The Battle of Chinese Farm:October 15-19,1973
Battle system in “SUEZ’73”

https://boardgamegeek.com/boardgame/11452/suez-73
画像は皆様もご存知のゲーム紹介サイト「Board Game Geek」からお借りしたSUEZ’73の紹介ページです。
プレイヤー2人用のウォーゲームでプレイ時間は8時間。これは恐らくキャンペーンシナリオのプレイ所要時間でしょう。対象年齢が16歳以上、ルール理解度だけで言えば中学生でも行けると私は思いますが…このゲームをプレイされた方の感想が知りたいものです。ゲームの重さは…勿論この重さは重量ではなくゲームの「複雑さ」を表すもので、「難易度」とも呼ばれます。今風に言えば「重ゲー度」とでも表現すれば良いでしょうか。この辺りはこのブログをお読みの皆様方には釈迦に説法、逆に説明のし過ぎは失礼となりますね。5点表記で3.09点…この評価点には少々反論あり、と言えます。下記の理由により、かなり軽めの評価には思えます。
ルール自体はそれほどの難しいものではありません。しかしながら煩雑な処理が多いためマップ上は雑然としがちです。この多大な処理を必要とするために対象年齢が16歳以上されたのかもしれませんね。ただし、その処理作業を乗り越えると見える景色が一変するゲームです。イスラエル軍のスエズ運河西岸への渡河作戦に端を発し、東岸に拠点を築いていたエジプト軍2個師団(第16歩兵師団・第21装甲師団)は補給線が寸断される危機を迎えます。さらには西岸を侵食してゆく強力なイスラエル軍装甲大隊に対し練度は低いが数的有利による消耗戦に持ち込もうとするエジプト軍との駆け引きが、マップ上に所狭しと展開される非常にエキサイティングなゲームへと変貌してゆきます。ゲーム全体を俯瞰できる指揮官(数個師団を操る軍団長(将官級))から敵部隊への射撃に関するルールが非常に自由度が高いがゆえに大隊長(左官級)の戦術的判断も強く求められる為、ゲームを俯瞰する高低度がかなり広く、一定以上の知力への負担が強く求められるゲームでもあります。この点が3.09点では軽い、という理由です。
もっとも、私の知力が弱いゆえに、この意見になってしまったのかもしれませんが。(笑)
独り善がりな考察ではありますが、お暇なときの時間つぶしにでもご利用下されは幸いです。
” 審神者 “ / A saniwa named “CRT”
さて、今章と次章ではユニットの能力差について考察を行う予定です。と簡単に言いましてもユニット同士をただ単純に比較してもあまり意味をもった解析まで至るとは思えません。そこでユニットの解説の前に「CRT」というウォーゲームの審神者に登場してもらうことといたします。ゲームで使用する地形影響表、移動コスト表、射程距離や高度などの数値は、縮尺や抽象化された物理的換算数値と呼べるもので、その数値を表示するチャート類はゲームの史実再現性における厳格な審神者でもあると言えるでしょう。
その影響は遍くマップ全域に影響を及ぼします。中でも「CRT」は最も頻繁に目を通すゲーム内の見慣れた審神者です。戦闘に必ず介在するCRTはウォーゲームの代名詞とも言える存在です。
それでは始めましょう。CRTの考察からどうぞご覧ください。
*「CRT」、戦闘結果表=Combat Result Tableの略称
では、まずは表の説明と使用している用語の定義からまいりましょう。
「火力値」(横軸):攻撃時の合計火力(Firing Value*黒塗りに緑字)。
「決定値」(縦軸):基低値とDice Numberの合計値。(Die Roll*黒塗りに黄色字)
*基底値「敵味方双方の地形・練度等の修正値を加減させ導き出した値」 / *Dice Number「プレイに使用する1D6から振り出された値」
「結果値」(表内数値):表内のセル(カラーリングされた数値。)
*結果値「被攻撃ユニットのダメージ数を表す。敵戦力-結果値=戦闘後の敵戦力」

