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PANZER BATTLES 考察4 最終回 / Auftragstaktik

委任戦術 / mobile defense & Road March and Barrage

難易度とは?

 私たちは一般にゲームの難易度を測る場合、ルールの複雑さの程度を難易度と評す事が多いですね。覚えやすい簡単なルールは難易度が低く、覚える項目が多く 複雑な手順を必要とするルールは難易度が高い、と評することが一般的だと小生は考えます。ではボードゲームの王道とも言える将棋やチェスの難易度はいかほどでしょうか。どのくらいなのでしょう。将棋は8種類ほどの駒の移動方法を覚え、あとは交互に一手づつ指して行くだけ……ルール的にはそれほどの難易度ではありません。ありませんが、将棋にはプロの世界が存在します。幼い頃からルールを覚え定石を覚えた一握りの天才たちがその優秀な頭脳をフル回転させながら将棋を突き詰めようとしています。ルールは難しくなくとも、天才たちが数百年に亘り一つのゲームの最適解を求め盤の前で のたうち回る姿は狂気そのものです。そして、そうまでしてさえも未だにゴールにたどり着いた天才は一人もいない……果たして、この将棋というゲームの難易度は高くない、と言えるのでしょうか? 

 感謝と謝辞。このブログ記事は小生程度の理解の範疇での分析であり、ゲーム熟練者・及び先達の方々には噴飯物のブログ記事ではあると思いますが、ウォーゲームの一つの楽しみ方として 笑ってお許し下さればと願っております。尚、考察記事を書くにあたり「PANZER BATTLES」の日本販売・及び日本語訳ルールブックの提供元であるサンセットゲームズ様にグラフィックアート掲載の許諾を頂く等のご協力を賜っております。

中央西部「State Farm79」戦域

ソ連軍「第1戦車軍団 ・第5機械化軍団」

 主役たちの登場です。独軍戦線を突破したソ連軍 第一戦車軍団は無人の野を行くかの如く南下、State Farm79 に殺到します。しかしながら他戦域のソ連軍部隊と機動力が違いすぎるが故に足並みが揃わず、敵中深くにて孤軍となってしまいます……ソ連軍はゲーム開始直後から少々厄介な状況を迎える事になるのです。

 全戦域で攻勢を開始したソ連軍は、戦線中央に生じた綻びから第一戦車軍団が突破を図ります。

 史実では、1942年12月6日から7日にかけ第一戦車軍団はState Farm79(黄丸D)まで突出。8日明朝に独軍 第11装甲師団の反撃が開始……。

 上記の状況は第一ターンの展開に相当します。ゲーム視点から眺めるとソ連軍第一戦車軍団の突出は愚策のように小生には映ります。

 何故ならState Farm79(黄丸D)までの突出に対し、北北西戦域と東南戦域の部隊は足の速い第一戦車軍団をサポート出来ず戦線は分断、登場早々から彼らは孤軍となってしまうからです。両サイドからのバックアップを得られない第一戦車軍団は高い機動力を備えた独軍装甲師団の展開力の前に瞬く間に包囲・殲滅の憂き目に遭います。

 かくして State Farm79に到達した第一戦車軍団はこのゲームのもう一つの主役である独軍 第11装甲師団の登場に花を添える華々しい敗北を迎える事となります。

 この展開を意図してソ連軍プレイヤーが望むのなら、ソ連軍 第一戦車軍団と独軍 第11装甲師団の損害の比率が焦点になって行くと考えられます。第一戦車軍団の壊滅の代償として 可能な限り第11装甲師団に損害を与え、その後の機動防禦に影響を与えたい、と望む訳です。では実際にどの程度の戦力差があり、第11装甲師団の被損値はどの程度なのかを両軍の戦闘序列を通じて見て行きたいと思います。

ソ連軍 第一戦車軍団。
第五機械化軍団(登場4ターン以降)。
独軍 第11装甲師団。

  ソ連軍 第一戦車軍団は初期配置からOstrovsky(黄丸C)の南部に展開しており、State Farm79(黄丸D)に向け南下する気配が濃厚に漂う布陣となっています。

