空飛ぶニーズヘッグ「ケダモノオペラ」

 むかしむかし、青空を人が飛ぶなど、夢のまた夢だったころ。
 とある国の科学者が、王様の前で木の模型の”ヒコウキ”を飛ばして言いました。
「もう1000年もしないうちに、人が空を飛ぶ時代が訪れるでしょう。研究費用をお約束いただければ、我々の国が1番に空を飛ぶことも夢ではありません」
 王様も大臣も、面白い冗談だと思ったので、涙が出るほど笑いました。
 王様は言いました。
「その話が本当ならば、3日目の日没までに、この国を少しでも浮かせて見せよ。さすればそれを証としよう」

 困り果てた科学者は、闇の森に住むドラゴンに助けを求めることにしました。模型”ヒコウキ”の雛形は、ドラゴンが空を飛ぶ姿にヒントを得たので、適任だと思ったのです。
「王国を飛ばしたなら、何をくれる?」
 暗い森にうっそりと横たわる巨大なドラゴンは、当然のように見返りを求めました。
「もちろん、”全て”を。人が空を飛び、より広い世界を旅することこそ、私の夢なのです」
 科学者の言葉を聞くと、ケダモノは二っと笑ったきり、もう何も言いませんでした。

 王様と約束をした3日目の日没。
 科学者は、日が沈んでいくのを見て、思いました。
 あぁ、きっとあのケダモノに騙されたのだ。
 肩を落としてため息をついた、その時。
 ぐらぐらと大きな地響きが起きたかと思うと、地面が傾き始めました。

 巨大なドラゴンが、国の地盤ごと”全て”を丸呑みしたのです。
 王様も、民も、科学者さえ、何も分からぬまま、ケダモノの腹の中へ落ちてゆきます。
 血を浸したような真っ赤な夕の空を、大きなドラゴンが飛んでゆきます。
 王様の言う通り、王国は見事に空を飛んだのでした。

 いつしかそのドラゴンは、空中移動都市に住む、と言われるようになりました。
 その王都には、人は1人も住んでいません。しかし、かつて王や民達が夢見たような、栄華を極めた豪奢な大都市です。
 王城の玉座に、疑似餌と共に坐すそのドラゴンは、かつての王国の名を頂き『ニーズヘッグ』と呼ばれるようになりました。

おしまい。

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