいな本当に…。これが、リュミエールが描いた天国なんだ」
 パウロの隣に座ると、彼がどんどん衰弱していくのが分かりました。
「……そうだね、ほんとうに綺麗だね」
「あ、そうだ。……コリウス」
 パウロは、弱々しい手つきでスケッチブックを取り出すと、疑似餌の少女二差し出しました。
「約束したから…ぼくの絵を見せるって……」
「っ……いや、いやよ…死んだらいや」
 コリウスの疑似餌は、スケッチブックを受け取りはしたが、その瞳にはいつしか大粒の涙がたたえられていました。
 長椅子に横たわるように天井を見上げて、
「いつか僕も、こんな絵を……書いてみたかったな」
 パウロのその言葉を最期に、聖堂はしんと静かになりました。
「…………パウロ?……パウロ!?」
 返事はありませんでした。
 ゆすり起こそうとしても、反応がありません。
「お、起きて…目を覚まして……っ」

泣きすがったところで、静かな友達は再び目を開けることはありませんでした。
「――……魔法の花蜜。そうだ、まだ間に合うかもしれないっ…!」
 コリウスの疑似餌は、聖堂の壁に飾られた剣を引き抜くと、迷い無く自らの胸を刺し貫きました。
 そして――。

――十年後――

 コリウスとパウロが初めて出会った廃墟で、一人の青年があの時と同じように、からりと晴れた空を見上げ、佇んでいました。
 栗色のくせっ毛と、大切に抱えたスケッチブックもあの時のまま。
 マンドラバラの花蜜を口にしたパウロは、病から解放され健やかに成長していたのです。
「……来月から、とっても遠くの国へ、絵の勉強をしにいくんだ。だから、ここに来るのは最期になるかも知れない」
 誰かに語りかけるように言って、朽ち果てた聖堂の長椅子に、スケッチブックを起きました。
「機会があったら、また来るよ」
 青年は静かに去って行き、後には静寂だけが残されています。

 その光景を離れた森の暗がりから眺める、ケダモノが二匹。
 人食い花と、ドラゴンのケダモノが息を潜めていました。

ニーズヘッグ : 「会ってやらないのか、友達なのだろう?」
コリウス : 「……昔、疑似餌が気に入っていただけだ。成長したらもっと食いでがあるかと思っていたけど、あれでは全然ダメだ。ひょろひょろで、雑草の養分にもならない」

 コリウスは言いながら、彼がおいていったスケッチブックを、蔓を使って器用に拾い上げました。
「それに…疑似餌の姿であったところで、彼と会った個体とは、全くの別物……あの疑似餌は、彼のせいで枯れてしまった」
「ははは!食べる機会なら、沢山あっただろうに。それを逃し、疑似餌の好きにさせたのはお前だろう。――要らないのなら、俺が食べてしまおうか!」

 

スケッチブックを開くと、そこには美しい少女のラフスケッチが何枚も描かれています。
「……………意地悪なことを言うな。花の私が、花を愛でてもいいじゃないか。たった八十年かそこらのことだろう」
 コリウスには、その絵の美しさがまるで分かりません。
 それでも、そのスケッチブックがぼろぼろになるまで、宝物のように大切に扱いました。
 心の隅では自分でも分かっていたのです。彼のことが好きだったのだと。しかし、彼女がそのことを口にすることは、二度とありませんでした。

 そこからさらに、五百年の後。
 ”夢の流れ着く岸辺”にて、一枚の絵画が流れ着きました。
 それは、美しい少女が花束を抱えている絵でタイトルは『遙か遠き想い人』。作者の名前は――――。
めでたし、めでたし…。

ケダモノオペラ『少年と絵』あるいは『とあるケダモノの何度目かの初恋』 終了

ココフォリアスクリーンショットについて
疑似餌立ち絵「五百式全身メーカー」https://picrew.me/image_maker/1744829
他、NPC立ち絵やマーカーなど、公式サイト様から。

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