ソ連軍・第一戦車軍団(初期配置から登場)

ユニット数13個(基本単位は大隊)。総攻撃値53・総防禦値58。

所属砲兵は大隊級一個、(制圧率50%、KR成功率8.33%)。

総ステップ数26

ソ連軍・第五機械化軍団(4ターン以降に登場、但し条件有り)

ユニット数17個(基本単位は大隊)。総攻撃値64・総防禦値85。

所属砲兵は大隊級一個、(制圧率50%、KR成功率8.33%)。

総ステップ数35

*砲兵に関する数値、「制圧率」「KR成功率」は期待成功率 若しくは期待成功値を表示しています。100%を超えると「一つの制圧が成功しても良い」数値(期待成功確率)です。300%は3回の砲撃地点の制圧成功を見込める数値という意味です。

 総ステップ数について補足致します。中央西部「State Farm79」戦域に登場するソ連軍「第一戦車軍団/第五機械化軍団」と独軍 第11装甲師団には一定の条件下での盤外突破によりVPを得る事が可能です。10ステップ単位のユニット=1VPに換算されるので、ダメージコントロールがとても大事な部隊と言えます。機械化部隊は高いコストと引き換えに高火力を有する部隊です。チル川戦域外へ部隊転進が可能な状態は東部戦線全域にとって喜ぶべきことです。

 第一戦車軍団・第五機械化軍団共にの特徴(弱点とも言えます。)としては編成規模の割には所属砲兵がそれぞれ一個大隊しか存在しない点です(技術的問題や、兵站の関係で機動力を持つ砲兵数が限られているのでしょうか)。

 ソ連軍 師団所属砲兵の平均制圧率 約166%に比べて軍団規模で砲兵制圧率が50%とはいかにも頼りなげな数値です。この弱点はこのこの戦域にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 では独軍 第11装甲師団を見て行きましょう。

独軍・第11装甲師団

ユニット数27(中隊規模)。総攻撃値106。総防御値118。

所属砲兵は11部隊(大隊4・中隊7)(制圧率550%、KR成功率166.67%)。

総ステップ数67

 「PBS」に登場する部隊(規模不問)最大の攻撃値を持つ独軍の主力は師団規模でありながらソ連軍・機械化2個軍団の各数値を合算したものとほぼ同等に近くデザインされています。戦力規模が明確に違うのに戦力値がここまで拮抗しているデザインには小生も少々違和感を拭えませんが……史実に則っているのであれば、否定は無意味かもしれません。プレイアビリティの向上には一役買っているのではないか、と思われます。

 ソ連軍の基本戦略は第11装甲師団の機動防禦の阻止。ソ連軍はチル川流域の全ての攻勢点の数的優位を維持すべく、序盤は第一戦車軍団が、後半は第五機械化軍団が独軍第11装甲師団の機動防禦を阻止を目論見ます。恐らくどのようにゲームが展開しようとも「機動防禦の阻止」、この展開がデフォルトの設定の様ですね。

 時間的余裕のない独逸軍。ゲーム開始早々からチル川全戦域の独軍守備隊から発せられる救援要請は悲鳴そのものです。各戦域の綻びを繕う為には第11装甲師団の応援が不可欠ですが、装甲師団には正面に第一戦車軍団という敵が立ちはだかります。正面の敵を早急に撃滅し中央西部戦域を安定させなければ、他戦域の応援などままなりません。装甲師団を分割し一部を各戦線に回す対応も考えられますが、数的優位のあるうちに全力で第1戦車軍団の壊滅を狙う手も魅力的です。いずれにせよ第11装甲師団の作戦失敗はチル川流域橋頭保からの独軍撤退とゲームの敗北に直結します。ゲーム後半は満身創痍の第11装甲師団にフレッシュな第5機械化軍団が背後から襲いかかる展開が待っています。千々に乱れる戦線を立て直し、独逸軍はチル川橋頭保を守りきらねばなりません。

  中央西部戦域は全戦域(北北西・東南・中央西部)中で最も流動的で破壊に満ちています。機動力のある機械化部隊同士が激突する戦域である為、「機動防禦」というモチーフが強く表れ易く、デザイナーの意思が随所に現れている戦域とも言えます。