Part1.Vertical axis
このCRTの特長的な点はDie Roll(横軸)の決定値が1~17と17項も枠があるのに、使用するダイスは六面体ダイス一つであることでしょう。
地形影響など様々な修正値を加減し算出した基低値に加算される偶然性が「1D6」による1~6の数値です。見た目は複雑に見える表に反して6種類の変化しか生じない「至って変化の乏しい偶然性」のみを利用したシンプルなCRTであるわけです。
加えて、表内の結果値を眺めて下さればお分かりかと思いますが、結果値の流れも非常にシンプルです。同数の二列並び・二行並びの形で数値が左から右へ「1」づつ増えて行くのみ。加えてファイアパワー方式でもあり、攻撃時に敵ユニットに与える結果値も予測しやすい表である、と言えるでしょう。
Part2.Horizontal axis
次は、横軸のFiring ValueからCRTを眺めてゆくとしましょう。
横軸は最低火力値の「5」から最大火力値「170」までの21列に分けられて結果値を示しています。結果値は一定の増加率を維持しながら右端に移行してゆきます。

特筆すべき点は無いように思えます。強いて挙げるならば、5~40の列間は火力「5」の単位で次列へ移行(赤枠内)していますが、40~170の列間は火力「10」の単位での移行(緑枠内)となっている点でしょうか。火力が増加するごとに結果値も比例しながら増えて行きます。結果値の増加頻度だけを取り上げれば、40~170区間よりも、火力「5」の加算で火力列移行が可能な5~40区間がより火力追加の効率が良い、と言えるのではないでしょうか。
Part3.Cross Points
結果値の算出方法は、攻防それぞれのユニットによる諸々の修正値の加減により算出した基低値に「1D6」のDice Numberを加算する単純なシステムなのですが、ゲームにおいては基低値を求めるまでの処理が最も煩雑でもあります。修正値算出の詳細をここで語るつもりはありませんが、このCRTの特徴を知る手がかりとして、横軸のFiring Value毎に平均被損率を導き出してみるのも悪い考えでは無いのではないか、と私は愚行しました。
例として、火力値(横軸)「5」・基底値算出の結果が「0」場合を考えてみましょう。彼我の有利不利が無くなる地点、つまり縦軸「0」地点から「1D6」のDice Numberを加え導き出された結果値はDie Roll(縦軸)1~6の範囲に収まります。左図・赤枠内
決定値(縦軸)「1」ならば被攻撃ユニットは結果値「4」の打撃を被りますし同様に決定値(縦軸)「6」なら結果値は「1」になります。
その平均結果値は「2.5」と算出され、基底値「0」・Firing Value「5」の射撃は”被攻撃ユニットに平均「2.5」の損害を与える、と想定できます。(決定値毎の結果値を全て加算して6で除算)
そして、この処理を火力値(横軸)ごとに繰り返し、算出した結果が下記表となります。

CRTの結果値の上限が「10」のため、火力値「110」を超えると数値が多少歪な値になりますが、5~100の火力値は「0.5」単位で結果値が上昇しています。
射撃に際し、この平均結果値(条件・基底値「0」)は参考値として事前に考慮の対象となると考えます。
Part4.Average result chart
オリジナルのCRTに対応するよう基低値1~16(横軸)にそれぞれの平均結果値を表したのが下記の表となります。
捻りも何もありませんが、そのまま「平均結果値早見表」とでも呼べばよろしいでしょうか。