 State Farm79に侵攻しないソ連軍。ソ連軍第一戦車軍団にはもう一つ選べる展開が用意されています。第一戦車軍団はState Farm79に無理な突出をせずに両サイドの戦域と足並みを揃えゆっくり攻勢をかけてゆくように引いて守る選択が可能です。この作戦により自軍部隊の戦力温存が、突出作戦よりも楽に行えるでしょう。

 この展開は独軍プレイヤーに焦りを生じさせます。ゲーム中盤以降に登場するソ連軍 第五機械化軍団と第一戦車軍団が無傷で纏まると独軍 第11装甲師団の戦力が拮抗してしまうからです。そもそもこの展開は独軍装甲師団のアドバンテージの半減が目的の半分を占める作戦であり、しかも第五機械化軍団は第11装甲師団の背後からマップ上に登場するのですから……ソ連軍にとっては良い事尽くめの展開を想定しやすい筈です。

 独軍プレイヤーは固く守る第一戦車軍団に攻勢に出ざるを得なくなります。ソ連軍機動部隊に損害を強いるか、若しくは中央西部には戦線維持部隊のみを残して各戦域に部隊を分散させ、とりあえず各地の火消しに奔走するか……難しい決断を迫られます。

 一点攻勢か、分散した部隊で各所の突破されそうな地点の火を消して回るか……いづれの展開を選ぼうとも、必ず行わなければいけない作戦行動が「PBS」の独軍プレイヤーには存在します。切り札である「砲兵部隊」の活用です。小生の愚考ですが、このポイントこそが「PBS」における Auftragstaktik すなわち委任戦術の模倣であり、シミュレーションなのかもしれない、と思うところです。

 次章では、西部中央戦域において砲兵による影響を数値によって追って行くこととします。

PANZER BATTLES / Design of Artillery suppression rate

今章で考察するのは、独軍 第11装甲師団の、恐らく絶対的優勢の理由、独軍装甲師団 所属砲兵についてです。

 戦闘序列の数値を詳細にご覧頂いた皆様はご理解頂けたと思いますが、独軍は戦場を制圧する強力な砲兵が多数存在します。先ほども述べましたがソ連軍 師団規模の所属砲兵の基本制圧率は約166%。対して独軍は師団単位の平均基本制圧率は544%と圧倒的と言える制圧力を保持しています。……圧倒的、とは表現しましたがいまひとつピンとこない数字ですよね。実際のところ砲兵はどの程度の影響を戦場に与えるのでしょうか。

制圧砲撃影響度

 「PBS」において砲兵の制圧砲撃による戦況への影響度を算出できないだろうか?と愚考しました。珍妙かもしれませんが……小生の与太話をお聞き下されば幸いです。

 まずは、影響度の基礎値を想定します。「PBS」のスタック制限は上限3ユニットまでですので、制圧地点1へクスの平均被制圧ユニット数を、スタック可能数1~3ユニットの中央値「2」として計算しました。

・期待成功値1(制圧率100%)毎に被制圧ユニット数「2」を積み上げてゆくことにより、算定地域の想定される被制圧ユニット数が求められる、という考え方を基礎に置きました。

 例として、独軍の総砲兵期待成功値(ターン換算)から見て行きます。総制圧率(期待成功率) 2700%=期待成功値27となり被制圧ユニット数 の想定平均値は54と算出されることとなります。

期待成功値「27」 X 基礎被制圧ユニット数「2」 = 54

 上記の視点をもとにして想定され得る制圧砲撃影響度を求めてゆけば、それなりに説得力のある数値に辿り付けるのではないでしょうか。

 ちなみに、ソ連軍ユニット数(ターン換算)は序盤(1~3t)194ユニット。中終盤(4~6t)245ユニットですので、このまま独軍の制圧砲撃影響度を求めると、

「1~3t」想定制圧影響度 ・ 被制圧ユニット 54 ÷ 総ユニット数 194 ≒ 28%

「4~6t」想定制圧影響度・  被制圧ユニット 54 ÷ 総ユニット数 245 ≒ 22%

1~3の各ターン約28%。第五機械化軍団登場後は約22%のソ連軍ユニットが独軍制圧砲撃により何等かの制約を被る、と想定出来ます。

 同様にして、ソ連軍の制圧砲撃影響度を算出してみます。詳細は省略して最終計算のみ表記します。

独軍被制圧ユニット数44.

被制圧ユニット 44 ÷ 総ユニット数 145 ≒ 30%

ソ連軍の砲撃影響度は30%台に上がっています。全戦域を俯瞰すると独軍のユニット数がソ連軍より少ない為、制圧砲撃の影響がやや大きく出ています。しかし、ソ連軍砲兵の配置状況は戦域別に見るとかなりの濃淡が生じており、両軍の攻防に微妙な影響を及ぼしていることが推察されます。この辺り、ゲームデザイナーの意図的な調整が垣間見えるような気がしますが、皆様にはどのように映るでしょうか。

 お話を中央西部戦域に戻しましょう。先の制圧砲撃影響度をこの戦域にのみ当てはめてみると非常に面白い数値が手に入ります。

中央西部戦域 / 制圧砲撃影響度

独軍・第11装甲師団/砲兵期待成功率1650%(ターン換算)

被制圧ユニット数32

 1~3ターン・ 被制圧ユニット 32 ÷ 1stTank「36」 ≒ 89%

4ターン以降・ 被制圧ユニット 32 ÷( 1stTank「36」+5thMech「51」)≒ 37%

 中央西部戦域の独軍装甲師団は機動力もさることながら、その砲撃のための弾薬量が桁違いの様です。第一戦車軍団に対し制圧砲撃影響度は89%……軍団の約9割が戦場で砲撃の制圧下にあり戦力が攻防値ともに半減すると想定し得る数値です。もっともこの数値の基礎は期待成功値を基準にしたものですから、数値の上下は当然想定されますが、感覚的にはより上方に偏向されやすい数値と思えます。

 第五機械化軍団登場後は制圧砲撃影響度は37%に下落して行きますが、それでもソ連機械化部隊・二個軍団の3割強が制圧砲撃の影響下であることを考えると、相当な砲撃力と言えます。

 それでは、中央西部戦域のソ連軍制圧砲撃影響度を算出します。

ソ連軍・第一戦車軍団 制圧期待成功率150%(ターン換算)= 被制圧ユニット数4

1~3ターン(被制圧ユニット数4)

4 ÷ 11thDiv「54」 ≒ 7%

ソ連軍・第一戦車 及び 第五機械化軍団 砲兵期待成功率 300%(ターン換算)

4ターン以降(被制圧ユニット数6)

6 ÷ 11thDiv「54」 ≒ 11%

 第一戦車軍団の被制圧ユニットを「4」としましたのは1~3ターンにおいて期待成功率150%と低く、その為、小数点第一位以下を切り捨てると被制圧ユニットは「2」、影響度4%という極低率になってしまう為です。もっとも被制圧ユニット数を「4」に持ち上げてもあまり変化はありませんでしたが(笑)。

 さて、この戦域は他の戦域と状況が逆転しています。ソ連軍の強力な機動部隊二個軍団は各軍団に一個大隊規模の砲兵支援しか与えられていないにも関わらず、独軍装甲師団との闘いに臨まなくてはならないのです。軍団長たちの悲鳴が聞こえてくるようです。序盤の砲兵支援は一個大隊のみ、制圧砲撃影響度は7%と微数に止まります。4ターン以降、ようやく第五機械化軍団登場となりますが、ここにおいても砲兵支援は追加で一個大隊の支援です。ソ連軍にとってこの戦域は砲兵支援が無い、と言い切って良いほどの影響度です。決して無視をしてはいけませんが、序盤の影響度7%程度では、独軍も敵砲兵の影響を考慮する必要すらないでしょう。

 対して独軍の砲兵支援による制圧砲撃影響度は89%とかなりの高率を示しています。デザイナーは中央西部戦域における両軍の機動部隊の激突に対し、ソ連軍第一戦車軍団が一方的に蹂躙される状況(戦史の通りなのでしょうが)を許容していると判断出来ます。