この早見表を作成した本来の理由は、CRTの解析の他に「1D6」の持つ偶然性を極力排除した数表を求めたい、との気持ちがありました。もっとも計算に長けたプレイヤーならば、このような表に頼らずとも暗算でもこの平均決定値を導くことは容易いことでしょう。私はSUEZ’73の最大の弱点は「処理作業の多さにより本来プレイヤーが楽しむべき戦略的・戦術的思考が妨げられてしまうこと」であると思っています。噴飯物の産物であまりプレイヤーのお役に立つとはあまり思えませんが、なにかのおりにお役に立てればなによりです。最後に改めてお伝えしておきますが、この表の横軸の値はあくまでも「基底値」であり、Dice Numberが基底値に上積みされて結果値が算出されることにご留意下さい。
Ability Value Considerations / In the Case of Mechanized Infantry
今回、ユニットの能力表示にレーダーチャートを使用することにしました。
理由は、個々のユニットの持つ指数の多さにあります。恐らく動員数を基準にしたであろう「初期戦力」(ユニット表)と練度そして兵装(標準装備兵や特殊兵装)による8種もの指数、移動手段や名称などを含めると12種もの情報がユニットに記されている為です。チャートには初期戦力を除く指数の7種を表示しています。初期戦力=動員数と考えていますので、各部隊の個性を切り取れないと判断し、チャートには反映させていません。
まずは下記のレーダーチャートをご覧ください。チャート左肩の青いぼかしがイスラエル軍(以降「イ軍」と表示)・赤いぼかしがエジプト軍(以降「エ軍」と表示)を色により国を識別しています。個々部隊の初期戦力は載せてはいません。あくまでも装備と練度という能力値を優先して表示しています。
両軍ともに一般的な機械化歩兵のチャートを表示しています。機械化歩兵は二面性を持つ便利な兵種です。通常はAFVユニットとして戦車ユニットと同等に近い足を持っていますが、”兵員輸送車から降車”し一般的な歩兵部隊にその形態を変更も可能です。状況に応じ兵種の切り替えを行える使い勝手が良い兵種です。
この両部隊が接敵し交戦状態に入ると仮定すると双方の平均結果値はどのような値をしめすでしょうか。
条件は高度差無し、地形修正も無し、射程「1」(接敵状態)の戦闘は以下の指数の加減を行い、その基底値に「1D6]を加え、決定値を算出します。
イスラエル軍・基底値 = エジプト(戦闘練度「6」+防御力「2」)ー イスラエル戦闘練度「8」=「0」
エジプト軍・基底値 = イスラエル(戦闘練度「8」+防御力「2」)ー エジプト戦闘練度「6」=「2」

早見表に該当箇所を枠で囲みました。緑枠がイ軍攻撃時の基底値で、赤枠がエ軍攻撃時の基底値になります。
FiringValue(横軸)の値に関係無く双方の平均結果値は差が「1.0」となっているのがお分かりなると思います(FiringValue「110」以降は表の終端処理のため数値の歪が生じています)。これは両軍の標準的な機械化部隊において「地形等の影響が無く、同等の火力での戦闘ではエジプト軍の損害は、イスラエル軍よりも平均して「1.0」程度増加する」ことを意味しています。継続しての殴り合いはエ軍機械化歩兵が先が不利である事。そしてそれはゲームに於いて、基底値「2」の差をエ軍は埋める工夫が必要でもあります。ですが、このままではイスラエル軍ばかりが優秀な装備を運用している錯覚に陥ってしまうでしょう。少々エジプト軍にも良い話をして締めくくるとしましょう。
実際の戦争ではかなりのイスラエル軍兵員輸送車や装甲車両が撃破された、とあります。優秀な戦車を駆り荒野を蹂躙する起動戦にイスラエル軍はエジプト軍より長けていたことは間違いないでしょう。しかしエジプト軍も無策ではありません。対戦車装備においてイスラエル軍を出し抜く「9M14 マリュートカに代表する歩兵携行用ミサイル」のような準備があったことを忘れてはいけません。ゲームデザイナーは明確にその特徴をユニットの指数に反映させているようです。
先ほどの戦闘シミュレーションでは「対戦車力(1H)」の指数を使用した射撃戦をサンプルにしましたが、距離のある射撃戦(2へクスの距離での戦闘)で同様の結果が出るのでしょうか。これはもうチャートをご覧いただくと一目瞭然です。2へクス離れた場合は「対戦車力(2H)」の指数を使用します。エジプト軍は「対戦車力(2H)」=「1」、対してイスラエル軍は「対戦車力(2H)」=「0」。指数が「0」とは、その距離において対応可能な装備を持ち合わせていない、ことを意味します。つまり2へクス距離を置いた状態ではイスラエル軍機械化歩兵はエジプト軍機械化歩兵を攻撃不可になるということです。一方エジプト軍は反撃の心配無しにイスラエル軍機械化歩兵に対し存分に射撃を行うことが可能になります。この展開になると平均結果値などまるで無意味です。
さらに言えば、兵員輸送車(装甲戦闘車と言い換えた方が良いのでしょうか?)から降車し純然たる歩兵に立ち返ると、特徴や良し悪しがガラリと変わります。陣地による防御力を効果的に利用できたりする半面、爆撃や長距離の通常射撃にさらされたりすることもあるでしょう。
指数が尽きました。今回はこのあたりで締めると致します。
最後までお付き合い下さり、有難う御座います。
次章では、上記で軽く説明をしました機械化歩兵のように兵種ごとの特徴や弱点などを平均結果値早見表を利用し追ってゆくことに致します。