 軍団規模の戦車機動部隊とは言えど この強力な砲撃を受けてしまえば、戦力のほとんど(89%)が混乱状態(GD)に陥る可能性があります。GD(混乱)のペナルティ解除は活性化した部隊にのみ適用されますし、「GDマーカー除去セグメント」は活性化フェイズの最終段階の処理です。不遇なチットフェイズが続くと数フェイズの間は文字通り「何も出来ない」状況に見舞われます。勿論 砲撃には一定の条件が揃う必要があるので第一戦車軍団のユニット全てが砲撃されるような極端な結果がゲーム上に反映されることは少ないでしょう。ですが、ゲームシステムの一端を理解してしまうと、第一戦車軍団のState Farm79への無思慮な猛進はやはり立派な自殺行為である、と断定せざるを得ないのです。

 軽く触れるだけにとどめますが、他の戦域の独軍砲撃支援は、北北西戦域(第7野戦空軍師団) 10%、東南戦域(第336歩兵師団)15%と砲兵支援の影響度は低い数値に抑えられています。

 「PBS」に登場する軍団・師団の中で最も砲兵支援を厚く受けているのは独軍 第11装甲師団であり、ゲーム上に展開される機動防禦には、この手厚い砲兵支援が不可欠なのではないでしょうか。

   以前の考察記事で「戦況支配率」なる珍妙な概念を導入しました。これは双方の攻防値を合算し、攻撃値を主体に割りだした数値で、攻撃時の戦況に対する影響度を数値化した概念です。本来なら、ターン毎に援軍や退出等による戦力値増減の影響度を測る指数として考案したものです。今回は中央西部戦域に於いて対立する両軍の影響度を測る指数として取り上げてみました。変則的ではありますが、戦況支配率の応用例として参照頂ければ、と思います。

 上記三つのグラフは西部中央戦域の独軍 第11装甲師団とソ連軍機械化部隊との比較をグラフ化したものです。緑は独軍。赤はソ連軍を表しています。

 各グラフ左の棒グラフ「Base control ratio」とは砲兵を介さない実戦力のみの攻防値で算出した支配率であり、基礎的な支配率としてご参照下さい。グラフ右手の棒グラフ「Artillery effect」は制圧砲撃影響度を反映させた支配率の棒グラフです。

 順序が逆になりますが、支配率Cから解説を……。

  第五機械化軍団の登場する4ターン以降、数値的に支配率Cに似たゲーム展開ならばドイツ軍が不利な状況に追い込まれていることでしょう。Base control ratioでは支配率は微差ではありますがソ連軍が上回ってしまっています。

 「Artillery effect」ではまだ独軍優勢ではあるのですが、55.79%の支配率では、各戦域の火消し部隊を捻出する余裕があるとは考え難い処です。まして、砲兵の他戦域への転戦はこの比率を下げてしまいかねない危うい判断となる可能性が有ります。

 ソ連軍プレイヤーの立場からすると悪くない展開になっている、と感じるのではないでしょうか。戦況がコントロールし易く感じたならば、相応の損害は発生しているでしょうが、独軍装甲師団にも同等の損害が発生していることの証左でもあります。

 支配率B……ですが、このグラフに関しては特筆すべき処はあまりありません。弱体化した第一戦車軍団をフォローすべく投入される感の強い第五機械化軍団ですが、このグラフには反映されない膨大な位置エネルギーを持った機械化軍団です。なにしろマップ西端、しかもチル川の南岸から独軍装甲師団の背後を狙うように登場します。第一戦車軍団との闘いで疲弊した独軍第11装甲師団は混戦へと巻き込まれて行くのです。

 支配率A……ソ連軍 第一戦車軍団のState Farm79への侵攻は諦めるべきではないでしょうか。このグラフを眺めると小生には必ずその考えが頭を過ります。それほどに第11装甲師団への正面からの攻撃は無謀です。実戦力だけで算出した支配率(Base control ratio)でさえ30%強しか戦況をコントロール不可能な上に、砲兵支援はほぼ皆無。しかも独軍の砲兵は雨あられと砲弾をソ連軍に降り注いでくる状態です。両部隊の砲兵力の差は大きく、如実にArtillery effect にその数値差が反映されています。支配率は20%まで下がり、独軍の支配率は76%強まで高まる……中央西部戦域でソ連軍プレイヤーの主張を通す行動はほぼ不可能でしょう。

 Base control ratioの支配率は約65%。中央西部戦域の主役はドイツ軍プレイヤーと言い切って良いほどの比率を示しています。この高い比率は独軍をして やりたい放題なボーナスタイムを演出することになりますが、それも序盤の僅かな時間のみ。全戦域で悲鳴を上げる独軍を助ける為、第11装甲師団は兵力の分散を求められ、相対的に個々の戦力の弱体化を歯噛みしながら黙認することとなります。

 この弱体化を避けるには先述のボーナスタイムに第一戦車軍団を壊滅させるか、壊滅に準する成果を上げて装甲師団の負担を可能な限り減らす対応が早急に求められます。Artillery effectはソ連軍戦車軍団の壊滅を約束してくれるほどの比率を示してはいます、しかし第一戦車軍団を執拗に追い回すことは得策と言えないのです。

 支配率Cのグラフを改めてご参照下さい。チル川全戦域の戦線が決壊すれば支配率Aの比率で戦えていた第11装甲師団の利点は雲散霧消し 尚且つ支配率Cの比率での全戦域にまたがる泥沼のような戦いが始まります。この展開は独軍を不利にする選択肢の一つと言えます。

 全戦域を睨み、各戦域のソ連軍主力を働かせる前に制圧砲撃により戦力を削ぐ。その為に独軍 第11装甲師団の所属砲兵は存在していると言ってよいかもしれません。起動防御というと戦車や装甲車の縦横無尽に働く戦況を思い浮かべますが、砲兵部隊の機動こそが「PBS」の本質かもしれない、とも想像します。

PANZER BATTLES / Road March and Barrage

 ターン進行表をまずはご覧下さい。「PBS」の活性化フェイズにおけるセグメントは砲爆撃セグメントから順を追って処理されて行きます。「PBS」に限らず砲撃や航空爆撃などはターンやフェイズの頭に設定されていることが多いですね。小生の勝手な思い込みかもしれませんが、砲兵部隊は砲撃を開始するまでに様々な手順を必要とする部隊でです。砲撃場所の選定から観測情報の処理、砲撃の時間経過も含め、同ターンに移動して同ターンに砲撃する、というゲーム処理がリアリティを感じさせないことも一因でしょう。一連の移動・攻撃の手順から切り離すことで砲撃という破壊兵器の異質感を生み出す事にも成功していると感じます。それに、砲撃で制圧された敵部隊に攻撃を仕掛ける順序がいかにもリアルな感じを生み出します。ゲームの規模やゲームターンの時間設定も関係してきますので、そうとは言い切れないところがこの説の弱い処ですが。

 その点「PBS」はターンの時間経過は2~3日。そして各ターンには両軍合わせて10回の活性化フェイズの処理をするシステムで砲兵をシミュレートします。前章でも書いた記憶がありますが、大隊・中隊規模の砲兵部隊の動きや時間経過のシミュレーションには最適な空間と時間の大きさかも知れません。そして、ここからが本題になりますが、このセグメントの順序が別の強い効果を「PBS」に齎しています。

 少々砲兵から話はずれますが、ユニットが戦力を集中する為にはスタックキングが欠かせず、さらにEZOC(敵支配地域)に入る為には+2の移動力が必要です。攻勢をかける部隊は攻勢地点の近くに戦力の集中を事前に行う必要が生じる状況も増えていくでしょう。移動力の少ない部隊(「PBS」においては歩兵部隊)にこの現象が顕著に現れます。つまり敵歩兵部隊の攻勢予定が、予測しやすいシステムが構築されているのが「PBS」の特徴ともいえます。

 事前に現れた兆候を正確に把握し、迅速に処理をする。若しくは被害を最小限に抑え、傷口を塞ぐ。この機動防禦を担っているのは第11装甲師団の実働部隊である事は明白なのですが、実働部隊が展開し、局地的攻勢をかけるソ連軍を各個撃破してゆく為の地ならしとして、事前制圧砲撃を敢行する為に砲兵部隊は攻勢予測地点にて既に砲撃準備を整えていなければいけないのです。さらに複数の攻勢地点が予測される状況においては、実働部隊を降り分けられない事態も発生するでしょう。そういう時は制圧砲撃のみで攻勢を頓挫させることも考慮しておくべきです。砲兵部隊を有効活用させたいのならば、「PBS」においては、事態が発生する前に状況を読み、事前に必要な場所に必要量の砲兵部隊の配置を完了させるほどの鋭敏さがプレイヤーに必要となります。

 砲兵部隊を活用する為に、情報を吟味し委任された権限の中で賢明な判断を下す……これこそ、「PBS」のデザイナーが当ゲームにおいてシミュレートしたかった Auftragstaktik / 委任戦術の再現ではないでしょうか。

 チル川全域に展開している両軍戦線に対し、いつでも行軍移動が可能なように道路状況を整備しておく、これは両軍が明確に把握しておかなければいけない「PBS」で勝利を掴む為の下準備の一つでしょう。条件さえ揃えば、必要な部隊をどこまでも運ぶことが出来るのですから。全戦域を俯瞰し戦線背後の道路活用状況を把握する。敵部隊の長距離行軍の発生は大規模攻勢の予兆かもしれません。敵砲兵部隊の行軍移動は必要以上に注意を払うべき事象です。

 特に、独軍は注意が必要です。改めて記しますが、砲兵にて事前に攻勢地点を制圧し、第11装甲師団の実働部隊で、砲兵制圧された敵部隊に打撃を与える……この時点で、行軍移動と通常移動を用い砲兵部隊は次の攻勢点へ既に到着し準備に入る。この流れの要点は、敵部隊の損害を最大に実働部隊の損害を最小に抑える事にあります。

Order out of chaos 纏めとして……

 ゲームデザイナーは戦争の力学によって生じた唯一の秩序……戦線という暴力の均衡点を破壊するという目的をもってこの「PANZER BATTLES」というゲームをデザインしている。……非常に僭越な意見ですが小生は強く感じました。

 チル川全域にソ連軍によって齎された新しいOrder(秩序)とChaos(混沌)が独逸軍を呑み込もうとしています。独軍の唯一の希望は第11装甲師団のみ。しかし彼らとても荒れ狂う海原で翻弄される一隻の船のようなもの。竜骨が撓むほどの強風と荒波の中、独逸軍が築き上げたAuftragstaktikという羅針盤を頼りに彼らはソ連軍と言う名の大波に立ち向かいます。

混沌の只中から一握の秩序を掴み挙げるのはどちらの軍となるのでしょうか。

紙数が尽きました。

これにて「Panzer Battles」考察4 最終回と致します。

最後までお読み下さり、誠に有難う御座いました。

ブログ「歴史の探求」様に非常に示唆に富んだ知識を頂きました。有難う御座いました。参考文献 / 歴史の探求

当考察の作成資料に興味のある方はこちらを(未整理でお見苦しい処も御座います。ご容赦を)

付録の章 PANZER BATTLES / Design of Survivabillity

 「PBS」において装甲師団・戦車軍団・機械化軍団は主役級の扱いですが、部隊そのものの攻撃値は高くても歩兵部隊と比較すると防禦値は相対的に「脆い」造りになっています。

 その数値差の基礎には「抗堪性」がデザインされているのだろう、との推測が小生の主張です。

 「抗堪性」とはご存知のとおり、被攻撃時において自軍の持つ攻撃力や機能を維持する能力(部隊の粘り強さ、とも言えるでしょうか。)を表わしています。詳細の説明の前に下記の表をご覧ください。「PBS」に登場する各師団・軍団の攻防値の平均を表示しており、その比率を「抗堪値」という切り口で数値化してみました。

ソ連軍攻撃値防禦値抗堪値
第一戦車軍団53581.09
第五機械化軍団64851.33
親衛・独立部隊611201.97
第4親衛狙撃兵師団57931.63
第333狙撃兵師団49901.84
第119狙撃兵師団46891.93
独逸軍攻撃値防禦値抗堪値
第11装甲師団1061191.12
第336歩兵師団611552.54
第7野戦空軍師団471392.96

 「抗堪値」ともっともらしく呼称していますが、単に防禦値を攻撃値で除算した数値であり、意味的にはその部隊の攻防値の乖離度を表わしているに過ぎません。小生は攻防値の乖離度が高いほど「抗堪値」の高低が数値化できるのではないか、と想定しました。証左になるのかは不明ではありますが明確に機械化部隊と歩兵部隊には数値差が表れていることも事実です。以下は仮定ではありますが、続けたいと思います。

 機械化部隊《「第一戦車軍団(1.09)」「第五機械化軍団(1.33)」 「第11装甲師団(1.12)」》の「抗堪性」は低くデザインされているのがお解りになるでしょうか。半面、歩兵師団・狙撃兵師団と人員を基礎とした部隊は「抗堪値」が高いのが一目瞭然です。特に「独逸軍の336歩兵師団(2.96)」「第7野戦空軍師団(2.54)」の抗堪値は高すぎると感じる程(独軍のこの数値はゲーム上の調整が為されている、と感じます)です。

 なぜ機械化部隊の抗堪値は低いのでしょうか。理由は二つ。まずは「戦術的使用目的が野外決戦兵器の集団である」ことが挙げられます。機械化部隊の定義付けは、「火力はさることながら、展開力(威力浸透・戦線突破・広域における敵包囲網の早期構築等々)に特化する為に「車両を配備した部隊」を機械化部隊と呼称して良いと思われます。拠点防衛等の守備的範囲をカバーする部隊では決してなく、攻撃を受ければ防衛専一の部隊よりも被害を受けやすい性質を持つ点を理解し運用する必要がある部隊です。

 第二の理由は「戦力維持の難易度が高い」ことです。戦車・装甲車等を扱う頻度が高い装甲師団や機械化部隊は歩兵とは違い特殊な兵站を必要とします。膨大な量のガソリン、重い砲弾、交換用のパーツや修理道具類等々そして整備士、と呼ばれる特殊技能を有する兵士たち。戦力を維持する為の補充の種類は多岐に亘ります。勿論、歩兵部隊にも莫大な兵站が必要となりますが、それは装甲師団所属の兵士も同じこと。よって、補充量は歩兵部隊の賄う兵站の比ではないでしょう。その為、限りある兵站を全戦域に展開しなければならない状況において機械化部隊の戦力維持に必要充分な兵站量は頻繁には手に入らなかったのではないでしょうか。兵站充足率が低くなるのは必然です(特殊な理由により、最優先で補充が回される場合もあるでしょうが……)。そして、回復力の低下は慢性化する……、十全たる戦力を発揮できない状況は結果として「抗堪性」が低いとみなしてよいと思われます。

 「PBS」は1ターン「2~3日」の時間経過に相当します。ゲーム上省略されていますが、兵士たちは銃弾や食料の補給を随時受けています。ですが特殊な補充が必要な部隊はどうでしょうか? 過稼働を強いた車両は弾詰りや履帯の損傷など様々な支障に見舞われる可能性が高まります……しかしオーバーホールのような整備を受ける時間的な余裕はなく、放棄を余儀なくされる状況も多くあったのではないでしょうか。……機動防御に奔走する装甲師団は櫛の歯が抜けるように戦力を喪失していたと想定されます。

独ソ戦とは……

莫大な額のマルクと膨大な額のルーブルの結晶が激突し、黄金の血を流した戦い……

纏めに この様な比喩を用いるのは些か気障すぎるでしょうか。

付録の章、最後までお読み下さり、誠に有り難うございました。

次回も、絶版品では無く、現在販売されているゲームの考察を行う予定にしています

もし、次回作も楽しみにして下さるようなご奇特な読者様がおられましたら、今しばらくお待ちください。

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